フェラーリF50は「価値が減らない車」?裁判例から見る高級車売却の税金
「購入したときより値上がりしているフェラーリなら、税務上も価値が減っていないことになるのでしょうか?」
希少なフェラーリやクラシックカーの中には、年数がたつほど市場価格が上昇する車があります。
一般的な自動車は、購入後、使用や年数の経過によって価値が下がっていきます。
しかし、生産台数が限られたスーパーカーやコレクターズカーについては、
- ほとんど走行させていない
- 美術品のように保管している
- 市場価格が購入時より上昇している
- 世界的に希少価値が認められている
といった事情があるため、「普通の車とは違う」と考える方もいるでしょう。
実際に、フェラーリF50などの高級車について、税法上の「使用または期間の経過により減価する資産」に当たるかが争われた裁判例があります。
結論:市場価格が上がっていても、直ちに「減価しない資産」にはなりません
裁判所は、希少性や美的価値があり、市場価格が維持・上昇している車であっても、それだけで税法上の「時の経過により価値が減少しない資産」になるわけではないと判断しました。
重要なのは、個別の車両が実際に値上がりしたかどうかだけではありません。
原則として、
その資産が属する種類について、本来の目的や機能が時間の経過により低下するものか
という観点から判断されます。
自動車の本来的な目的や機能は、走行・運搬などにあります。
そのため、特別な希少価値を持つフェラーリであっても、原則としては「使用または期間の経過により減価する資産」に当たると判断されました。
高級車を売却すると、どのように税金が計算されるのか
個人が所有する車を売却し、譲渡所得の対象となる場合、基本的には次のように利益を計算します。
売却代金 − 取得費 − 譲渡費用 = 譲渡所得の計算上の利益
ここで問題になるのが「取得費」です。
購入時に支払った金額を、そのまま取得費として使えるとは限りません。
自動車のように、使用や期間の経過により価値が減少する資産については、購入価額から保有期間に応じた減価相当額を差し引いて取得費を計算します。
つまり、購入価額がそのまま残るのではなく、
購入価額 − 保有期間中の減価相当額
が、売却時の取得費になります。
取得費が小さくなるほど、税務上の譲渡益は大きくなります。
「値上がりしたのに取得費が減る」という違和感
この仕組みには、直感的に分かりにくいところがあります。
例えば、購入時よりも高く売れた車について、
実際には価値が下がっていないのだから、取得価額を減らす必要はないのではないか
と感じるかもしれません。
今回の裁判でも、納税者側は、対象車両について次のような事情を主張しました。
- 自動車メーカーの歴史上重要なコレクションカーである
- 生産台数が少なく、希少性が高い
- 自動車としての機能だけでなく、美的価値がある
- 希少性や美的価値が価格形成の重要な要素となっている
- コレクションとして保有していた
- 時間がたっても市場価値が低下していない
そのため、一般的な自動車とは異なり、「使用または期間の経過により減価する資産」には該当しないと主張しました。
裁判所は「実際の価格」より「資産の種類」を重視した
裁判所は、個々の資産について、実際に価格が上昇したか、下落したかだけで判断する考え方を採用しませんでした。
税法上、減価する資産かどうかは、原則としてその資産が属する種類ごとに判断します。
裁判所は、次のような考え方を示しています。
その資産の種類について、社会通念上想定される本来的な目的や機能を前提に、その目的や機能が期間の経過により減少していくかを判断する。
個別の車について、
- ほとんど走っていない
- 丁寧に保管されている
- 希少価値が高い
- 市場価格が上昇している
という事情があったとしても、原則的な判断が変わるわけではありません。
自動車は、自動車として使用することを本来の目的とする資産です。
そして、自動車としての機能や効用は、通常、使用や年数の経過によって低下していきます。
そのため、原則として、自動車は「使用または期間の経過により減価する資産」に該当します。
例外はあるが、かなり限定的です
裁判所は、どのような車であっても絶対に例外がない、とまでは述べていません。
個別の資産について、その価値の中心が、本来の機能とは別の部分にあることが社会通念上確立している場合には、例外的に異なる判断がされる可能性があるとしています。
例えば、
- 骨とう品
- 古美術品
- 古文書
- 出土品
- 歴史的遺物
などは、通常の使用価値ではなく、歴史的・美術的・文化的価値が価格形成の中心となっています。
したがって、単に古い道具や物品というよりも、保存・鑑賞・収集の対象として社会的に価値が確立した資産です。
自動車についても、極めて長期間を経過し、自動車としての機能よりも歴史的・文化的・美術的価値が中心となっていることが社会通念上確立していれば、例外となる余地はあります。
しかし、そのハードルは高いと考えられます。
フェラーリF50でも例外とは認められなかった
今回の対象車両について、裁判所は、美的価値や市場での希少性が価格形成の相当部分を占めていること自体は否定しませんでした。
それでも、
- 自動車としての本来の機能が現在も維持されている
- 製造からの経過期間が、骨とう品や古美術品に類似するほど長いとはいえない
- 自動車本来の機能以外の価値が中心であることが、社会通念上確立しているとはいえない
として、例外には当たらないと判断しました。
つまり、
希少である
美しい
高値で取引されている
コレクション目的で保有している
という事情だけでは、税務上「価値が減らない資産」と認めるには足りないということです。
本人がコレクション目的で保有していても結論は変わらない
納税者側は、対象車両について、美的価値や希少性に着目し、コレクションとして取得・保有したと主張していました。
しかし、裁判所は、所有者本人がどのような目的で保有していたかだけで判断していません。
仮に本人が、
- 投資目的
- 鑑賞目的
- コレクション目的
- 資産保全目的
で保有していたとしても、その主観だけで税法上の資産区分が変わるわけではありません。
重視されるのは、その車が社会一般からどのような資産として認識されているかです。
したがって、
自分は車として使っていない
美術品として保管していた
という説明だけでは、減価しない資産であることの根拠としては不十分です。
「市場価格」と「税法上の減価」は別の話です
この裁判例で最も重要なのは、
市場価格が上がることと、税法上「減価する資産」であることは両立する
という点です。
一般に「価値」という言葉を使うと、市場価格を思い浮かべます。
しかし、税法上の減価は、必ずしも実際の市場価格の下落だけを意味しているわけではありません。
自動車としての機能や効用が時間とともに低下する資産類型である以上、実際の取引価格が上昇していても、税法上は減価する資産として扱われることがあります。
例えば、限定車の人気が高まり、購入時より高値で売却できたとしても、
値上がりしたから減価償却の対象ではない
とは直ちにいえません。
市場での希少価値と、税法上の減価資産の判定は、分けて考える必要があります。
高級車を売却する前に確認したいポイント
フェラーリ、ポルシェ、ランボルギーニなどの希少車を個人で売却する場合には、売却後ではなく、売却前に税務上の計算を確認しておくことが重要です。
購入時の書類を保存しているか
取得費を証明するためには、次のような資料が重要です。
- 購入契約書
- 請求書
- 領収書
- 振込記録
- 輸入時の書類
- 購入時に支払った付随費用の資料
購入価額を証明できなければ、取得費の計算で不利になる可能性があります。
保有期間を確認する
取得費から差し引く減価相当額は、保有期間によって変わります。
購入日と売却日が分かる資料を確認し、保有期間を正確に把握する必要があります。
私用車か事業用車かを区分する
今回の裁判は、個人が所有していた車両の譲渡所得に関する事案です。
事業用の車両や法人所有の車両では、減価償却、帳簿価額、売却益の計算方法が異なります。
- 個人の私用車
- 個人事業の事業用車
- 法人名義の車
- 私用と事業用の兼用車
のどれに当たるかを、最初に整理する必要があります。
市場価格が上昇していても、購入価額をそのまま取得費にしない
購入時より高く売れたからといって、購入価額全額を当然に取得費として使えるとは限りません。
自動車が税法上の減価する資産に当たる場合には、保有期間に応じた減価相当額を差し引く必要があります。
ここを誤ると、譲渡所得を少なく申告してしまう可能性があります。
売却前に譲渡所得を試算する
高級車や希少車は、売却金額が数千万円から数億円になることがあります。
取得費の計算方法が変わるだけで、課税所得や税額が大きく変わる可能性があります。
売却代金を受け取った後ではなく、売却を決める段階で、
- 売却予定額
- 取得価額
- 保有期間
- 減価相当額
- 譲渡費用
- 他の所得や損失との関係
を確認しておくことが重要です。
希少車なら必ず美術品扱いになるわけではない
高級車の中には、「動く美術品」と表現される車があります。
しかし、一般的な表現として「美術品」と呼ばれることと、税法上、時の経過によって価値が減少しない資産に該当することは別です。
今回の裁判例から考えると、例外的な扱いを主張するためには、少なくとも、
- 極めて長い期間にわたり価値を維持している
- 自動車としての実用性より歴史的・文化的価値が中心である
- 社会一般に収集・鑑賞の対象として認識されている
- 個人の主観ではなく、社会通念上その評価が確立している
といった事情が必要になると考えられます。
単に生産台数が少ない、価格が高い、人気があるというだけでは、例外として認められるとは限りません。
まとめ:値上がりしていても「減価しない資産」とは限りません
希少なフェラーリやコレクターズカーが購入時より高値で売却できたとしても、それだけで税法上「時の経過により価値が減少しない資産」になるわけではありません。
今回の裁判例では、
- 美的価値がある
- 希少性が高い
- 市場価格の形成に希少価値が影響している
- コレクション目的で保有していた
- 自動車としての機能が維持されている
という事情がありました。
それでも、裁判所は、対象車両を自動車という資産類型から切り離し、骨とう品や古美術品と同様に扱うことはできないと判断しました。
この裁判例から分かる重要なポイントは、次のとおりです。
- 実際の市場価格と税法上の減価は別の問題である
- 購入時より値上がりしていても、取得費から減価相当額を差し引くことがある
- 希少性や美的価値だけでは、減価しない資産とは認められにくい
- 所有者本人のコレクション目的だけでは判断は変わらない
- 高額車両は売却前に譲渡所得を試算する必要がある
高級車の売却では、取得費の計算を誤ると、申告所得や税額に大きな差が生じます。
売却後に処理を検討するのではなく、売却契約を結ぶ前に税理士へ確認することをおすすめします。
今回参照した裁判例
東京高等裁判所令和5年(行コ)第90号
所得税更正処分等取消請求控訴事件
- 判決日:令和5年11月30日
- 結論:控訴棄却
- 税務訴訟資料:第273号
- 国税庁訴資番号:Z273-13908
- 原審:令和5年3月9日
- 上告審:令和6年6月27日
- 最終結果:上告棄却・上告不受理
本件では、フェラーリF50などの車両が「使用または期間の経過により減価する資産」に該当するかに加え、外貨預金から生じた為替差損益の所得区分や取得原価の計算方法についても争われました。
本記事では、このうち高級車の譲渡所得と取得費に関する判断を取り上げています。
今回参照した主な法令
- 所得税法第38条第2項
- 所得税法第49条第1項
- 所得税法施行令第6条
※本記事は、上記裁判例を題材として、高級車の売却に関する一般的な税務上の考え方を分かりやすく解説したものです。実際の取扱いは、車両の取得目的、使用状況、保有期間、事業供用の有無、取得価額、売却金額その他の事情によって異なります。個別の申告については、売却前に顧問税理士等へご確認ください。
Author Profile
-
起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。




