「会社で社長の生命保険に入れば、支払った保険料を全額経費にできる」
保険会社や代理店から、このような説明を受けることがあります。
しかし、会社が社長を被保険者とする生命保険料を支払っても、必ず全額を経費にできるわけではありません。
税務処理は、保険の種類、保険金の受取人、解約返戻率、契約日、社長以外の従業員も加入しているかなどによって大きく変わります。
なお、本件に直接対応する公表裁判例・裁決例は、今回確認した範囲では見当たりませんでした。そのため、今回は法人税法、法人税基本通達及び国税庁の公表資料を主な根拠として整理します。
経営者
会社で私を被保険者とする生命保険に入りました。
会社が支払う保険料は、全額経費にしてよいですよね?
税理士
必ず全額を経費にできるわけではありません。
まず確認する必要があるのは、次のような事項です。
・定期保険、医療保険、がん保険、養老保険など、どの種類の保険か
・死亡保険金、満期保険金、入院給付金などの受取人は誰か
・最高解約返戻率は何%か
・保険期間と保険料払込期間
・社長だけが加入しているのか
・契約日はいつか
保険証券や設計書を確認せずに、仕訳を決めることはできません。
経営者
契約者も保険料の支払者も会社で、保険金の受取人も会社です。
この場合は経費になりますか?
税理士
定期保険や医療保険、がん保険などの第三分野保険で、保険金や給付金の受取人が会社である場合は、原則として期間の経過に応じて損金になります。
ただし、解約返戻率が高い保険については、支払った保険料の一部を前払保険料などとして資産計上しなければならないことがあります。
会社が受取人であるというだけで、全額経費になるとは限りません。
経営者
保険代理店からは「全損タイプです」と説明されました。
税理士
「全損」という商品説明だけで、税務処理を決めてはいけません。
2019年7月8日以後に契約した一定の定期保険や第三分野保険で、保険期間が3年以上、最高解約返戻率が50%を超えるものについては、解約返戻率に応じて保険料の一部を資産計上する取扱いがあります。
最高解約返戻率が高くなるほど、資産計上する割合や期間も大きくなる傾向があります。
設計書に記載された解約返戻金の推移を確認する必要があります。
経営者
死亡保険金の受取人を、私の家族にしている場合はどうなりますか?
税理士
定期保険や医療保険等で、保険金や給付金の受取人が社長本人またはその遺族であり、社長だけを被保険者としている場合は、会社が支払った保険料が社長に対する役員給与とされる可能性があります。
会社が保険料を負担することで、社長個人が利益を受けていると考えられるためです。
この場合、社長本人に対する給与課税や、会社の源泉所得税にも影響します。
経営者
役員給与になるのであれば、給与として経費にできるのではありませんか?
税理士
役員給与と認定されたからといって、会社側で必ず損金になるわけではありません。
役員給与は、定期同額給与、事前確定届出給与など、法人税法第34条の要件を満たさなければ損金に算入できません。
つまり、
・社長個人には給与として課税される
・会社では役員給与として損金不算入になる
という、会社と社長の双方に不利な処理になる可能性があります。
さらに、源泉所得税を徴収していなければ、源泉徴収漏れも問題になります。
経営者
養老保険の場合も同じですか?
税理士
養老保険は、死亡保険金と満期保険金の受取人によって取扱いが変わります。
死亡保険金と満期保険金の両方を会社が受け取る契約では、支払保険料は原則として全額資産計上します。
両方を社長本人や遺族が受け取る契約では、原則として全額が役員給与になります。
死亡保険金を遺族、満期保険金を会社が受け取る契約では、原則として保険料の2分の1を資産計上し、残りの2分の1を損金に算入します。
ただし、社長など特定の役員だけを加入対象としている場合は、その損金部分も役員給与とされることがあります。
経営者
社長だけが加入しているかどうかも関係するのですか?
税理士
関係します。
役員や従業員を広く対象とした福利厚生制度として加入しているのか、社長など特定の人だけに利益を与える契約なのかによって、税務上の評価が変わるためです。
社長だけを対象としている場合は、会社の福利厚生費ではなく、社長個人に対する給与や経済的利益と判断されやすくなります。
経営者
年払いで保険料を支払っています。
損金になる部分は、支払った期に全額経費にできますか?
税理士
年払い、一時払いなどの場合は、保険料がどの期間に対応するものかも確認します。
翌事業年度以後の期間に対応する部分が含まれていれば、前払費用として資産計上し、期間の経過に応じて損金に振り替えることがあります。
保険商品の資産計上ルールとは別に、期間対応による前払処理も確認しなければなりません。
経営者
2019年7月8日より前に加入した保険も、同じ処理ですか?
税理士
必ずしも同じではありません。
2019年7月8日前に契約した定期保険等については、改正前の取扱いが適用される場合があります。
そのため、契約日を確認せずに、現在の最高解約返戻率に基づくルールをそのまま当てはめることはできません。
契約日、契約変更日、更新日なども含めて確認する必要があります。
経営者
実際には、どの資料を税理士へ渡せばよいですか?
税理士
最低限、次の資料を用意してください。
・保険証券
・契約概要
・保険設計書
・解約返戻金推移表
・主契約と特約の保険料内訳
・死亡保険金、満期保険金、各種給付金の受取人が分かる資料
・契約日、保険期間、保険料払込期間が分かる資料
・社長以外の役員や従業員の加入状況
これらを確認してから、損金、資産、役員給与のいずれに該当するかを判断します。
保険料の引落額だけを見て「保険料」という勘定科目へ全額計上するのは危険です。
要点
主な根拠
※本記事は、一般的な税務上の取扱いを解説したものです。実際の処理は、保険商品、契約日、受取人、解約返戻率、加入対象者、保険料の支払方法などによって異なります。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。




