親の土地を子どもが駐車場にしたら、収入は誰のもの?使用貸借と不動産所得の裁判例
「親名義の土地を子どもが無償で借りて、月極駐車場として貸し出した場合、その駐車場収入は子どもの収入として申告してよいのでしょうか?」
相続税対策や所得分散の一環として、親の不動産から生じる収入を子どもへ移したいと考えるケースがあります。
例えば、親が所有している土地を子どもに無償で貸し、子どもがその土地を駐車場として第三者に貸し出す形にすれば、駐車場収入は子どもに帰属するようにも見えます。
契約書を作成し、駐車場の賃貸人を子ども名義に変更し、駐車場収入も子どもの預金口座へ振り込まれていれば、なおさらです。
しかし、税務上は、形式だけで所得の帰属が決まるわけではありません。
実際に、親子間で土地の使用貸借契約を締結し、子ども名義で駐車場収入を得ていた事案について、大阪地裁は子どもに収入が帰属すると判断した一方、大阪高裁はこれを覆し、最終的に駐車場収入は土地所有者である親に帰属すると判断しました。
結論:契約書と口座変更だけで、不動産所得を子どもへ移せるとは限りません
この裁判例の結論は、次のとおりです。
親子間の使用貸借契約自体は有効に成立していると認められました。
しかし、それでも大阪高裁は、駐車場収入は子どもではなく、土地所有者である親に帰属すると判断しました。
ポイントは、使用貸借契約が有効かどうかと、所得税法上その収入が誰に帰属するかは、別の問題だという点です。
つまり、民法上は親から子どもへの土地の使用貸借契約が成立していても、そのことだけで、土地から生じる駐車場収入が当然に子どもの所得になるわけではありません。
今回の大阪高裁判決では、子どもらは「単なる名義人」であり、実質的には土地所有者である親が収益を享受していたとして、親の不動産所得と判断されました。
事案の概要
この事案では、親が複数の土地を所有し、それらを駐車場として第三者に貸し出していました。
もともとは、親が土地所有者かつ駐車場の賃貸人として、駐車場収入を得ていました。
その後、親と長男・長女との間で、次のような一連の取引が行われました。
- 親と子どもとの間で、土地の使用貸借契約書を作成した
- 土地上のアスファルト舗装等を子どもへ贈与する契約書を作成した
- 駐車場の賃貸人を、親から子どもへ変更した
- 駐車場管理会社との契約上の委任者を、親から子どもへ変更した
- 駐車場収入の振込先を、子ども名義の預金口座へ変更した
- 子どもは親に対し、固定資産税・都市計画税相当額を支払うこととした
これにより、平成26年2月以降の駐車場収入は、親ではなく子どもに帰属するものとして申告されました。
これに対し、税務署は、駐車場収入は土地所有者である親に帰属するとして、親に対して所得税等の更正処分等を行いました。
大阪地裁は「子どもに帰属する」と判断した
第一審である大阪地裁は、納税者側の主張を認めました。
大阪地裁は、使用貸借契約書に親本人の署名押印があること、親が契約の基本的な内容を認識していたこと、契約後に実際に駐車場収入が子どもの口座へ振り込まれていたことなどを踏まえ、使用貸借契約は有効に成立していると判断しました。
そのうえで、子どもは土地の使用収益権に基づいて第三者と駐車場の賃貸借契約を締結し、駐車場収入を得ていたのであるから、その収入は子どもに帰属するとしました。
つまり、大阪地裁は、民法上の契約関係を重視した判断をしたといえます。
大阪高裁は「親に帰属する」と逆転判断した
これに対し、大阪高裁は、大阪地裁の判断を覆しました。
大阪高裁も、使用貸借契約そのものについては、有効に成立していると認めています。
しかし、そのうえで、駐車場収入の所得税法上の帰属については別途検討し、最終的には土地所有者である親に帰属すると判断しました。
大阪高裁が重視したのは、次のような事情です。
- 本件取引は、親の相続税対策を主たる目的としていた
- 土地の所有権は、あくまでも親が保有し続けていた
- 親の所得を子どもへ形式上分散する目的があった
- 子どもは、土地取得等について特段の出捐をしていなかった
- 駐車場管理は従前と同じ管理会社へ委託されていた
- 子どもが管理上必要な役務を提供していたとはいえなかった
- 親は、子どもに土地の法定果実収取権を無償で付与していたにすぎない
その結果、大阪高裁は、子どもらは駐車場収入について「単なる名義人」であり、実質的には土地所有者である親がその収益を享受していたと判断しました。
実質所得者課税の原則とは
この事案で中心となったのが、所得税法12条の「実質所得者課税の原則」です。
所得税法12条は、資産又は事業から生ずる収益について、法律上その収益が帰属するとみられる者が単なる名義人であり、実際にはその者以外の者が収益を享受している場合には、その収益は実際に享受している者に帰属するものとして所得税法を適用する、という趣旨の規定です。
簡単にいえば、次のような考え方です。
名義だけを変えても、実際に収益を支配・享受している人が別にいるなら、その人に課税する。
この規定は、親族間取引や同族関係のある取引では特に重要になります。
形式上の契約書、振込口座、名義だけを整えても、実態として収益を生み出す資産を誰が支配しているのか、誰がその収益を享受しているのかが問われます。
駐車場収入は「土地の使用の対価」と考えられた
大阪高裁は、駐車場収入について、駐車場賃貸事業を営む者の役務提供の対価ではなく、土地の使用の対価として受けるべき金銭であると捉えました。
ここが非常に重要です。
例えば、店舗経営やサービス業であれば、誰が実際に働き、誰がサービスを提供しているかが重要になります。
しかし、土地を駐車場として貸す場合、その収入の中心は、土地という資産から生じる収益です。
特に本件では、駐車場管理業務は従前から管理会社に委託されており、子どもが新たに多大な役務を提供したとは認められませんでした。
そのため、大阪高裁は、駐車場収入は土地所有者が本来享受すべき法定果実であり、親がその収益を子どもへ無償で処分していたにすぎないと評価しました。
アスファルト舗装を贈与しても、土地とは切り離せなかった
この事案では、親が子どもへ土地上のアスファルト舗装等を贈与する契約も締結されていました。
これは、単に更地を無償で借りたのではなく、駐車場設備を子どもが取得し、それを使って駐車場事業を行っているという形を作る意図があったものと考えられます。
しかし、大阪高裁は、アスファルト舗装は土地の構成部分となり、独立の所有権が成立する余地はないと判断しました。
つまり、アスファルト舗装だけを土地から切り離して子どもが所有する、という構成は認められませんでした。
ただし、大阪高裁は、アスファルト舗装の贈与契約がそのまま有効でないとしても、親子間で土地全体を駐車場として使用させる使用貸借契約自体は成立していると判断しています。
ここでも、契約の有効性と所得の帰属は分けて考えられています。
「契約が有効」でも「所得移転が有効」とは限らない
この裁判例の一番重要な教訓は、ここです。
民法上の契約が有効だからといって、税務上もその契約どおりに所得が移転するとは限りません。
大阪高裁は、使用貸借契約の成立自体は認めました。
それでも、所得税法12条の観点から、子どもは単なる名義人であり、駐車場収入は親に帰属すると判断しました。
つまり、次のような単純な理解は危険です。
- 契約書があるから大丈夫
- 賃貸人名義を子どもに変えたから大丈夫
- 振込先を子どもの口座にしたから大丈夫
- 管理会社との契約名義も子どもにしたから大丈夫
これらは重要な事情ではありますが、それだけで十分とは限りません。
税務上は、収益の基因となる資産の真実の権利者が誰か、その収益を実質的に誰が支配・享受しているかが問題になります。
親族間の不動産所得分散で問題になりやすいポイント
親族間で不動産所得を移そうとする場合、税務上は次の点が問題になりやすいです。
1.所有権が移転しているか
土地や建物の所有権が移転していれば、その資産から生じる収益の帰属も変わりやすくなります。
しかし、所有権を移転せず、使用貸借だけで収益を移そうとする場合には、実質所得者課税の問題が生じやすくなります。
2.対価を支払っているか
賃貸借であれば、賃料や権利金などの対価を支払うことで、一定の経済的な権利移転が認められやすくなります。
一方、使用貸借は無償で借りる契約です。
無償である以上、使用借主の権利は弱く、親族間の情誼による利益付与と評価される余地があります。
3.収益獲得のための役務やリスクを誰が負担しているか
子どもが実際に駐車場管理、集客、修繕対応、クレーム対応、資金負担、設備投資、空車リスクなどを負っているかどうかも重要です。
本件では、駐車場管理は従前どおり管理会社へ委託されており、子どもが管理に必要な役務を提供していたとは認められませんでした。
4.取引の主目的が所得分散・相続税対策に偏っていないか
節税目的があること自体で、直ちに契約が否定されるわけではありません。
しかし、所有権は親に残したまま、所得だけを子どもへ形式的に移すことが主目的である場合には、税務上のリスクが高くなります。
5.収益を子どもが自由に使っているだけで十分か
子どもの口座に収入が入り、子どもがそれを使っていたとしても、それだけで所得の帰属が子どもになるとは限りません。
大阪高裁は、そのような状態自体が、親が本来享受すべき収益を子どもへ無償で処分している結果であると評価しました。
一般的な実務への影響
この判例は、親族間で不動産所得を分散させようとする場面で、非常に重要です。
特に、次のようなスキームには注意が必要です。
- 親の土地を子どもが無償で借り、青空駐車場として貸し出す
- 親の土地にある駐車場設備だけを子どもへ贈与する
- 賃貸人名義だけを子どもへ変更する
- 管理会社との契約名義と振込口座だけを子どもへ変更する
- 親の相続税対策として、賃料収入だけを子どもへ移す
これらは、形式だけを整えても、所得税法上は親の不動産所得と判断される可能性があります。
親族間で不動産収入を移転したい場合には、単に契約書を作るのではなく、所有権の移転、適正な賃貸借契約、対価の支払、管理業務の実態、リスク負担、資金負担などを総合的に検討する必要があります。
実務上の対応策
親族間で土地や建物を使わせる場合には、次の点を確認しておくべきです。
土地所有者を確認する
不動産所得の出発点は、その収益の基因となる資産の所有者です。
土地所有者が親のままであれば、原則としてその土地から生じる収益は親に帰属すると判断される可能性があります。
使用貸借か賃貸借かを明確にする
無償で貸す使用貸借なのか、適正な地代を支払う賃貸借なのかを明確にします。
固定資産税相当額程度の支払では、使用収益の対価としての賃料ではなく、実質的には使用貸借と評価される可能性があります。
契約書だけでなく、実態を整える
契約書、管理契約、賃貸借契約、振込口座の変更だけでは不十分です。
実際に誰が管理し、誰がリスクを負い、誰が費用を負担し、誰が設備投資を行っているのかを整理する必要があります。
相続税対策だけを目的にしない
相続税対策や所得税対策が動機として存在すること自体はあり得ます。
しかし、それ以外の合理的な理由が乏しく、親の所得を子どもへ形式的に分散するだけの取引と見られる場合には、否認リスクが高まります。
実行前に税務上の帰属を検討する
不動産所得の帰属は、契約書を作った後で考えるものではありません。
土地の所有権、使用権、賃貸人の地位、管理実態、費用負担、収入の使途、相続対策との関係を踏まえて、実行前に検討する必要があります。
まとめ:親族間では「名義変更」よりも「実質」が見られます
親の土地を子どもが無償で借り、子ども名義で駐車場として貸し出した場合でも、その駐車場収入が当然に子どもの所得になるわけではありません。
今回の大阪高裁判決では、親子間の使用貸借契約自体は有効に成立していると認められました。
しかし、土地の所有権は親に残ったままであり、一連の取引は相続税対策を主たる目的として、親の所得を子どもへ形式上分散するものにすぎないと評価されました。
その結果、子どもらは単なる名義人であり、駐車場収入は土地所有者である親に帰属すると判断されました。
この判例から分かる重要なポイントは、次のとおりです。
- 親子間の使用貸借契約が有効でも、所得の帰属は別に判断される
- 不動産所得では、収益の基因となる資産の真実の権利者が重視される
- 賃貸人名義や振込口座を変えただけでは不十分である
- 土地所有権を親に残したまま、所得だけを子どもへ移すスキームはリスクが高い
- 相続税対策を目的とした形式的な所得分散は、実質所得者課税の対象となり得る
親族間で不動産収入を移す場合には、「契約書を作ったから大丈夫」と考えるのではなく、所有権、対価、管理実態、費用負担、リスク負担まで含めて、税務上の実質を整える必要があります。
今回参照した裁判例
大阪高等裁判所令和3年(行コ)第64号 所得税更正処分等取消請求控訴事件
- 判決日:令和4年7月20日
- 結論:原判決中、国敗訴部分取消し。納税者側の請求棄却
- 確定:確定
- 税務訴訟資料:第272号・順号13735
- 国税庁訴資番号:Z272-13735
- 争点:親子間の土地使用貸借契約後の駐車場収入が、土地所有者である親に帰属するか、使用借主である子に帰属するか
第一審:大阪地方裁判所平成31年(行ウ)第51号 所得税更正処分等取消請求事件
- 判決日:令和3年4月22日
- 結論:一部却下、一部認容。納税者勝訴
- 控訴審:大阪高裁で原判決取消し
- 税務訴訟資料:第271号-51・順号13553
- 国税庁訴資番号:Z271-13553
今回参照した主な法令・通達
- 所得税法第12条:実質所得者課税の原則
- 所得税法第26条:不動産所得
- 所得税法第33条:譲渡所得
- 所得税法第120条:確定所得申告
- 民法第88条第2項:法定果実
- 民法第242条:不動産の付合
- 民法第593条:使用貸借
- 民法第594条第2項:借主による第三者使用・収益の制限
- 国税通則法第23条:更正の請求
- 国税通則法第24条:更正
- 国税通則法第35条:申告納税方式による国税等の納付
- 国税通則法第118条:国税の課税標準の端数計算等
- 民事訴訟法第228条第4項:私文書の真正成立の推定
- 所得税基本通達12-1:資産から生ずる収益を享受する者の判定
※本記事は、上記裁判例を題材として、親族間の土地使用貸借と不動産所得の帰属に関する一般的な税務上の考え方を分かりやすく解説したものです。実際の取扱いは、土地の所有関係、契約内容、対価の有無、管理実態、費用負担、収益の使途、相続対策の内容その他の事情によって異なります。個別の実行については、事前に顧問税理士等へご確認ください。
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-
起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。




