社員旅行は福利厚生費になる?「研修旅行」でも給与課税された裁判例

福利厚生費VS給与課税

社員旅行は福利厚生費になる?「研修旅行」でも給与課税された裁判例

「従業員の旅行代を会社で負担したいのですが、研修旅行ということにすれば福利厚生費で処理できますか?」

社員旅行や従業員への旅行補助を検討する際、このように考える経営者の方もいるかもしれません。

旅行後にレポートを提出してもらい、

  • 接客サービスを学ぶため
  • 従業員の視野を広げるため
  • 会社の業績向上につなげるため

といった目的を掲げれば、会社の研修費として認められそうにも思えます。

しかし、税務上の取扱いは、会社が付けた名称だけでは決まりません。

実際に、「社員研修旅行」として会社が負担した旅行費用について、従業員への給与に当たると判断された裁判例があります。

結論:「研修旅行」という名前や報告書だけでは足りません

会社が社員旅行の費用を負担しても、その旅行が社会通念上一般的な福利厚生行事の範囲内であれば、参加した従業員に給与課税しなくてよい場合があります。

また、会社の業務を遂行するために直接必要な研修であれば、会社が負担した研修費用が従業員への給与に当たらない場合もあります。

一方で、旅行の実態が従業員個人やその家族の私的旅行である場合、会社が負担した金額は、従業員が会社から受けた経済的利益として給与課税される可能性があります。

判断されるのは、次のような旅行の実態です。

  • 誰が旅行を企画したのか
  • 旅行先や行程を誰が決めたのか
  • 誰が参加したのか
  • 旅行の目的は何だったのか
  • 従業員の職務と直接関係していたか
  • 会社と従業員がそれぞれいくら負担したか

「研修旅行」「福利厚生費」という名称を付けたり、形式的な申請書や報告書を作成したりするだけでは、税務上の結論を変えることはできません。

実際に給与課税された「社員研修旅行」

今回取り上げるのは、福岡地方裁判所平成21年2月19日判決です。

この会社は、従業員に「社員研修旅行」を実施させ、旅行代金の一部を負担していました。

ただし、一般的な会社主催の社員旅行とは、かなり異なる仕組みでした。

従業員は、会社が指定した旅行代理店を通じて計画を立てるよう指示されていましたが、旅行先や行程は自分で自由に決めることができました。

また、原則として2親等以内の親族を同伴し、主として休日や休日の前後に旅行していました。

会社が負担した金額は、年度や従業員の入社年次、職位などに応じて、1万円から4万4,000円でした。

会社は「業績向上のための研修」と主張した

会社側は、この旅行について、単なる家族旅行ではなく、会社の業績向上を目的とする研修旅行であると主張しました。

具体的には、次のような事情を挙げています。

  • 従業員の士気を高め、会社の活力を向上させる目的があった
  • 他業種の接客やサービスを体験し、接客技術を磨く目的があった
  • 旅行前に研修旅行申請書を提出させていた
  • 旅行後に研修参加報告書を提出させていた
  • 旅行への参加は会社の指示によるものだった

確かに、申請書や報告書まで作成していれば、形式上は研修旅行のようにも見えます。

しかし、裁判所は、こうした名称や書類だけではなく、実際にどのような旅行が行われていたのかを確認しました。

裁判所は3つの角度から「給与課税」を判断した

この裁判では、会社が負担した旅行費用について、主に次の3つの可能性が検討されています。

  1. 一般的な福利厚生行事に当たるか
  2. 職務上必要な旅費に当たるか
  3. 会社の業務に直接必要な研修費に当たるか

裁判所は、いずれにも当たらないと判断しました。

1.一般的な福利厚生行事とは認められなかった

会社が負担する社員旅行について、一定の場合に給与課税しなくてよいとされるのは、会社主催の一般的なレクリエーション行事として行われるためです。

今回の旅行では、従業員がそれぞれ旅行先や行程を自由に決めていました。

会社全体で同じ旅行先へ行くのではなく、各従業員が自分や家族の希望に応じて、別々の旅行を企画していたのです。

裁判所は、各旅行について、従業員自身が企画者、主催者、参加者であると評価しました。

さらに、会社による補助の対象には、交通費や宿泊費だけでなく、遊園地等の入場料、フリーパス券、食事代、旅行保険料など、旅行中の幅広い費用が含まれていました。

そのため、会社主催の一般的な福利厚生行事ではなく、従業員の私的旅行に対する費用補助という性格が強いと判断されました。

2.職務を遂行するための旅行ではなかった

出張など、従業員が勤務場所を離れて職務を遂行するための旅行については、通常必要と認められる旅費が給与課税されないことがあります。

しかし、今回の旅行は、従業員が休日等を利用し、観光地へ旅行するものでした。

従業員が会社の職務を遂行するために出張したものではありません。

そのため、裁判所は、非課税となる職務上の旅費にも当たらないと判断しました。

3.会社の業務に直接必要な研修ではなかった

会社は、旅行を通じて他業種の接客サービスを体験し、従業員の接客技術を向上させる目的があったと主張していました。

しかし、旅行先や行程には、具体的な研修内容が設定されていませんでした。

実際に提出された申請書や報告書にも、

  • 観光
  • 家族の親睦
  • 温泉街のサービスを学ぶ
  • 他業種の接客を体験する

といった内容が記載されていました。

また、旅行に参加した従業員の中には、総務や情報システムなど、接客業務との関係が薄い職種の者も含まれていました。

裁判所は、各従業員の職務と旅行目的との間に、直接の関連性があるとは認められないと判断しています。

判決では、非課税となる研修費について、会社の事業遂行上直接必要なものであり、単なる従業員個人の一般的な資質向上を目的とするものではないことが必要である、という考え方が示されています。

つまり、

「接客を学ぶ」「見聞を広める」「仕事に役立てる」

といった抽象的な目的だけでは、会社の業務に直接必要な研修とは認められにくいということです。

申請書や報告書を作ればよいわけではない

この判決の重要な点は、会社が一定の書類を作成していたにもかかわらず、給与課税されたことです。

会社は、旅行前に申請書を提出させ、旅行後には研修参加報告書を提出させていました。

それでも、旅行の実態が私的な家族旅行であれば、研修費とは認められませんでした。

次のような形式を整えても、それだけで税務上の取扱いが決まるわけではありません。

  • 「社員研修旅行」という名称を付ける
  • 旅行前に申請書を提出させる
  • 旅行後にレポートを書かせる
  • 社内規程に研修目的を記載する
  • 会社の業績向上を目的として掲げる

形式を整えること自体は重要です。

しかし、書類に記載された目的と、実際の旅行内容が一致していなければ、その書類は税務上の説明資料として十分に機能しません。

社員旅行を企画するときに確認したいポイント

社員旅行の費用を会社が負担し、従業員への給与課税を避けたい場合には、旅行を実施した後ではなく、企画段階で内容を検討する必要があります。

会社が旅行を企画・主催しているか

従業員に一定額を補助し、それぞれ好きな旅行へ行かせる方式は、会社行事ではなく私的旅行への補助と判断される危険があります。

福利厚生行事として実施するのであれば、会社が目的地、日程、行程などを決め、会社主催の行事であることを明確にした方がよいでしょう。

広く従業員を対象としているか

特定の役員、成績優秀者、一部の部署だけを対象とする旅行は、一般的な福利厚生行事ではなく、給与や賞与として扱われる可能性があります。

福利厚生として実施する場合には、原則として、広く従業員に参加の機会が与えられていることが重要です。

旅行期間や会社負担額が相当な範囲か

旅行期間が長すぎる場合や、会社の負担額が著しく高額な場合には、一般的な福利厚生行事の範囲を超える可能性があります。

旅行期間や参加割合だけで機械的に判断するのではなく、会社の規模、旅行先、行程、費用、会社と従業員の負担割合などを総合的に検討する必要があります。

家族分の費用を区分しているか

従業員の家族が旅行に同行する場合、家族分の旅行費用まで会社が負担すると、従業員本人が会社から経済的利益を受けたと判断されやすくなります。

家族分は従業員の自己負担とし、従業員本人分と明確に区分しておく方が安全です。

研修旅行なら、職務との関係が具体的か

本当に研修を目的とするのであれば、「接客を学ぶ」「視野を広げる」といった抽象的な説明だけでは不十分です。

少なくとも、次の内容を具体的に説明できる状態にしておく必要があります。

  • 誰が研修に参加するのか
  • その従業員のどの職務に必要なのか
  • どこで、誰から、何を学ぶのか
  • 研修時間はどの程度あるのか
  • 観光部分と研修部分を区分できるか
  • 研修内容を業務にどう反映するのか

旅行の主な内容が観光であり、短時間の見学や形式的なレポートだけを加えた場合には、旅行全体が研修費として認められるとは限りません。

「会社の経費」と「従業員への給与課税」は別の問題です

ここは、特に誤解されやすい点です。

会社が支払った旅行代について、

  • 会社側で費用として計上できるか
  • 従業員側で給与課税されるか

は、別の問題です。

会社の帳簿に費用として計上されていたとしても、その支出が従業員への給与や賞与に当たれば、会社には源泉所得税を徴収し、納付する義務が生じることがあります。

今回の裁判でも、社員旅行費用などが従業員への給与に当たるとして、会社に源泉所得税の納税告知処分と不納付加算税の賦課決定が行われました。

したがって、

「会社が支払ったから福利厚生費」

「会社の経費にしたから従業員には課税されない」

と単純に考えることはできません。

会社側の経理処理だけでなく、従業員が会社から経済的利益を受けていないかまで確認する必要があります。

まとめ:税務で見られるのは「名称」ではなく「実態」です

社員旅行の費用を会社が負担した場合でも、旅行の実態が従業員個人やその家族の私的旅行であれば、会社負担額が従業員への給与として課税される可能性があります。

特に、次のような場合には注意が必要です。

  • 従業員が旅行先や行程を自由に決められる
  • 従業員ごとに別々の旅行をする
  • 家族旅行として実施されている
  • 会社は一定額を補助するだけである
  • 研修目的が抽象的である
  • 申請書や報告書の内容が観光や親睦にとどまっている
  • 従業員の職務と旅行内容に直接の関係がない

「研修旅行」「福利厚生費」という名称を付けることよりも、誰が企画し、誰が参加し、どのような目的と行程で実施したのかが重要です。

社員旅行や研修旅行を予定している場合は、旅行後に経理処理を考えるのではなく、企画段階で税理士に確認することをおすすめします。

今回参照した裁判例

福岡地方裁判所平成19年(行ウ)第60号

源泉所得税納税告知処分等取消請求事件

  • 判決日:平成21年2月19日
  • 結論:一部却下・その余棄却
  • 確定の有無:確定
  • 税務訴訟資料:第259号-32
  • 国税庁訴資番号:Z259-11145

本件では、社員研修旅行のほか、赴任旅費、報奨賞品、人間ドック費用などが、従業員または役員への給与所得に当たるかも争われました。本記事では、このうち社員研修旅行に関する判断を取り上げています。

判決中で参照された主な法令・通達

  • 所得税法第28条第1項
  • 所得税法第36条第1項
  • 所得税基本通達36-30
  • 所得税基本通達9-15

※本記事は、上記裁判例を題材として、一般的な税務上の考え方を分かりやすく解説したものです。実際の取扱いは、旅行の対象者、目的、行程、参加割合、会社負担額、社内規程その他の事情によって異なります。個別の処理については、顧問税理士等にご確認ください。

Author Profile

末廣 大地
起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。