インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために、原則として帳簿とインボイス等の保存が必要です。
しかし、インボイスがない場合でも、一定の要件を満たせば仕入税額控除が認められる制度があります。
ここで重要なのは、制度を一つにまとめて考えないことです。
インボイスなしで控除できる制度には、大きく分けて、①取引類型による帳簿のみ特例、②一定規模以下の事業者に認められる少額特例、③免税事業者等からの仕入れに係る経過措置があります。
この3つは、要件も保存書類も控除できる割合も異なります。
経営者
インボイスがもらえないと、仕入税額控除はできないのでしょうか?
税理士
原則としては、仕入税額控除を受けるために帳簿とインボイス等の保存が必要です。
ただし、インボイスがない場合でも控除できる制度はいくつかあります。
代表的には、公共交通機関特例、自動販売機特例、出張旅費等特例、少額特例、免税事業者等からの仕入れに係る経過措置などです。
経営者
全部まとめて「インボイスがなくても控除できる特例」と考えてよいですか?
税理士
そこは分けて考える必要があります。
まず、公共交通機関、自動販売機、出張旅費、古物商など、取引の性質上インボイスを受け取ることが難しいものについて、帳簿のみで控除できる特例があります。
次に、一定規模以下の事業者について、税込1万円未満の課税仕入れを帳簿のみで控除できる少額特例があります。
さらに、免税事業者などインボイス登録をしていない事業者からの仕入れについて、一定割合だけ控除できる経過措置があります。
この経過措置は、帳簿だけでは足りず、区分記載請求書と同程度の事項が記載された請求書や領収書などの保存が必要です。
インボイスなしで控除できる制度の全体像
| 区分 | 主な内容 | 控除 | 保存要件 |
|---|---|---|---|
| 取引類型による帳簿のみ特例 | 公共交通機関、出張旅費、古物商等 | 原則として仕入税額相当額 | 一定事項を記載した帳簿 |
| 少額特例 | 一定規模以下の事業者の税込1万円未満の課税仕入れ | 原則として仕入税額相当額 | 通常の帳簿 |
| 免税事業者等からの仕入れに係る経過措置 | 非登録事業者等からの仕入れ | 一定割合のみ | 帳簿と区分記載請求書相当の書類 |
経営者
帳簿のみで控除できる特例には、どのようなものがありますか?
税理士
主なものとしては、税込3万円未満の公共交通機関、一定の入場券等が使用時に回収される取引、古物商が非登録者から販売用の古物を買い受ける場合、質屋の流質物、宅建業者の販売用建物、再生資源等の仕入れ、自動販売機による税込3万円未満の取引、郵便ポストに差し出す郵便サービス、通常必要な出張旅費や通勤手当などがあります。
これらは、取引の性質上、インボイスの交付を受けることが難しいため、一定事項を記載した帳簿の保存により仕入税額控除が認められます。
主な帳簿のみ保存特例
| 特例 | 主な要件・注意点 |
|---|---|
| 公共交通機関特例 | 税込3万円未満の船舶、乗合バス、鉄道・軌道による旅客運送。航空機、タクシー、貸切バスは対象外です。 |
| 回収特例 | 入場券等が使用時に回収される取引です。特例自体に3万円未満という上限はありません。 |
| 古物商特例 | 古物商が非登録者から、事業として販売する棚卸資産である古物を買い受ける場合です。 |
| 質屋特例 | 質屋が非登録者から流質物の所有権を取得し、棚卸資産とする場合です。 |
| 宅建業者特例 | 宅建業者が非登録者から、販売用の棚卸資産として建物を購入する場合です。土地部分は非課税のため対象外です。 |
| 再生資源等特例 | 再生資源卸売業者等が、不特定多数の非登録者から、販売用の再生資源・再生部品を購入する場合です。 |
| 特定金属くず特例 | 届出をした特定金属くず買受業者が非登録者から棚卸資産として購入する場合です。2026年9月1日以後の仕入れから適用されます。 |
| 自動販売機特例 | 税込3万円未満で、代金受領と商品・サービス提供が機械だけで完結するものです。 |
| 郵便ポスト特例 | 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービスで、郵便ポストに差し出したものです。 |
| 出張旅費等特例 | 役員・従業員等に支給する国内出張旅費、宿泊費、日当、転任・就退職に伴う移転旅費等のうち、通常必要と認められる部分です。 |
| 通勤手当特例 | 役員・従業員等に支給する通勤手当のうち、通勤に通常必要と認められる部分です。 |
経営者
公共交通機関なら、領収書やインボイスがなくても常に大丈夫ですか?
税理士
公共交通機関特例には、税込3万円未満という金額要件があります。
しかも、3万円未満かどうかは、切符1枚ごとや月間合計ではなく、1回の取引の税込総額で判定します。
たとえば、1人13,000円の新幹線を4人分まとめて購入した場合、1回の取引は52,000円です。そのため、公共交通機関特例には該当しません。
もっとも、乗車券が使用時に回収されるなど、回収特例の要件を満たす場合は、別途その特例の適用余地があります。
経営者
自動販売機特例は、セルフレジやコインパーキングにも使えますか?
税理士
原則として、セルフレジやコインパーキングは自動販売機特例の対象とは考えにくいです。
自動販売機特例は、代金の受領と商品・サービスの提供が機械だけで完結するものが対象です。
飲料の自動販売機、コインロッカー、コインランドリー、ATM手数料などは対象となり得ます。
一方、セルフレジ、自動券売機、コインパーキング、ネットバンキングなどは、機械だけで商品やサービスの提供まで完結しないため、原則として対象外と整理されます。
経営者
出張旅費はインボイスがなくても控除できますか?
税理士
出張旅費等特例は、会社が役員や従業員等に対して出張旅費、宿泊費、日当などを支給または実費精算する場面が対象です。
従業員が国内出張で航空券やホテル代を立て替え、会社が通常必要な金額を精算する場合は、出張旅費等特例により帳簿のみで控除できる可能性があります。
一方、会社が航空会社やホテルに直接支払う場合は、出張旅費等特例ではなく、原則として航空会社やホテルのインボイスが必要です。
また、海外出張分は、原則として国内の課税仕入れに該当しないため、仕入税額控除の対象にはなりません。
経営者
少額特例とは何ですか?
税理士
少額特例は、一定規模以下の事業者について、税込1万円未満の課税仕入れを帳簿のみで控除できる制度です。
対象となるのは、基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者です。
対象期間は、2023年10月1日から2029年9月30日までの国内課税仕入れです。
取引先がインボイス登録事業者か免税事業者かは問いません。
経営者
税込1万円未満かどうかは、商品ごとに判定しますか?
税理士
商品ごとではなく、1回の取引の税込総額で判定します。
たとえば、5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合、合計12,000円の取引です。
この場合、税込1万円未満ではないため、少額特例の対象にはなりません。
なお、少額特例については、帳簿に「少額特例適用」と記載する必要はありません。
経営者
免税事業者からの仕入れは、インボイスがなくても控除できますか?
税理士
少額特例や古物商特例などに該当しない場合でも、免税事業者などの非登録事業者からの課税仕入れについては、経過措置により一定割合の控除が認められる場合があります。
ただし、これは帳簿だけで全額控除できる制度ではありません。
通常の帳簿記載に加え、「80%控除対象」「免」などの記載を行い、区分記載請求書と同程度の事項が記載された請求書や領収書などを保存する必要があります。
控除割合は、時期に応じて段階的に縮小されます。
免税事業者等からの仕入れに係る経過措置
| 仕入れの時期 | 控除割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日~2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日~2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日~2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日~2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日以後 | 控除不可 |
経営者
少額特例と経過措置の両方に該当する場合は、どちらを使いますか?
税理士
二重に控除することはできませんが、要件を満たす制度のうち、より有利な制度で整理します。
たとえば、少額特例の対象事業者が、免税事業者から税込1万円未満の商品を購入した場合は、少額特例により帳簿のみで全額控除できる可能性があります。
この場合、80%などの経過措置を使う必要はありません。
一方、少額特例の対象外で、古物商特例などにも該当しない非登録事業者からの仕入れについては、区分記載請求書相当の書類を保存したうえで、経過措置による一部控除を検討します。
経営者
帳簿のみで控除できるなら、領収書や精算資料は捨ててもよいですか?
税理士
捨てない方が安全です。
「帳簿のみで仕入税額控除できる」ということと、「領収書や精算資料を保存しなくてよい」ということは同じではありません。
税務調査で、通常必要な出張旅費か、事業に関係する支出か、どの取引に該当するかを説明できるように、旅費精算書、出張命令書、旅費規程、利用履歴、古物台帳などは保存しておくべきです。
町田・相模原でインボイス制度の判断に不安がある方へ
インボイス制度では、「インボイスがないから全て控除不可」と単純に判断すると、控除できるものまで控除しない可能性があります。
一方で、「帳簿だけでよい」と安易に処理すると、少額特例の判定、出張旅費の支払方法、免税事業者等からの仕入れに係る経過措置、帳簿記載事項の不足により、税務調査で問題になる可能性があります。
町田・相模原で、インボイス制度、仕入税額控除、帳簿のみ特例、少額特例の判断に不安がある方は、タクスリンク税理士事務所にご相談ください。
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要点
主な根拠
※本記事は、一般的な税務上の取扱いを解説したものです。実際の処理は、消費税の計算方法、課税売上高、取引金額、支払方法、仕入先の登録状況、保存している帳簿・請求書等の内容により異なります。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。




