不動産賃貸業は、家賃収入が毎月入る比較的安定した事業に見えます。
しかし税務上は、単純に「家賃を売上にして、支払ったものを経費にする」だけでは済みません。
特に、不動産賃貸業では、
・家賃、更新料、敷金などをいつ収入にするか
・個人の場合に事業的規模に該当するか
・修繕費として一括経費にできるか、資本的支出として減価償却すべきか
・土地と建物の取得価額をどう分けるか
・住宅、店舗、駐車場の消費税区分をどう判断するか
・居住用賃貸建物の取得時に消費税の仕入税額控除ができるか
といった、不動産賃貸業特有の論点が多くあります。
また、最近は都市部を中心に賃料・地価が上昇する一方、地方や築古物件では空室リスクも大きく、金利上昇によるキャッシュフロー悪化にも注意が必要です。
相談者
不動産賃貸業を営んでいます。
最近の業況や、税務上の注意点、税務調査でよく聞かれることを教えてください。
税理士
不動産賃貸業は、業況面では都市部と地方、築浅と築古でかなり差が出ています。
都市部では賃料や地価が上がっている一方で、地方や築古物件では空室リスクが引き続き大きい状況です。
税務上は、家賃収入の計上時期、修繕費と資本的支出、減価償却、借入金利子、消費税区分が特に重要です。
税務調査では、賃貸借契約書、管理会社の精算書、入金口座、会計帳簿、申告書が一致しているかを物件ごとに確認されやすいです。
不動産賃貸業の最近の業況と動向
2026年8月時点の不動産賃貸市場は、全国一律に好況というより、都市部を中心とした賃料・地価上昇と、地方・築古物件を中心とした空室リスクが併存する二極化した状況と整理するのが適切です。
2026年地価公示では、全国平均で住宅地・商業地を含めて5年連続の上昇となり、特に東京・大阪などの都市部では上昇基調が続いています。
賃貸住宅についても、主要都市では募集家賃の上昇がみられます。一方で、募集賃料と実際に入居希望者が反応する賃料には差があり、家賃を上げればそのまま収益が増えるという単純な状況ではありません。
また、全国の空き家は2023年時点で約900万戸、空き家率13.8%とされ、そのうち賃貸用の空き家も多く存在します。
そのため、不動産賃貸業では、
・賃料を上げられるエリアか
・空室期間が長期化しないか
・修繕費や設備更新費を家賃で回収できるか
・借入金利の上昇に耐えられるか
を物件ごとに確認する必要があります。
相談者
不動産賃貸業は、今は好調と考えてよいのでしょうか?
税理士
都市部や人気エリアでは、賃料や地価の上昇が見られます。
一方で、地方、駅から遠い物件、築古物件では空室リスクもあります。
不動産賃貸業では、単に「家賃が上がっているか」だけではなく、空室率、修繕費、借入金利、入居者の需要を合わせて見なければなりません。
特に借入比率が高い物件では、金利上昇によって手残りが減る可能性があります。
不動産賃貸業の税務上の基本
個人で不動産賃貸業を営む場合、不動産の貸付けによる所得は、原則として不動産所得になります。
不動産所得は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。
根拠となるのは、所得税法26条、所得税法37条です。
法人で不動産賃貸業を営む場合は、法人税法上、益金と損金をもとに所得を計算します。法人の場合も、家賃収入、管理費収入、更新料、礼金、修繕費、減価償却費、借入金利子などを正しく処理する必要があります。
相談者
個人で不動産を貸している場合、これは事業所得になるのですか?
税理士
通常、不動産の貸付けによる所得は、不動産所得です。
いわゆる「5棟10室」基準を満たすと、事業的規模の不動産貸付けとして扱われることがあります。
ただし、事業的規模に該当しても、所得区分が事業所得に変わるわけではありません。
所得区分は不動産所得のままです。
事業的規模に該当することで、青色申告特別控除、青色事業専従者給与、資産損失の取扱いなどに違いが生じます。
事業的規模と5棟10室基準
個人の不動産貸付けでは、「事業的規模」に該当するかが重要です。
所得税基本通達26-9では、建物の貸付けが事業として行われているかどうかについて、社会通念上事業と称するに至る程度の規模かどうかで判断するとされています。
形式的な目安として、
・独立家屋の貸付けがおおむね5棟以上
・アパート等の独立室の貸付けがおおむね10室以上
であれば、特に反証がない限り、事業として行われているものとして取り扱われます。
ただし、これは不動産所得が事業所得になるという意味ではありません。
あくまで、不動産所得の中で「事業的規模」として扱われるかどうかの基準です。
相談者
5棟10室に該当すると、何が変わりますか?
税理士
主に、青色申告特別控除、青色事業専従者給与、資産損失などの取扱いが変わります。
たとえば、家族に給与を支払う場合でも、事業的規模かどうかで取扱いが変わります。
また、建物の取壊しや災害などで損失が出た場合の処理にも影響します。
そのため、物件数、部屋数、貸付状況を毎年確認しておくことが重要です。
家賃収入・更新料・敷金の収入計上時期
不動産賃貸業では、家賃をいつ収入にするかも重要です。
家賃は、単に入金された日に収入にするのではなく、原則として契約上の支払日に収入計上します。
たとえば、12月分家賃の支払日が12月末で、実際の入金が翌年1月になった場合でも、契約上12月に支払期日が到来していれば、当年分の収入として処理する必要があります。
また、更新料、名義書換料、権利金なども収入になります。
一方、将来返還すべき通常の敷金や保証金は、預かっただけでは収入ではありません。退去時に原状回復費へ充当するなど、返還不要となった部分について収入計上を検討します。
相談者
家賃は、実際に入金されたときに売上にすればよいですか?
税理士
必ずしも入金日基準ではありません。
家賃は、原則として契約上の支払日に収入計上します。
そのため、滞納家賃がある場合でも、契約上支払日が到来しているものは収入計上が必要になることがあります。
税務調査では、賃貸借契約書、管理会社の精算書、入金口座、帳簿の金額が一致しているかを確認されます。
修繕費と資本的支出
不動産賃貸業で最も重要な税務論点の一つが、修繕費と資本的支出の区分です。
修繕費であれば、原則としてその年またはその事業年度の経費になります。
一方、資本的支出に該当する場合は、一括で経費にするのではなく、資産計上して減価償却を通じて費用化します。
所得税基本通達37-10では、固定資産の価値を高め、または耐久性を増す部分は資本的支出とされています。
一方、所得税基本通達37-11では、通常の維持管理や原状回復のための支出は修繕費とされています。
たとえば、
・壊れた給湯器を同程度のものに交換
・雨漏り箇所を従来どおり補修
・外壁を通常の状態に戻す補修
であれば、修繕費方向の判断になります。
これに対して、
・間取りを大幅に変更
・用途変更を伴う改装
・従来より著しく性能の高い設備へ更新
・建物の価値や耐久性を明らかに向上
する場合は、資本的支出となる可能性が高くなります。
相談者
外壁工事や設備交換は、全部修繕費で落としてよいですか?
税理士
請求書に「修繕工事」と書いてあっても、税務上そのまま修繕費になるとは限りません。
税務上は、工事の実質で判断します。
通常の維持管理や原状回復であれば修繕費になり得ます。
しかし、建物の価値を高めたり、耐久性を増したり、用途変更や大幅改装を伴ったりする場合は、資本的支出として資産計上する必要があります。
金額が大きい工事については、見積書、工事明細、工事前後の写真、故障状況、性能比較資料を必ず保存してください。
20万円基準・3年周期基準・60万円基準
修繕費と資本的支出の区分が明らかでない場合には、形式基準も重要です。
所得税基本通達37-12では、1つの修理、改良等の金額が20万円未満の場合や、おおむね3年以内の周期で行われる修理等については、修繕費として処理できる取扱いがあります。
また、区分が明らかでない場合には、60万円未満または前期末取得価額のおおむね10%以下であれば修繕費として処理できる基準もあります。
ただし、これらは何でも修繕費にできる魔法のルールではありません。
高額な工事や、明らかに価値を高める工事については、実態に基づく判断が必要です。
土地と建物の取得価額の区分
不動産購入時には、土地と建物の取得価額を正しく区分する必要があります。
土地は減価償却できません。
一方、建物や建物附属設備は、耐用年数に応じて減価償却します。
そのため、土地と建物の按分割合によって、毎年の減価償却費が大きく変わります。
また、消費税でも、土地の譲渡は非課税である一方、建物の譲渡は原則として課税取引です。
一棟物件を購入した場合には、売買契約書の金額区分、固定資産税評価額、鑑定評価、消費税額の記載など、客観的な資料に基づいて土地建物を区分する必要があります。
相談者
建物部分を大きくすれば、減価償却費が増えて節税になりますよね?
税理士
建物割合を大きくすれば減価償却費は増えます。
しかし、合理的な根拠なく建物割合を大きくするのは危険です。
税務調査では、土地と建物の按分根拠を確認されます。
売買契約書、固定資産税評価額、鑑定評価、建物の築年数や状態などと整合しない場合、恣意的な按分として問題になる可能性があります。
中古物件の減価償却
中古建物を取得した場合には、中古資産の耐用年数を用いることがあります。
一般的には、
・法定耐用年数を全部経過している場合
法定耐用年数の20%
・法定耐用年数の一部を経過している場合
残存法定耐用年数+経過年数の20%
という簡便法があります。
ただし、中古物件であれば常に簡便法でよいわけではありません。
相続で取得した物件、個人から法人へ移転した物件、大規模な改良をした物件などでは、個別判断が必要です。
借入金利子と損益通算
賃貸物件を購入するための借入金利子は、原則として不動産所得の必要経費になります。
しかし、個人の場合には、不動産所得が赤字となったときに注意が必要です。
租税特別措置法41条の4により、不動産所得の赤字のうち、土地等を取得するための借入金利子に相当する部分は、給与所得など他の所得との損益通算が制限されます。
たとえば、不動産所得が300万円の赤字で、そのうち土地取得借入金利子に相当する部分が100万円ある場合、300万円全額を給与所得などから差し引けるとは限りません。
物件取得時から、
・借入金の総額
・土地取得分
・建物取得分
・自己資金
・借換えの内容
を追跡できるようにしておく必要があります。
相談者
不動産所得が赤字なら、給与所得から全部引けるのですか?
税理士
必ずしも全部引けるわけではありません。
個人の不動産所得が赤字の場合、土地等の取得に対応する借入金利子に相当する部分は、損益通算が制限されます。
不動産投資で赤字を作れば給与の税金が減る、という単純な理解は危険です。
住宅家賃・店舗家賃・駐車場の消費税
不動産賃貸業では、消費税区分が非常に重要です。
基本的な整理は次のとおりです。
・通常の住宅家賃
非課税
・住宅の共益費、管理費で住宅と一体のもの
原則として非課税
・店舗家賃
課税
・事務所家賃
課税
・倉庫など事業用賃貸
原則として課税
・土地そのものの貸付け
原則として非課税
・月極駐車場
原則として課税
・住宅と一体の一定の駐車場
非課税となる場合あり
・ホテル、旅館、民泊、一定の短期貸付
課税となる場合あり
住宅家賃が中心のオーナーでも、駐車場収入、店舗家賃、自動販売機設置料、太陽光売電、携帯基地局設置料、建物売却などがあると、消費税の課税取引が生じることがあります。
相談者
住宅の家賃は消費税が非課税なので、不動産賃貸業は消費税を気にしなくてよいですか?
税理士
それは危険です。
住宅家賃そのものは非課税でも、店舗、事務所、倉庫、月極駐車場、太陽光売電、自動販売機設置料、建物売却などがあると、課税売上が発生します。
また、住宅と店舗が混在する物件では、共通経費の仕入税額控除の計算も問題になります。
不動産賃貸業では、物件ごと、用途ごとに消費税区分を整理する必要があります。
居住用賃貸建物の仕入税額控除制限
一定の高額な居住用賃貸建物を取得した場合には、建物取得時の消費税について、仕入税額控除が制限されます。
消費税法30条10項により、一定の「居住用賃貸建物」の取得等については、原則として仕入税額控除ができません。
その後、一定期間内に課税賃貸へ転用したり、建物を売却したりした場合には、消費税法35条の2による調整が生じる可能性があります。
金額が非常に大きくなりやすいため、居住用賃貸建物を取得・建築する場合には、取得前の段階で消費税シミュレーションを行うべきです。
インボイス制度と不動産賃貸業
住宅家賃だけであれば、非課税取引のため、住宅入居者に対してインボイスを発行する必要性は通常大きくありません。
一方で、
・法人向け事務所
・店舗
・倉庫
・月極駐車場
などを貸している場合、借主側が仕入税額控除を受けるために、インボイス登録を求めることがあります。
そのため、不動産賃貸業のインボイス登録は、「不動産賃貸業だから必要、不要」と一括で判断するのではなく、課税売上の種類と借主の属性ごとに判断する必要があります。
税務調査でよく聞かれること
不動産賃貸業の税務調査では、物件単位で収入、経費、固定資産、借入金、消費税区分を確認されます。
特に、次のような質問が想定されます。
収入関係
・所有している物件を全部見せてください
・レントロールはありますか
・管理会社からの年間精算書を見せてください
・入金口座はこれ以外にありませんか
・更新料、礼金、駐車場代はどこに計上していますか
・滞納家賃はどう処理していますか
・敷金の返還不要額はどうしていますか
修繕関係
・この工事は具体的に何をしましたか
・工事前後の写真はありますか
・設備の性能は以前と同じですか
・リフォームによって間取りを変えていませんか
・取得直後に行った工事ではありませんか
減価償却関係
・購入価格を土地と建物にどう分けましたか
・その割合の根拠資料はありますか
・建物と建物附属設備をどう区分しましたか
・中古資産の耐用年数をどう計算しましたか
・事業供用日はいつですか
借入金関係
・この借入金はどの物件購入に使いましたか
・土地部分と建物部分の借入金をどう計算していますか
・借換え後も資金使途を追跡できますか
・私的な借入れが混ざっていませんか
消費税関係
・住宅用と事業用をどう区分していますか
・駐車場収入を課税売上にしていますか
・店舗併設物件の共通経費をどう計算していますか
・建物取得時の仕入税額控除はどう処理しましたか
・建物売却時の消費税は計上していますか
家族・同族会社関係
・管理会社は親族会社ですか
・管理料率はどう決めましたか
・実際にどんな管理業務をしていますか
・家族への給与の業務実態はありますか
・社用車、旅費、飲食費は賃貸業とどう関係していますか
税務調査に備えて保存しておきたい資料
不動産賃貸業では、物件ごとに資料を整理しておくことが重要です。
最低限、次の資料は保存しておきましょう。
・登記簿
・売買契約書
・重要事項説明書
・固定資産税精算書
・賃貸借契約書
・レントロール
・管理会社の精算書
・敷金台帳
・固定資産台帳
・土地建物の按分資料
・耐用年数計算資料
・工事見積書
・工事請求書
・工事明細
・工事前後写真
・金銭消費貸借契約書
・返済予定表
・資金使途資料
・消費税の課税区分表
・インボイス
・仕入税額控除計算資料
特におすすめなのは、物件ごとに「物件別税務カルテ」を作ることです。
物件別に、家賃、空室率、修繕費、減価償却費、借入残高、支払利息、課税売上、非課税売上を整理しておくと、税務調査対応だけでなく、経営判断にも使えます。
町田・相模原で不動産賃貸業・法人化・起業を検討している方へ
不動産賃貸業は、個人で続けるべきか、法人化すべきか、消費税の課税事業者になるべきか、インボイス登録すべきか、物件取得前に検討すべき論点が多い業種です。
特に町田・相模原エリアで、賃貸物件の取得、法人化、金融機関からの借入れ、開業届や法人設立後の税務手続きを検討している方は、税務と資金繰りを同時に確認することが重要です。
タクスリンク税理士事務所では、町田・相模原で起業する方向けに、個人事業と法人のどちらが有利か、最適な役員報酬のシミュレーション、補助金・助成金・融資制度の検索、口座開設に使える金融機関検索、開業時に税務署へ提出する税務書類の作成ができる「まちさが起業ナビ」を公開しています。
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また、不動産賃貸業の税務では、物件取得前、修繕工事前、売却前の判断が非常に重要です。
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要点
主な根拠
※本記事は、一般的な税務上の取扱いを解説したものです。実際の判断は、物件の用途、契約内容、工事内容、取得価額、借入内容、消費税の課税区分、インボイス登録状況などにより異なります。申告や物件取得、売却、大規模修繕の前には、個別資料を確認したうえで判断してください。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。
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