契約書に「用途を問わない」と書けば消費税は還付される?居住用転貸建物が争われた裁決例

建物の貸付と仕入税額控除

「賃貸アパートを自分の会社へ貸す契約にして、契約書へ『使用用途を問わない』と書いておけば、建築費の消費税を全額控除できますか?」

共同住宅を建築すると、建築会社へ支払う工事代金には多額の消費税が含まれます。

そのため、建物の貸付けを消費税の課税取引として扱い、建築費に含まれる消費税の還付を受けられないかと考える方もいるでしょう。

今回取り上げる裁決例では、個人が建築した共同住宅を、妻が代表を務める法人へ貸し付けていました。

個人と法人との賃貸借契約書には、次のような趣旨の記載がありました。

「賃借人の使用用途を問わない」

契約書だけを見れば、住宅として使うことに限定されていないようにも見えます。

しかし、国税不服審判所は、契約書の一文だけで判断することはできないとして、建物の設計、登記、建築までの経緯、一括借上契約、転貸契約などを総合的に確認しました。

その結果、建物の貸付けは消費税がかからない「住宅の貸付け」に当たると判断され、建物取得費に係る仕入税額控除の処理が否認されました。

結論:「用途を問わない」と書くだけでは、住宅の貸付けを課税取引にはできません

賃貸借契約書に、建物の使用用途を問わないと記載していても、それだけで建物の貸付けが消費税の課税取引になるわけではありません。

今回の裁決では、次の事情が重視されました。

  • 設計変更後の建物用途が「共同住宅」とされていた
  • 建築計画概要書でも主要用途が共同住宅とされていた
  • 建物全体が住宅部分として計画されていた
  • 管理会社が居住用物件として一括借上げすることが予定されていた
  • 管理会社との契約でも、居住用として再転貸することが前提とされていた
  • 所有者本人も、その契約内容や説明を認識していた
  • 最終的な入居契約でも居住用に限定されていた

このような事情から、国税不服審判所は、最初の賃貸借契約書に「用途を問わない」と書かれていても、実際には居住用として転貸されることが明らかだったと判断しました。

つまり、契約書の文言よりも、建物がどのように建てられ、どのような契約関係を通じて、最終的に何に使われる予定だったのかが重視されたのです。

住宅の家賃には、原則として消費税がかからない

事業者が建物を貸し付けて賃料を受け取る取引は、原則として消費税の対象です。

ただし、人の居住の用に供する住宅の貸付けは、政策的な理由から非課税取引とされています。

住宅家賃に消費税を課すと、最終的には賃借人がその負担を負うことになります。

そこで、住宅を借りる人の負担を軽減するため、一定の住宅の貸付けについては消費税を課さないこととされています。

現在の消費税法では、住宅の貸付けについて、契約上または貸付けの実態から人の居住の用に供されることが明らかなものを非課税取引としています。

国税庁も、住宅の貸付けに関する基本的な取扱いを「住宅の貸付け(国税庁タックスアンサー)」で案内しています。

今回の裁決は、令和2年度税制改正前の取引だった

今回の対象となった課税期間は、平成31年1月1日から同年3月31日までです。

当時の消費税法では、非課税となる住宅の貸付けについて、原則として、貸付契約において人の居住の用に供することが明らかにされていることが要件とされていました。

その後、令和2年度税制改正により、契約上は用途が明らかでなくても、実際の貸付状況などから居住用であることが明らかな場合も、住宅の貸付けとして扱われることになりました。

今回の納税者は、改正前の法律を前提として、次のように主張しました。

契約書には「使用用途を問わない」と書かれているため、契約上、居住用であることは明らかにされていない。

しかし、国税不服審判所は、この主張を認めませんでした。

改正前の法律であっても、契約書の一つの条項だけを形式的に読むのではなく、契約締結の経緯、建物の用途、関連する契約などを総合的に考慮すべきだと判断したためです。

個人から妻の会社へ建物を貸していた

今回の請求人は、不動産賃貸業を営む個人事業者でした。

一方、建物の賃借人となった法人は、不動産の所有、賃貸、管理などを目的として設立されており、請求人の妻が代表社員、請求人本人が業務執行社員を務めていました。

建物の貸付関係は、次のような構造でした。

個人の建物所有者
↓ 建物を一括貸付け
妻が代表を務める法人
↓ 管理会社へ一括転貸
管理会社
↓ 各入居者へ再転貸
最終入居者

個人と妻の法人との契約書には、「使用用途を問わない」と記載されていました。

しかし、その先の管理会社との契約や建築計画では、建物が居住用として利用されることが一貫して予定されていました。

当初は事務所兼用だったが、途中で共同住宅へ変更された

建物の当初の設計では、主要用途が「事務所兼用住宅、共同住宅」とされていました。

しかし、その後に締結された変更契約では、主要用途が「共同住宅」へ変更されました。

さらに、建築計画概要書には、次の内容が記載されていました。

  • 主要用途は共同住宅
  • 3階建て・6戸
  • 建物のほぼ全体が住宅部分

建物の完成後に行われた所有権保存登記でも、建物の種類は「共同住宅」とされていました。

これらの資料からは、建物が事務所や店舗として使われるのではなく、居住用の共同住宅として建築されたことが読み取れます。

管理会社の一括借上げも、居住用が前提だった

建設会社が作成した経営計画書には、管理会社による一括借上げが予定されていることが記載されていました。

管理会社や建設会社の従業員は、税務調査において、次のような趣旨の説明をしています。

  • 管理会社が一括借上げするのは、原則として居住用の建物である
  • 事務所や店舗については、一括借上契約ではなく管理委託契約になる
  • 今回の建物は、全6戸を居住用として借り上げる前提だった
  • 建物所有者にも、その内容を説明していた

国税不服審判所は、請求人が建設会社との打合せを通じて、管理会社が建物を居住用に限定して借り上げることを認識し、合意していたと判断しました。

関連する契約書では、居住用に限定されていた

請求人から建物を借りた法人は、さらにその建物を管理会社へ一括転貸していました。

管理会社との契約では、建物を主に居住用として第三者へ転貸することが予定されていました。

また、管理会社から交付された重要事項説明書も、賃貸住宅の一括借上げを前提とするものでした。

さらに、実際の一室について、管理会社と請求人が主宰する別法人との間で締結された契約書には、次のような条項がありました。

賃借人は、居住のみを目的として本貸室を使用しなければならない。

この用途に違反した場合には、契約を解除できる旨も定められていました。

最終的な賃借人が法人であったとしても、契約上の使用目的が居住用に限定されていれば、その貸付けが当然に事業用賃貸になるわけではありません。

契約書の一文だけを切り取って判断することはできない

今回の納税者は、個人と妻の法人との賃貸借契約書に記載された、次の文言を強く主張しました。

「賃借人の使用用途を問わない」

しかし、国税不服審判所は、住宅の貸付けに当たるかどうかを、その文言だけで決めることはできないとしました。

判断に当たって考慮されたのは、次のような資料です。

  • 工事請負契約書
  • 設計・工事監理業務委託契約書
  • 変更契約書
  • 建築計画概要書
  • 建物の登記
  • 経営計画書
  • 管理会社との一括借上契約
  • 重要事項説明書
  • 最終的な入居者との賃貸借契約
  • 建設会社・管理会社の担当者の説明

これらの資料を総合すると、建物は一貫して居住用として建築・運用される予定だったと判断されました。

そのため、契約書に「用途を問わない」という条項を加えても、住宅の貸付けという実態を覆すことはできませんでした。

具体的な入居者が決まっていなくても、居住用と判断される

請求人は、建物の引渡しを受けた時点では、最終的な入居者がまだ決まっていなかったとも主張しました。

仕入税額控除における課税仕入れの用途区分は、原則として、その課税仕入れを行った時点の状況により判断します。

そのため、請求人は、引渡日時点で入居者が確定していない以上、住宅の貸付けに使われることは確定していなかったと主張したのです。

しかし、国税不服審判所は、この主張も認めませんでした。

具体的な入居者の氏名が決まっていなくても、次の事情はすでに確定していました。

  • 共同住宅として建築されている
  • 管理会社が居住用として一括借上げする
  • 全室を居住用として募集する
  • 居住用として再転貸する契約関係が整っている

したがって、建物の引渡日時点で、将来の個々の入居者が未定だったとしても、建物が居住の用に供されることは明らかだったと判断されました。

建物部分は非課税、駐車場部分は課税だった

今回の裁決では、建物の貸付けは非課税となる住宅の貸付けに該当すると判断されました。

一方、駐車場の貸付けは課税取引に該当するとされています。

そのため、建物と駐車場の取得に係る課税仕入れは、すべてが住宅家賃のためだけに使われるものでも、すべてが課税売上げのためだけに使われるものでもありませんでした。

国税不服審判所は、建物等の取得費について、個別対応方式における次の区分に当たると判断しました。

「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」

個別対応方式では、課税仕入れを次の3つに区分します。

用途区分 仕入税額控除
課税売上げにのみ要するもの 原則として全額控除
非課税売上げにのみ要するもの 控除できない
課税売上げと非課税売上げに共通して要するもの 課税売上割合に応じて控除

請求人は、建物等の取得費を「課税売上げにのみ要するもの」として処理していました。

しかし、住宅家賃という非課税売上げと、駐車場賃料という課税売上げの両方に対応するため、全額控除ではなく、共通対応として計算し直されました。

仕入税額控除の基本的な仕組みは、消費税法第30条に定められています。

一度還付されたからといって、税務署が認めたことにはならない

今回の請求人は、当初の消費税申告に基づき、実際に消費税の還付を受けていました。

その後、税務調査によって仕入税額控除の処理が否認され、更正処分と過少申告加算税の賦課決定を受けています。

請求人は、申告時に契約書などを提出しており、税務署がそれを確認したうえで還付したのだから、過少申告となったことには正当な理由があると主張しました。

しかし、国税不服審判所は、この主張も認めませんでした。

消費税の還付申告書が提出されると、税務署は法律に基づいて還付手続を行います。

還付金を支払ったという事実は、税務署が申告内容の適法性を最終的に確認し、承認したことを意味しません。

法律上は、いったん還付した後であっても、その後の調査により申告内容に誤りが判明すれば、更正処分を行うことができます。

したがって、

一度還付されたから、税務署もこの処理を認めたはずだ。

という主張は通用しませんでした。

国税の更正については国税通則法第24条、過少申告加算税については同法第65条に規定されています。

この裁決から分かる実務上のポイント

1.関係会社を間に入れても、最終用途まで確認される

建物所有者が直接入居者へ貸していなくても、最終的に居住用として転貸されることが明らかであれば、住宅の貸付けと判断される可能性があります。

次のように法人や管理会社を間に挟んでも、形式だけで課税関係が変わるとは限りません。

個人

同族法人

管理会社

入居者

税務上は、契約の各段階を通じて、最終的に建物が何に使われるのかが確認されます。

2.契約書に都合のよい文言を追加しても、それだけでは足りない

「用途を問わない」「事業用にも使用できる」と契約書へ記載しても、他の資料がすべて居住用を示していれば、その一文だけで課税取引にすることは困難です。

特に、次の資料との整合性が問われます。

  • 建築確認関係書類
  • 設計図面
  • 登記事項証明書
  • 融資申込資料
  • 収支計画書
  • 管理契約書
  • 一括借上契約書
  • 入居者募集資料
  • 最終入居者との契約書

税務上の結論だけを意識して、一部の契約書へ他の資料と矛盾する文言を入れることは、かえって不自然な証拠を残す結果になりかねません。

3.課税仕入れの用途区分は、取得時点の客観的な予定で判断する

建物取得時に入居者が未定であっても、建物の構造、募集方法、管理契約、転貸計画などから居住用として使用されることが明らかであれば、非課税売上げに対応する仕入れと判断されます。

入居者名が決まっていないことと、建物の用途が決まっていないことは同じではありません。

4.還付後でも税務調査で否認される

消費税の還付が実行されたからといって、その申告内容が税務署から正式に承認されたわけではありません。

高額な還付申告については、申告直後ではなく、数年後の税務調査で契約や使用実態を確認されることもあります。

還付金を受け取った後も、申告根拠となった契約書、設計資料、用途判定資料などを保存しておく必要があります。

5.現在は「居住用賃貸建物」に関する別の制限もある

今回の事案は平成31年の取引であり、主として個別対応方式における用途区分が争われたものです。

現在は、令和2年10月1日以後に取得した一定の居住用賃貸建物について、建物取得時の仕入税額控除を制限する別の制度も設けられています。

したがって、現在の賃貸住宅の取得では、今回の裁決と同じ用途区分の問題だけでなく、居住用賃貸建物に関する仕入税額控除制限も確認する必要があります。

古い裁決の結論をそのまま現在の建物取得へ当てはめることはできません。

まとめ:契約書の名称や一文ではなく、建物の実態で判断される

今回の裁決では、個人と同族法人との賃貸借契約書に「使用用途を問わない」と記載されていました。

それでも、国税不服審判所は、建物の貸付けを消費税が非課税となる住宅の貸付けと判断しました。

その理由は、次のような客観的事情があったためです。

  • 建物が共同住宅として設計・建築・登記されていた
  • 建物全体が住宅部分として計画されていた
  • 管理会社による居住用の一括借上げが予定されていた
  • 関連契約でも居住用としての再転貸が前提だった
  • 所有者自身も、その仕組みを認識していた
  • 最終入居者との契約でも居住用に限定されていた

消費税の課税関係は、契約書の表題や都合のよい一文だけで決まりません。

建物の構造、契約締結の経緯、関連契約、募集方法、最終的な使用目的まで含めた実態によって判断されます。

また、一度消費税が還付されても、それによって申告内容が税務署から是認されたことにはなりません。

賃貸建物の取得に伴う消費税は金額が大きくなりやすいため、建築契約や賃貸借契約を締結した後ではなく、建築計画や事業スキームを決める段階で税務上の取扱いを確認することが重要です。

今回参照した裁決例

国税不服審判所 関裁(諸)令6第15号

  • 裁決日:令和6年11月1日
  • コード番号:F0-5-462
  • 対象税目:消費税および地方消費税
  • 対象課税期間:平成31年1月1日から平成31年3月31日まで
  • 結論:審査請求棄却
  • 主な争点:居住用として転貸される共同住宅の貸付けが、消費税の非課税取引となる「住宅の貸付け」に該当するか

本件では、建物の貸付けが住宅の貸付けに該当するかどうか、個別対応方式における課税仕入れの用途区分、一度消費税の還付を受けたことが過少申告加算税の「正当な理由」になるかが争われました。

今回参照した主な法令・通達

  • 消費税法
    • 第2条第1項第8号・第9号:資産の譲渡等、課税資産の譲渡等
    • 第6条第1項・別表第一第13号:住宅の貸付けの非課税
    • 第30条:仕入税額控除、個別対応方式
    • 第52条:控除不足額の還付
  • 国税通則法
    • 第24条:更正
    • 第65条:過少申告加算税
    • 第56条:還付
    • 第58条:還付加算金
  • 国税庁「住宅の貸付け」

※本記事は、上記裁決例を題材として、住宅の貸付け、転貸借、仕入税額控除および消費税還付に関する一般的な考え方を解説したものです。実際の取扱いは、建物の取得時期、建物の構造、契約関係、用途、課税売上割合、駐車場等の付帯設備、居住用賃貸建物に関する仕入税額控除制限その他の事情によって異なります。個別の建築・取得・賃貸スキームについては、契約締結前に税理士等へご確認ください。

Author Profile

末廣 大地
起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。