個人事業主の節税、やりすぎ注意|融資・住宅ローンで損しないための考え方

「今年はしっかり経費を計上して、税金をかなり抑えられた」——そう安心していたのに、いざ事業融資や住宅ローンを申し込んだら「所得が少なすぎる」と言われて戸惑った経験はありませんか。
あるいは、これから節税に取り組もうとしていて、「頑張りすぎると何か困ることがあるのでは」と漠然とした不安を感じている方もいるかもしれません。

節税に関する情報の多くは「どうやって税金を減らすか」に焦点を当てています。
もちろんそれ自体は大切なのですが、個人事業主の場合、節税で下がった数字がそのまま別の場面で自分に返ってくることがあります。
ここでは、節税と資金計画をどう両立させればよいか、順を追って整理していきます。

なぜ「節税を頑張った人」ほど融資で困りやすいのか

原因はシンプルで、銀行や金融機関が個人事業主の融資審査で見ているのは、売上(年商)ではなく確定申告書に記載された「所得金額」だからです。
所得金額とは、売上から必要経費を差し引いた後に残る利益のことで、青色申告決算書や収支内訳書(確定申告時に売上・経費の内訳をまとめて提出する書類)に記載されます。

節税策の多くは、経費を計上したり所得控除を増やしたりすることで、この所得金額そのものを圧縮する仕組みです。
つまり、節税を頑張れば頑張るほど、確定申告書の上では「利益が出ていない事業主」に見えてしまうという、なんとも皮肉な構造があるわけです。
実際、掛金を多く積み立てるタイプの共済制度などを使うと、売上は変わらないのに申告上の所得だけが大きく下がるケースもあります。

金融機関の多くは、審査の際に過去3年分程度の確定申告書をさかのぼって確認するとされています。
単年だけでなく数年分の推移を見られるため、「直前の1年だけ所得を大きく見せる」といった小手先の対応では、かえって不自然な変動として映りかねません。

節税と資金計画を両立させる3つの手順

ステップ1: 今後数年の資金計画を先に洗い出す

まず取り組みたいのは、節税策を選ぶ前に「今後数年の間に、まとまった借り入れの予定があるかどうか」を確認することです。
住宅の購入、事業用の設備投資、車両の購入など、融資や住宅ローンを利用する可能性があるなら、その時期を先におおまかに見積もっておきましょう。
予定がなければ、節税を優先しても問題は起きにくいはずです。

ステップ2: 節税策を「所得を圧縮するもの」と「そうでないもの」に仕分ける

次に、検討している節税策が所得金額そのものを下げるタイプかどうかを整理します。
経費の計上や、掛金の大きい共済への加入は、確定申告書の所得金額の欄を直接押し下げます。
一方で、ふるさと納税の寄付金控除は所得金額が確定した後で差し引かれる仕組みのため、青色申告決算書等に記載される事業所得の金額そのものへの影響はありません。
同じ「節税」でも、確定申告書の所得欄に与える影響は制度によって異なるため、まずはこの違いを知っておくことが判断の土台になります。
なお、具体的にどんな節税策があるかは節税の基本と失敗しない考え方でも整理していますので、あわせて確認してみてください。

ステップ3: 融資を検討する時期から逆算して申告のスタンスを切り替える

住宅ローンや事業融資の利用を具体的に考え始めたら、そこから申告のスタンスを見直すタイミングです。
過去数年分の所得が審査対象になりやすいことを踏まえると、直前の1年だけ対応しても間に合わないことがあります。
融資の予定が見えてきた段階で、経費計上や共済の掛金額を見直し、無理のない範囲で所得をきちんと計上する申告に切り替えていくのが安全でしょう。
経費計上や控除の具体的な使い方は税金対策の具体策にまとめていますので、切り替えの際の参考にしてください。

つまずきやすいポイント・よくある誤解

「売上さえあれば審査は通る」という誤解

売上が大きくても、経費や控除で所得金額が小さければ、金融機関には「利益が出ていない事業」として映る可能性があります。
審査で見られているのは売上ではなく所得金額だという点を、まず押さえておく必要があります。

「節税は多ければ多いほど得」という誤解

節税による手取りの増加と、将来の借入可能額は、いわばトレードオフの関係にあります。
目先の税負担だけを見て節税策を積み上げると、いざという時の資金調達力を狭めてしまうことがあるため、両方を天秤にかけて判断する視点が欠かせません。

確定申告の内容に誤りがある場合は早めの修正を

過去の申告内容に誤りやヌケがあると気づいた場合は、放置せず速やかに修正申告をしておくことが望ましいとされています。
融資審査の直前に慌てて対応しようとすると、かえって印象を悪くしかねません。

税理士など専門家への相談も選択肢に

どの節税策が自分の資金計画に合っているかは、事業の状況や借入の予定によって変わります。
判断に迷う場合は、税理士など専門家に早めに相談しておくと、節税と資金調達の両立がしやすくなるでしょう。

まとめ

節税は税負担を軽くする有効な手段ですが、個人事業主の場合、所得金額を下げすぎると融資や住宅ローンの審査で不利に働くことがあります。
今後の資金計画を先に確認し、節税策の性質を見極めながら、必要なタイミングで申告のスタンスを切り替えていくことをおすすめします。

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末廣 大地
起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。