国税庁から、スポットワーカーに対する給与の源泉徴収について、日額表「丙欄」の適用を具体的に示すQ&Aが公表されています。
今回のポイントは、「スポットワーカーなら丙欄を使ってよい」という新しいルールができたことではありません。
従来からある所得税法、所得税法施行令、所得税基本通達の考え方について、同じスポットワーカーを複数月にわたって繰り返し雇用するケースにどのように当てはめるのかを、かなり具体的に示したものです。
特に重要なのが、「同じ会社で初回勤務から2か月を経過したら、自動的に丙欄を使えなくなる」という理解ではないことです。
一方で、「月8日以内なら必ず丙欄」という新しい安全基準ができたわけでもありません。
経営者
国税庁から、スポットワーカーの源泉徴収について新しいFAQが出たと聞きました。
これまでの取扱いが変わったのでしょうか?
税理士
法令や通達そのものが改正されて、全く新しい制度ができたということではありません。
今回重要なのは、従来からある「日額表・丙欄」の適用要件を、スポットワークの具体的な働き方に当てはめた事例が示されたことです。
特に、「同じワーカーを同じ会社で複数月にわたって利用している場合でも、勤務実態によっては丙欄を継続して使える」という点が明確になりました。
経営者
同じ人を2か月を超えて雇ったら、丙欄は使えなくなると思っていました。
税理士
そこが今回のFAQで特に重要なところです。
所得税法施行令309条では、一の給与支払者から「継続して二月をこえて」給与の支払を受ける場合には、2か月を超える部分を丙欄の対象から外しています。
ただし、ここでいう「継続して」は、単純に初回勤務日から暦上2か月が経過したかどうかだけで判断するものではありません。
同じ会社で何か月もスポット勤務していても、その勤務実態が通常従業員とは明らかに異なり、日々雇い入れられる働き方と評価できるのであれば、直ちに「継続して給与の支払を受けている」とは扱わない、という考え方が今回具体化されました。
経営者
国税庁の事例では、どのような働き方だったのですか?
税理士
国税庁の事例では、求人の都度、1日単位で雇用契約を締結しています。
給与は時間給で、同じ人を複数回雇用することはあるものの、1か月の勤務日数は最大8日程度です。
一方、その会社に通常勤務している従業員は月20~22日程度働いていました。
このように、スポットワーカーと通常従業員の就業状態が明確に異なっているため、同じ人を複数月にわたって雇用していても、日額表の丙欄を適用できるとされています。
経営者
では、月8日以内なら丙欄にしておけばよいのでしょうか?
税理士
いいえ。
「月8日」という数字は、今回の国税庁の設例に出てきた勤務日数にすぎません。
所得税法、所得税法施行令、所得税基本通達のどこにも、「月8日以内なら丙欄」という基準はありません。
たとえば通常従業員自体が月10日前後しか勤務しない業態で、スポットワーカーが月8日働いているのであれば、「8日対20~22日」という今回の事例と同じ評価になるとは限りません。
勤務日数の絶対値ではなく、通常従業員との就業状態の比較、契約形態、勤務頻度、継続性などを総合して判断します。
甲欄・乙欄・丙欄はどう判断する?
経営者
そもそも、甲欄・乙欄・丙欄の違いがよく分かりません。
税理士
まず、「丙欄の対象となる日雇賃金かどうか」を確認するのが分かりやすいです。
日雇賃金に該当するのであれば、日額表の丙欄を使用します。
丙欄の対象に該当しない給与については、給与の支給方法と扶養控除等申告書の提出状況によって、甲欄または乙欄を判断します。
整理すると、基本的には次のようになります。
月給・月払い等で扶養控除等申告書の提出あり
→ 月額表・甲欄
月給・月払い等で扶養控除等申告書の提出なし
→ 月額表・乙欄
日払い・週払い等でも、日雇賃金には該当せず、扶養控除等申告書の提出あり
→ 日額表・甲欄
日払い・週払い等でも、日雇賃金には該当せず、扶養控除等申告書の提出なし
→ 日額表・乙欄
日雇賃金に該当
→ 日額表・丙欄
つまり、「スポットワーカーだから丙欄」なのではなく、まず税法上の「日雇賃金」に該当するかを判定する必要があります。
経営者
丙欄に該当する場合は、扶養控除等申告書が提出されているかどうかは関係ないのですか?
税理士
丙欄の要件を満たす日雇賃金であれば、扶養控除等申告書の有無によって丙欄か乙欄かを選ぶという構造ではありません。
丙欄の要件から外れた時点で、給与の支給方法と扶養控除等申告書の提出状況を確認し、甲欄または乙欄を判断します。
そのため、スポットワーカーの勤務頻度が高くなってきた企業では、丙欄の継続可否だけでなく、扶養控除等申告書の取得状況も合わせて管理する必要があります。
翌月まとめ払いでも丙欄を使える?
経営者
スポットワーカーの給与は、勤務当日ではなく翌月20日にまとめて支払っています。
この場合でも丙欄を使えるのでしょうか?
税理士
今回の国税庁FAQでは、そのようなケースでも丙欄の適用が認められています。
所得税基本通達185-8では、日々雇い入れられる人について、給与が日または時間によって計算されていれば、実際の支払日が勤務日とは別の日であっても、一定の場合には丙欄を適用することとされています。
ただし、翌月20日に1か月分をまとめて支給する場合でも、月の給与総額に対して丙欄を1回適用するわけではありません。
各勤務日の給与額ごとに丙欄の税額を計算し、その税額を合計して源泉徴収します。
経営者
給与システムでは月単位でまとめて処理しているのですが、それではまずいですか?
税理士
丙欄対象者については注意が必要です。
給与の振込自体は月1回でも構いませんが、源泉徴収税額の計算は勤務日ごとの給与額を基礎に行う必要があります。
そのため給与システム側で、
勤務日
勤務日ごとの給与額
その日の丙欄税額
月内の丙欄税額合計
を管理できる必要があります。
単純に月額給与の合計だけを給与システムへ入力して丙欄計算をしている場合は、運用を見直した方がよいでしょう。
「継続して2か月」はどう判断する?
経営者
3か月、6か月と毎月数日ずつ同じ人に来てもらっている場合はどうなりますか?
税理士
今回のFAQと同様の勤務実態であれば、複数月にわたっているという事実だけで直ちに丙欄が使えなくなるとは限りません。
一方、
毎週決まった曜日に勤務している
毎月15~20日程度勤務している
長期間の勤務シフトがあらかじめ決まっている
通常従業員と同程度の勤務日数になっている
といった場合は、「継続して給与の支払を受けている」と判断されるリスクが高くなります。
所得税基本通達185-9では、一時的に勤務していない日があったとしても、1か月を通じた就業状態が、その会社に専ら雇用されている従業員と同程度であれば、勤務しない日も含めて継続して給与の支払を受けているものとして扱う考え方が示されています。
経営者
2か月以内の契約を延長して、その結果2か月を超えた場合はどうなりますか?
税理士
2か月以内の契約であっても、延長や再雇用によって実質的に継続雇用となり、2か月を超えた場合には、2か月を超える部分から丙欄を使えなくなることがあります。
最初から当然に過去2か月分まで遡って修正するという整理ではありません。
ただし、実際には契約を分けているだけで勤務実態が連続しているようなケースでは、形式だけで判断せず、実態を確認する必要があります。
複数店舗・複数アプリを使っている会社は特に注意
経営者
うちは複数店舗があり、スポットワークサービスも何社か使っています。
店舗ごとに勤務日数を管理すればよいですか?
税理士
店舗単位ではなく、同一の給与支払者単位で確認する必要があります。
たとえば同じ法人のA店で4日、B店で5日働いている場合、店舗ごとに見れば4日と5日ですが、法人全体では9日勤務しています。
また、Aというスポットワークアプリで5日、Bというサービスで4日勤務している場合も、雇用主が同じ法人であれば、同一人物として勤務実績を把握する必要があります。
アプリ単位、店舗単位、求人単位だけで管理すると、同じ人の勤務実態を見落とす可能性があります。
企業が継続的にスポットワーカーを使う場合の管理方法
経営者
実務上、企業側では何を管理しておけばよいでしょうか?
税理士
少なくとも、ワーカー単位で次の情報を管理した方がよいでしょう。
ワーカーID
氏名
勤務日
法人全体での月間勤務日数
勤務店舗
利用したスポットワークサービス
雇用契約単位
勤務日ごとの給与額
扶養控除等申告書の提出状況
さらに、一定の勤務頻度を超えた人を自動的に抽出し、「丙欄を継続してよいか」を再判定できる仕組みにすると安全です。
ここでも「月8日」という数字を形式的な判定基準にはしないことが重要です。
通常従業員との就業状態の比較や、固定シフト化していないかなどを含めて確認してください。
経営者
過去に、初回勤務から2か月たったら機械的に丙欄をやめていた場合はどうすればよいですか?
税理士
今回のFAQによって、「複数月にわたる=自動的に丙欄不可」ではないことが明確になりました。
ただし、だからといって過去分を一律に訂正すればよいということでもありません。
逆に、長期間・高頻度で勤務している人について丙欄を使い続けていた企業も、過去の勤務実態を確認する必要があります。
過去分の修正要否は、勤務頻度、契約内容、通常従業員との比較、扶養控除等申告書の提出状況などによって変わるため、個別判断が必要です。
今回の国税庁FAQをどう理解すべきか
今回のFAQを一言で整理すると、「丙欄について新しい8日ルールができた」のではなく、「従来からある就業実態による判定を、スポットワークに具体的に当てはめた」と理解するのが適切です。
特に企業側では、
「初回勤務から2か月」
「月8日」
「アプリ上では単発勤務」
といった一つの形式だけで判断しないことが重要です。
源泉所得税は、給与の支払者側に徴収・納付義務があります。
スポットワーカーを継続的に利用する企業ほど、勤務履歴と給与計算を法人単位で一元管理し、丙欄から甲欄・乙欄への切替が必要な人を把握できる体制を作っておく必要があります。
町田・相模原で給与・源泉所得税の運用に不安がある方へ
スポットワーカー、アルバイト、パートなどを複数雇用している企業では、給与計算そのものよりも、「どの税額表を使うか」という入口の判定を誤ると、源泉所得税の不足や過大徴収につながります。
特に、複数店舗や複数のスポットワークサービスを利用している場合は、担当者任せにせず、法人全体で勤務履歴を名寄せできる仕組みが重要です。
町田・相模原を中心に、給与・源泉所得税を含む税務顧問をご検討の方は、タクスリンク税理士事務所へご相談ください。
要点
主な根拠
※本記事は、国税庁FAQで示された事例と、所得税法・所得税法施行令・所得税基本通達に基づく一般的な取扱いを解説したものです。実際の適用は、雇用契約、勤務頻度、通常従業員との就業状態、給与支給方法、扶養控除等申告書の提出状況などによって異なります。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。
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