建設業を営む法人では、一般的な経費確認だけでなく、建設業特有の税務論点が多くあります。
特に重要なのは、一人親方・職人への支払いが外注費か給与か、決算をまたぐ工事の売上計上時期、未成工事支出金、インボイス、工事請負契約書の印紙、車両・燃料費の私用混入です。
建設業は、売上も原価も工事ごとに動きます。そのため、請求書や領収書だけを見るのではなく、工事台帳、日報、工程表、検収書、外注先一覧、車両使用状況などを含めて、取引の実態を説明できる状態にしておくことが重要です。
経営者
建設業を営む法人です。
この業界では、税務上どのような点に注意すればよいのでしょうか?
税理士
建設業では、通常の経費確認に加えて、建設業特有の論点が多くあります。
特に重要なのは、完成工事高の期ズレ、未成工事支出金、一人親方・職人への支払いが外注費か給与か、外注費の実在性、インボイス、工事請負契約書の印紙、車両・燃料費の私用混入です。
税務調査でも、このあたりはかなり確認されやすいです。
経営者
最近の建設業の業況は、税務にも関係しますか?
税理士
関係します。
建設業は、仕事量そのものが一律に悪いというより、工種や発注者によって受注の振れが大きく、人手不足と原価管理が引き続き重要な課題になっています。
2026年7月の建設技能労働者8職種の不足率は全国で1.2%不足、9月の確保を「困難・やや困難」とする割合は26.3%とされています。
また、2026年8月の主要資材は、需給についてはすべての調査対象資材で均衡しています。価格についてはH形鋼が「やや上昇」、それ以外の調査対象資材は「横ばい」とされています。
こうした状況では、単に売上高を見るだけでは不十分です。完成工事総利益率、外注費率、労務費率、材料費率、現場ごとの粗利、追加工事、未成工事支出金を確認する必要があります。
経営者
建設業で一番危ない税務論点は何ですか?
税理士
かなり重要なのは、一人親方や職人への支払いです。
請負契約書を作っている、請求書をもらっている、相手が確定申告をしている、というだけでは、必ず外注費になるとは限りません。
税務上は、契約書の形式だけでなく、実際に独立した事業者として仕事をしているのか、それとも会社の指揮命令を受けて労務を提供しているのかを見ます。
経営者
一人親方への支払いが、外注費ではなく給与と判断されることがあるのですか?
税理士
あります。
例えば、毎朝会社に集合し、会社の現場監督が作業方法を指示し、日当×出勤日数で支払い、工具・車両・材料も会社負担で、本人の判断で代替者を連れてくることもできない場合は、外注より給与に近いと見られやすくなります。
反対に、工事区画ごとに一式で請け負い、作業方法は本人が判断し、工具・車両を自己所有し、手直しも自己負担し、他社の仕事も自由に受けているような事情は、独立した事業者性を補強します。
消費税法基本通達1-1-1でも、個人事業者と給与所得者の区分について、代替性、指揮監督、危険負担、材料・用具等の負担などを総合的に判断する考え方が示されています。
経営者
給与と判断されると、法人税だけの問題ですか?
税理士
いいえ。むしろ波及が大きいです。
一人親方への外注費が給与と判断されると、源泉所得税の徴収漏れが問題になります。
さらに、給与は消費税の課税仕入れではありませんので、外注費として処理していた部分の仕入税額控除が否認される可能性があります。
つまり、源泉所得税、消費税、加算税、延滞税まで連動することがあります。
公表裁決でも、職人への支払いについて、契約書上の形式ではなく、独立した事業として行われていたか、指揮監督下の労務提供だったか、基本賃金・時間外手当等による支払だったかなどから、外注費ではなく給与と判断された例があります。
経営者
外注費について、税務調査では何を見られますか?
税理士
外注先別に、かなり細かく確認されます。
氏名、住所、開業状況、インボイス番号、契約書、注文書、注文請書、請求書、振込先、日報、現場への指示方法、工具や材料の負担、車両の所有者、他社との取引状況などです。
また、外注費が同業他社と比べて高い、売上に対して外注費率が急に上がっている、現金払いが多い、同じ外注先に毎月定額で支払っている、といった場合は、重点的に確認されやすくなります。
架空外注費や水増し外注費がないかも、建設業では典型的な確認項目です。
経営者
決算をまたぐ工事は、すべて工事進行基準で売上計上するのですか?
税理士
そうではありません。
法人税法では、一定の長期大規模工事について、工事進行基準により収益・費用を各事業年度に配分する特例があります。
長期大規模工事は、主として契約上の工期が1年以上、請負対価が10億円以上、一定の支払条件を満たす工事です。
したがって、決算をまたぐ工事がすべて工事進行基準になるわけではありません。
通常の中小規模工事では、完成日、検収日、引渡日などに基づく収益計上と、未成工事支出金の整理が重要になります。
経営者
請求書を翌月に出した場合、売上も翌月でよいですか?
税理士
請求書を出した日だけで売上時期を決めるのは危険です。
通常の請負に係る収益は、原則として目的物の引渡し等の日の属する事業年度に計上します。
そのため、3月決算の会社で、3月中に工事が完成し、検収や引渡しも3月に終わっているのに、請求書だけ4月に出したから4月売上にする、という処理は問題になります。
税務調査では、決算日前後の工事について、工程表、日報、完了報告書、検収書、写真、元請の支払通知書などと売上計上日を照合されることがあります。
経営者
未成工事支出金とは何ですか?
税理士
未成工事支出金とは、決算日時点でまだ完成していない工事に対応する材料費、労務費、外注費、現場経費などを資産として繰り越すものです。
完成した工事については、完成工事高と対応する完成工事原価を当期に計上します。
未完成の工事については、売上がまだ立っていないのに原価だけを当期費用にすると、利益を不当に小さくしてしまいます。
そのため、未完成工事に対応する原価は、未成工事支出金として翌期へ繰り越す必要があります。
経営者
未成工事支出金は、税務調査でよく見られますか?
税理士
かなり見られます。
調査では、未完成工事なのに外注費や材料費を当期の完成工事原価に入れていないか、反対に完成済み工事の原価を未成工事支出金に残して利益を操作していないかを確認されます。
工事番号別に、材料費、労務費、外注費、現場経費を集計し、完成工事と未完成工事に分けておくことが重要です。
「今期の利益を下げたいから、未完成工事の外注費を当期原価にする」という処理は危険です。
経営者
未成工事支出金にした材料費や外注費の消費税は、いつ控除するのですか?
税理士
法人税と消費税では、処理時期が必ずしも一致しません。
法人税や会計上、材料費等を未成工事支出金として資産計上していても、消費税では原則として実際に課税仕入れをした課税期間に仕入税額控除を行います。
一方で、未成工事支出金について、工事完成・引渡し時に仕入税額控除を行う処理も、継続適用を条件として認められています。
ここは、法人税の工事原価計上時期と、消費税の仕入税額控除時期がズレ得る重要なポイントです。
経営者
インボイス制度は、建設業にも大きく影響しますか?
税理士
外注比率が高い建設業では、かなり影響します。
一人親方や個人外注先の中には、インボイス未登録の方もいます。
インボイス未登録事業者など、適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れについては、一定期間、仕入税額相当額の一部を仕入税額とみなして控除できる経過措置があります。
2026年度税制改正により、この経過措置は次のようになっています。
| 課税仕入れの時期 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日~2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日~2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日~2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日~2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日以後 | 控除不可 |
従来は2026年10月から50%控除へ縮小する予定でしたが、2026年度税制改正により、2026年10月から2年間は70%、その後50%、30%と段階的に縮小する仕組みに変更されています。
ただし、2026年9月までの80%から、2026年10月以降は70%へ下がること自体は変わりません。
そのため、未登録の一人親方や外注先への支払いが多い建設会社では、2026年10月以降、同じ外注費を支払っていても仕入税額控除できない部分が増え、消費税の実質負担が徐々に大きくなります。
登録を強要するという話ではありませんが、外注先ごとのインボイス登録状況を把握し、原価率、外注単価、消費税負担、資金繰りへの影響を試算しておくことが重要です。
経営者
2026年9月から10月にまたがる外注工事の場合、80%と70%のどちらになるのでしょうか?
税理士
単純に「請求書の日付」や「支払日」だけで決めるわけではありません。
経過措置の割合は、その課税仕入れを行った時期によって判断します。
国税庁のインボイスQ&Aでは、例えば、インボイス未登録事業者から2026年9月21日から役務の提供を受け、その一つの役務が10月20日に完了する場合には、原則として役務の全部が完了した10月20日が課税仕入れの時期となるため、70%控除になるとされています。
一方、商品の仕入れでは、原則として引渡しを受けた日が課税仕入れの時期になります。
そのため、2026年9月30日までに引渡しを受けたものは80%、2026年10月1日以後に引渡しを受けたものは70%という判断になります。
建設業では、外注工事や材料仕入れが9月から10月にまたがることがあるため、「支払った日」だけで判断せず、その取引についていつ課税仕入れを行ったことになるのかを確認する必要があります。
経営者
工事請負契約書の印紙も注意が必要ですか?
税理士
必要です。
建設業では、工事請負契約書だけでなく、注文請書、追加工事契約書、変更契約書、覚書なども印紙税の確認対象になります。
文書のタイトルが「契約書」でなくても、実質的に契約の成立や変更を証明する文書であれば、課税文書に該当することがあります。
また、「写し」と表示していても、双方が署名押印し、契約成立を証明する目的で作成されたものなどは、印紙税の対象になる場合があります。
2027年3月31日までに作成される一定の建設工事請負契約書については、印紙税の軽減措置があります。
経営者
車両や重機の経費も見られますか?
税理士
建設業では車両関連費が大きいため、よく確認されます。
トラック、ダンプ、営業車、現場車両、重機について、法人名義か個人名義か、取得価額、付属設備、減価償却、修理か資本的支出か、売却や下取り時の処理などが確認されます。
また、ガソリン代、ETC、駐車場代、自動車保険、自動車税などについて、役員や家族の私用が混ざっていないかも見られます。
特に社長車や高級車については、「業務上必要です」だけではなく、誰が、いつ、どの現場に、何のために使用したかを説明できる状態にしておくことが安全です。
経営者
スクラップや鉄くずの売却も税務調査で聞かれますか?
税理士
聞かれることがあります。
建設業では、鉄くず、銅線、スクラップ、余剰材料の売却、紹介料、リベート、保険金、補助金、車両や重機の売却代金など、本業以外の入金が発生することがあります。
これらを社長や職人が現金で受け取っている場合、売上や雑収入の計上漏れがないか確認が必要です。
現金受領、個人口座入金、領収書なしの入金は、特に注意が必要です。
経営者
建設業の税務調査では、どのようなことを聞かれますか?
税理士
実務上は、かなり具体的に聞かれます。
例えば、この工事はいつ完成しましたか、完成は何で確認していますか、3月完成なのに4月売上なのはなぜですか、未成工事支出金の内訳を工事別に出してください、といった質問です。
一人親方については、この人は何年くらい御社だけで働いていますか、誰が作業指示をしていますか、休んだ日は報酬が減りますか、道具は誰のものですか、手直し費用は誰が負担しますか、外注先の請求金額は誰が決めていますか、といった質問が想定されます。
また、インボイス番号の確認、注文請書の印紙、追加工事の売上、社長車のETC履歴、鉄くずの売却代金なども確認されることがあります。
必要に応じて、取引先への反面調査が行われることもあります。
町田・相模原で建設業の税務に不安がある方へ
建設業は、工事ごとの売上・原価管理、一人親方への外注費、未成工事支出金、インボイス、印紙税、車両経費など、税務上の確認点が多い業種です。
特に、外注先が多い会社、決算をまたぐ工事が多い会社、工事別の粗利管理が曖昧な会社、社長車や現場車両の経費が大きい会社では、税務調査前に整理しておくべき点が多くあります。
町田・相模原で建設業を営む法人の方は、タクスリンク税理士事務所へご相談ください。
町田・相模原で税理士をお探しなら、タクスリンク税理士事務所へ
また、町田・相模原でこれから建設業として独立・法人成りを考えている方は、起業時に必要な資金繰りや制度情報をまとめた「まちさがビジネスナビ」もご覧ください。
町田・相模原で起業する方向けの情報は、まちさがビジネスナビをご覧ください。
要点
主な根拠
※本記事は、2026年8月31日時点の法令、国税庁、国土交通省等の公表情報をもとに、建設業法人に多い税務上の論点を一般的に解説したものです。実際の判断は、工種、契約内容、現場実態、外注先との関係、工事台帳、証憑保存状況、消費税の計算方法などにより異なります。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。
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