従業員の給料を上げると、会社の経費が増えます。
ただし、賃上げ促進税制は、単に「給料が経費になる」という話ではありません。
一定の要件を満たして従業員の給与総額を増やした会社は、給与を通常の人件費として損金にできるだけでなく、さらに給与増加額の一定割合を法人税額から直接控除できる場合があります。
つまり、賃上げ促進税制は、利益から差し引く制度ではなく、一定の金額を法人税額から直接差し引く制度です。
経営者
従業員の給料を上げると、法人税が安くなる制度があると聞きました。
本当に、給料を上げると税金が下がるのでしょうか?
税理士
はい。一定の要件を満たす場合には、賃上げ促進税制により法人税が安くなることがあります。
ただし、給料を上げた金額がそのまま税金から戻ってくる制度ではありません。
給与は通常どおり人件費として損金になります。そのうえで、一定の賃上げ要件を満たすと、給与増加額の一定割合を法人税額から直接控除できる、という制度です。
経営者
中小企業の場合、どのくらい法人税が安くなるのですか?
税理士
2026年8月16日時点で、2026年4月1日から2027年3月31日までに開始する事業年度については、中小企業向け制度ではおおむね次のような仕組みです。
前年度と比べて、対象となる雇用者給与等支給額が1.5%以上増えた場合は、給与増加額の15%を法人税額から控除できます。
さらに、2.5%以上増えた場合は、控除率が30%になります。
一定のくるみん認定、えるぼし認定などの子育て・女性活躍に関する認定要件を満たす場合には、さらに5%が加算され、最大35%になる場合があります。
ただし、その年度に実際に控除できる金額は、原則として調整前法人税額の20%が上限です。
経営者
具体的には、どう計算するのですか?
税理士
例えば、中小企業で、前期の対象給与総額が2,000万円、当期の対象給与総額が2,050万円だったとします。
この場合、給与の増加額は50万円です。
増加率は、50万円 ÷ 2,000万円 = 2.5%です。
中小企業向け制度では、2.5%以上増加しているため、基本の税額控除率は30%になります。
したがって、計算上の税額控除額は、
50万円 × 30% = 15万円
です。
つまり、給与2,050万円を通常の人件費として損金にしたうえで、さらに要件を満たせば、法人税額から15万円を直接差し引けるイメージです。
経営者
ということは、100万円給料を上げたら、100万円税金が安くなるわけではないのですね?
税理士
そのとおりです。
ここは誤解しやすいところです。
例えば、前期の対象給与総額が2,000万円、当期の対象給与総額が2,100万円だった場合、給与増加額は100万円です。
この場合、賃上げ率は5%ですので、中小企業向け制度では基本控除率30%の対象になります。
計算上の税額控除額は、
100万円 × 30% = 30万円
です。
100万円賃上げしたから100万円税金が減る、という制度ではありません。
また、実際に控除できる金額には法人税額の20%という上限があります。例えば、調整前法人税額が100万円の場合、その年度に控除できる上限は原則として20万円です。
経営者
社長の役員報酬を上げた場合も対象になりますか?
税理士
原則として、社長の役員報酬を上げた分は、賃上げ促進税制の対象にはなりません。
この制度で見るのは、基本的には国内の使用人に対する給与です。
法人の役員、役員と一定の特殊関係にある者、使用人兼務役員などは、対象となる国内雇用者から除かれます。
したがって、社長の役員報酬を500万円から700万円に上げたとしても、それだけで賃上げ促進税制の対象給与が増えたことにはなりません。
小規模な同族会社では、ここを間違えやすいです。
経営者
パートやアルバイトの給与は対象になりますか?
税理士
国内雇用者に該当するパートやアルバイトへの給与であれば、原則として対象になり得ます。
また、中小企業向け制度では、会社全体の対象給与総額で判定します。
そのため、基本給を一律1.5%上げたかどうかだけで判定する制度ではありません。
基本給の昇給、賞与の増額、新規採用による給与増加などにより、対象となる給与総額が前年度より増えれば、要件を満たす可能性があります。
一方で、一人ひとりの給与を上げていても、退職者が多く、会社全体の対象給与総額が1.5%以上増えていなければ、中小企業向けの当年度税額控除要件を満たさない可能性があります。
経営者
給与台帳の年間総額をそのまま比較すればよいですか?
税理士
給与台帳の年間総額をそのまま比較すると、誤ることがあります。
例えば、次のような区分が必要です。
従業員の給与や賞与は、原則として対象になり得ます。
パートやアルバイトの給与も、国内雇用者であれば原則対象になり得ます。
新入社員の給与も、中小企業向けの雇用者給与等支給額には原則として含まれ得ます。
一方、社長の役員報酬、役員賞与、役員と一定の特殊関係にある親族への給与などは、対象外となるため注意が必要です。
また、退職金は通常の給与等とは別の退職所得であり、原則としてこの給与集計には含めません。
さらに、給与に充てる一定の雇用関係助成金などがある場合には、控除や調整が必要になることがあります。
経営者
設立1期目でも使えますか?
税理士
原則として、設立の日を含む事業年度は対象外です。
賃上げ促進税制では、前期の給与総額と当期の給与総額を比較する必要があります。
例えば、2026年5月1日に会社を設立し、2027年4月30日が第1期決算である場合、第1期には比較する前事業年度がありません。
そのため、通常は第2期以降に検討する制度です。
経営者
赤字の場合はどうなりますか?法人税がなければ使えないのでしょうか?
税理士
中小企業向け制度では、一定の未控除税額を5年間繰り越せる場合があります。
例えば、給与増加額が500万円、控除率が30%で、計算上の税額控除額が150万円だったとします。
しかし、その年度が赤字で法人税額が0円であれば、その年に差し引く法人税がありません。
このような場合でも、一定の要件を満たして申告しておけば、将来黒字になったときに未控除額を使える可能性があります。
ただし、5年間いつでも無条件に使えるわけではありません。
繰越期間中も青色申告を継続すること、必要な明細書を添付することなどが必要です。
さらに、繰越税額控除を実際に使う年度についても、その年度の雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超えていることが求められます。
経営者
2026年から制度が変わったと聞きました。何に注意すればよいですか?
税理士
最も重要なのは、事業年度の開始日です。
2026年4月1日以後に開始する事業年度から、令和8年度税制改正後の制度が適用されます。
一方、2026年3月31日以前に開始した事業年度については、旧制度側のルールで判断します。
したがって、「2026年の申告だから新制度」と暦年だけで判断してはいけません。
例えば、12月決算法人で、2026年1月1日から2026年12月31日までの事業年度であれば、開始日は2026年3月31日以前です。そのため、旧制度側の要件で計算することになります。
また、旧制度には教育訓練費による上乗せ措置がありましたが、2026年4月1日以後開始事業年度の改正後制度では、教育訓練費上乗せは廃止されています。
前期の計算表をそのまま翌期へコピーするのは危険です。そこ、税務の世界では地味に罠です。
経営者
中小企業以外にも制度はありますか?
税理士
あります。
現行法では、一定の特定法人、いわゆる中堅企業向けの制度も設けられています。
2026年4月1日以後開始事業年度では、継続雇用者給与等支給額が一定割合以上増加した場合に、10%、15%、25%といった税額控除率が定められています。
また、一定の子育て・女性活躍認定を満たす場合には、さらに5%加算される仕組みがあります。
ただし、小規模な中小企業では、まずは中小企業者等向けの制度に該当するかを確認するのが実務上の出発点です。
経営者
結局、給料を上げた方が得なのでしょうか?
税理士
賃上げ促進税制があるからといって、給料を上げれば必ず得、とはいえません。
税額控除はあくまで給与増加額の一定割合です。
賃上げをすれば、当然、人件費そのものが増えます。社会保険料の会社負担も増えることがあります。
そのため、賃上げ促進税制は、もともと必要な採用、定着、処遇改善を行う会社にとって、税負担を軽減できる制度と考えるべきです。
税額控除だけを目的に無理な賃上げをすると、キャッシュフローを悪化させることがあります。
賃上げ額、人件費増加、社会保険料負担、法人税額、控除上限を並べて判断する必要があります。
町田・相模原で賃上げ促進税制の適用を確認したい方へ
賃上げ促進税制は、要件を満たせば法人税額を直接減らせる有利な制度です。
一方で、対象給与の集計を誤ると、税額控除の過大適用につながります。
特に、役員給与、役員親族への給与、助成金、設立第1期、2026年4月1日前後の制度切替、繰越税額控除の管理には注意が必要です。
町田・相模原で、賃上げ促進税制の適用可否、給与総額の集計、法人税額控除の試算に不安がある方は、タクスリンク税理士事務所にご相談ください。
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要点
主な根拠
※本記事は、2026年8月16日時点で確認した一般的な税務上の取扱いをもとに作成しています。実際の適用可否は、事業年度開始日、青色申告の有無、中小企業者等該当性、対象給与の集計、役員・特殊関係者給与の有無、助成金の受給状況、法人税額、繰越税額控除額などにより異なります。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。
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