決算賞与は未払計上すれば経費になる?裁決例から見る通知日と重加算税の注意点
「今期は利益が出そうなので、従業員に決算賞与を出したいと考えています。期末に未払計上しておけば、今期の経費にできますか?」
利益が大きく出た事業年度では、従業員への還元や節税対策として、決算賞与を検討する会社があります。
決算賞与は、一定の要件を満たせば、実際の支払日が翌期であっても、当期の損金、つまり法人税法上の経費に算入できる場合があります。
しかし、ここで重要なのは、単に
「期末に未払金として経理処理した」
「翌月に実際に支払った」
というだけでは足りないという点です。
特に問題になるのが、
「いつ、誰に、いくら支給することを通知したのか」
です。
今回取り上げる裁決例では、会社が令和3年9月期に決算賞与を未払計上しました。
会社側は、期末までに従業員へ通知していたと主張しましたが、国税不服審判所は、実際に各人別の支給額を通知した日は翌期である令和3年10月25日だったと判断しました。
さらに、通知書には「令和3年9月30日通知」と記載されており、調査時にもその書類が提示されていました。
審判所は、この行為について、実際には期末までに通知していないにもかかわらず、期末に通知したかのように装うものであり、重加算税の対象となる「仮装」に該当すると判断しました。
結論:決算賞与は「未払計上」だけでは当期の経費になりません
結論からいうと、決算賞与を当期の損金にするためには、法人税法施行令72条の3に定められた要件を満たす必要があります。
今回の裁決で問題となったのは、使用人賞与のうち、いわゆる未払賞与として損金算入する場合の要件です。
主な要件は、次の3つです。
- 各人別の支給額を、同時期に支給を受ける全ての使用人に通知していること
- 通知した金額を、通知した日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること
- 通知した日の属する事業年度において損金経理していること
このうち、今回特に問題になったのは、1つ目の
「各人別の支給額を通知していること」
です。
審判所は、この通知について、会社が個々の従業員ごとの具体的な賞与支給額を最終的・確定的に決定した上で、その金額を従業員に表示することが必要であると判断しました。
つまり、
- 「0.5か月分を出す予定です」
- 「10月に決算賞与を支給する予定です」
- 「各自でだいたい計算できるはずです」
という程度では足りません。
誰に、いくら支給するのかが確定しており、その金額が従業員本人に通知されている必要があります。
なぜ決算賞与の通知日が問題になるのか
法人税では、費用をどの事業年度の損金にするかが重要です。
原則として、賞与は実際に支払った日の属する事業年度の損金になります。
しかし、一定の未払賞与については、例外的に、支払前であっても当期の損金にできる場合があります。
ただし、未払のまま損金算入を認めると、会社が利益調整のために賞与を自由に見積計上できてしまうおそれがあります。
そのため、法人税法施行令72条の3は、未払賞与を当期損金にするための要件を厳格に定めています。
この制度の趣旨は、単なる見込みではなく、債務として確定しているといえる状態にある賞与だけを、例外的に当期の損金として認めることにあります。
したがって、決算賞与を当期の経費にしたい場合には、
- 期末までに支給額が確定しているか
- 各人別に支給額を通知しているか
- 通知した全員に、期末後1か月以内に実際に支払っているか
- 当期中に損金経理しているか
を確認する必要があります。
今回の会社では何が起きたのか
今回の事案では、請求人である会社は、総合建設業等を営む法人でした。
会社は、令和3年9月期において、従業員に対する決算賞与を令和3年9月30日付で未払計上し、同事業年度の損金の額に算入しました。
その後、会社は令和3年10月25日に、各従業員へ決算賞与を振込みで支払いました。
また、同じ令和3年10月25日に、各従業員へ賞与支給通知書を交付しました。
この賞与支給通知書には、次のような事項が記載されていました。
- 通知日:令和3年9月30日
- 支給対象者名
- 決算賞与を支給する旨
- 支給日:令和3年10月25日
- 支給額
形式だけを見ると、令和3年9月30日に各人別の支給額を通知したように見えます。
しかし、審判所は、実際に賞与支給通知書を従業員に交付した日は令和3年10月25日であり、令和3年9月期中に各人別の支給額を通知したとは認められないと判断しました。
「0.5か月分を支給する」と伝えれば足りるのか
会社側は、令和3年8月の経営会議で、社長から、決算賞与として給与等の0.5か月分を支給することを全社員に通知するよう指示があったと主張しました。
また、会社では、通常の賞与や決算賞与について、給与等の何か月分と説明すれば、従業員自身が自分の支給額を計算できる慣習があったとも主張しました。
しかし、審判所はこの主張を認めませんでした。
理由は、法人税法施行令72条の3第2号イの通知といえるためには、個々の従業員ごとの具体的な賞与支給額を、会社が最終的・確定的に決定した上で、従業員に表示する必要があるからです。
今回の事案では、口頭で通知したとされる後の令和3年9月27日になってから、決算賞与の金額が変更された従業員が存在しました。
この事実から、審判所は、令和3年8月末頃までに各従業員ごとの具体的かつ正確な支給額が最終的・確定的に決定されていたとは認められないと判断しました。
つまり、
「0.5か月分を出します」
という通知では、概算を伝えたにすぎません。
未払賞与の損金算入要件で求められるのは、概算ではなく、各人別の確定額の通知です。
通知書の日付を「令和3年9月30日」としたことが問題になった
今回の裁決で特に重いのは、単に決算賞与の損金算入が否認されたことだけではありません。
会社は、実際には令和3年10月25日に賞与支給通知書を交付していました。
それにもかかわらず、その通知書には「通知日」として「令和3年9月30日」と記載されていました。
また、各人別の通知書の控えは、
「第○期決算賞与支給通知書綴 令和3年9月30日通知 令和3年10月25日支給日」
と記載されたフラットファイルに綴じられていました。
このフラットファイルは、税務調査において調査担当職員に提示されました。
審判所は、これらの行為について、実際には令和3年9月30日までに通知していないにもかかわらず、同日に通知したことが真実であるかのように装うものだと判断しました。
その結果、会社の行為は、国税通則法68条1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当するとされ、重加算税の対象になりました。
なぜ重加算税まで課されたのか
重加算税は、単なる計算ミスや法令解釈の誤りに対して課されるものではありません。
国税通則法68条1項は、納税者が課税標準や税額計算の基礎となる事実を隠蔽し、または仮装し、その隠蔽・仮装に基づいて申告した場合に、重加算税を課すと定めています。
今回の裁決では、会社側が未払決算賞与の損金算入要件を調べていた事情も重視されています。
会社の取締役統括部長は、未払決算賞与が損金算入要件に該当することをどのように明らかにするかについて、書籍やインターネット情報を基に調査していました。
その資料には、決算賞与の通知書を決算月末までに全従業員に渡す必要があることや、税務調査では決算賞与の通知日が確認されることが記載されていました。
さらに、担当会計士からも、単に給与等の0.5か月分を口頭で伝えるだけでは、各人別に支給額を通知するという税務上の要件を満たさない旨の助言を受けていました。
つまり、会社側は、通知日や通知書が重要であることを認識していたと評価されました。
そのうえで、実際の通知日と異なる「令和3年9月30日通知」と記載された通知書やファイルを作成し、調査で提示したため、審判所は、故意に事実をわい曲した仮装行為と判断したのです。
決算賞与の実務でやってはいけないこと
今回の裁決から、決算賞与について特に避けるべき行為が分かります。
1.期末後に作成した通知書へ期末日を記載する
実際には翌期に作成・交付した通知書に、期末日を通知日として記載することは非常に危険です。
これは単なる日付の誤りでは済まない可能性があります。
税務調査では、通知書の作成日、印刷日、データの保存日時、給与データの作成日時などが確認されることがあります。
今回の裁決でも、通知書データや支給データの作成日時、最終印刷日時が確認されています。
紙の通知書に期末日が記載されていても、電子データ上の作成日時や印刷日時と整合しなければ、実際の通知日を疑われます。
2.「何か月分」とだけ伝えて各人別金額を通知しない
「給与の0.5か月分を支給する」と伝えるだけでは、各人別の支給額を通知したことにはなりません。
控除前の金額、支給対象者、支給額、支給日を個別に明確にした通知が必要です。
特に、支給額が途中で変更される従業員がいる場合には、その変更後の確定額を、事業年度末までに通知しているかが問題になります。
3.通知した証拠を残していない
口頭通知は、後から証明することが困難です。
未払決算賞与を当期損金にしたいのであれば、書面または電子的記録により、通知日、通知対象者、通知金額、通知方法を客観的に残すべきです。
ただし、証拠を後から作ることは逆効果です。
実際に通知した時点で、正しい日付の証拠を残す必要があります。
4.税務調査で事実と異なる資料を提示する
税務調査で事実と異なる通知日が記載された資料を提示すると、単なる損金不算入だけでなく、重加算税の問題になります。
資料を整えることと、事実と異なる外観を作ることは全く違います。
税務上の要件を満たすために必要なのは、形式的な書類ではなく、実際にその時点で要件を満たしていたという事実です。
実務上の対応:決算賞与を当期損金にするためのチェックリスト
決算賞与を未払計上して当期の損金にする場合には、最低限、次の点を確認すべきです。
- 決算日までに、支給対象者を確定しているか
- 決算日までに、各人別の具体的な支給額を確定しているか
- 決算日までに、各人別の支給額を本人へ通知しているか
- 通知した全員に、通知した金額どおり支払っているか
- 支払日は、通知した日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内か
- 通知した日の属する事業年度において損金経理しているか
- 通知書、メール、電子承認記録など、通知日を証明できる資料があるか
- 通知書の日付と、実際の作成日・交付日・データ保存日時が矛盾していないか
- 通知後に金額変更や支給対象者の変更が生じていないか
このうち一つでも崩れると、未払賞与として当期損金に算入できない可能性があります。
現場所長の横領行為も会社の重加算税につながった
今回の裁決には、決算賞与とは別に、現場所長による横領行為の論点も含まれています。
現場所長は、工事現場に関する外注費の減額分や、自動販売機設置手数料を自己名義の口座に振り込ませていました。
会社側は、この横領行為について、税務調査で初めて知らされたものであり、会社の行為と同視することはできないと主張しました。
しかし、審判所は、現場所長の地位・権限、行為態様、会社の管理・監督体制を総合的に検討し、現場所長の横領行為を会社の行為と同視できると判断しました。
現場所長は、担当現場について工事の進捗、品質、原価管理、現場管理を行う広範な権限を有していました。
また、下請業者や自動販売機設置業者に対して、会社との取引関係を背景とした強い影響力を持っていました。
そのため、現場所長の権限逸脱や濫用の可能性を、会社として認識し、管理・監督すべきだったと判断されたのです。
「優秀な現場所長に任せていた」は通用しなかった
今回の現場所長は、勤続10年以上のベテラン社員であり、会社内で表彰されたこともある優秀な担当者でした。
会社側としては、信頼して任せていた面があったと考えられます。
しかし、審判所は、優秀な社員だからといって、会社の管理・監督義務が軽くなるとは判断しませんでした。
本件新築工事では、追加変更工事一覧表では増額工事とされていた一方、竣工時の図面では施工箇所が減少しているなど、不自然な点がありました。
部長職による現場巡回、打合せ議事録の確認、社内検査による図面確認などが適切に行われていれば、不自然な点を発見することは可能だったと判断されています。
また、自動販売機についても、現場事務所への設置台数や設置場所を把握することは可能であり、会社が把握していない自動販売機の設置や手数料の処理状況を確認することも可能だったとされました。
その結果、会社は現場所長の隠蔽・仮装行為を防止することができたにもかかわらず、これを怠ったと評価されました。
この裁決から学ぶべきこと
1.決算賞与は「支払」より前に「通知」が重要
決算賞与を当期の損金にするためには、期末までに各人別の支給額を確定し、本人へ通知していることが重要です。
翌月に支払ったという事実だけでは足りません。
期末後に通知したのであれば、原則として、その賞与は支払日の属する翌期の損金になります。
2.通知日は後から作れない
通知書に期末日を書けば足りるわけではありません。
実際にいつ作成し、いつ交付し、いつ従業員が確認したのかが重要です。
電子データの作成日時や印刷日時も含めて、後から整合性を確認される可能性があります。
3.重加算税は「意図的な外観作出」で問題になる
今回の事案では、未払賞与の損金算入要件を満たしていないこと自体に加え、実際とは異なる通知日を記載した通知書やファイルを作成し、調査で提示したことが重視されました。
税務上の要件を満たすために、事実と異なる書類を作ることは、単なる処理ミスではなく、仮装行為と評価される可能性があります。
4.従業員の不正でも会社の重加算税になることがある
従業員や現場責任者が不正を行った場合でも、会社が知らなかったから常に重加算税を免れるわけではありません。
その従業員の地位・権限、行為の内容、会社の管理・監督体制によっては、従業員の隠蔽・仮装行為が会社の行為と同視されることがあります。
5.現場管理は税務リスクにも直結する
建設業では、現場所長に一定の裁量を与えざるを得ません。
しかし、外注費の変更、減額工事、自動販売機手数料、現場で発生する雑収入などは、税務上の収益や仕入税額控除に直結します。
現場に任せきりにすると、法人税・消費税・重加算税のリスクが生じます。
会社が整備すべき内部管理
今回の裁決を踏まえると、会社としては次のような管理体制を整える必要があります。
- 決算賞与の支給決定日、通知日、支払日を明確に記録する
- 賞与通知書は、実際の通知日に作成・交付する
- 通知書の控え、メール送信記録、電子承認記録を保存する
- 期末後に通知書を作成する場合は、当期損金にしない
- 工事内容の変更について、変更増減一覧表と図面を照合する
- 減額工事についても、注文書・変更契約書・請求書を整備する
- 現場事務所の自動販売機、駐車場、廃材売却などの雑収入を本社で把握する
- 現場所長や担当者の個人口座へ取引先から入金されることを禁止する
- 優秀な担当者であっても、例外なく上席者による確認を行う
- 税務調査で提示する資料は、実際の事実関係と一致しているか確認する
特に、決算賞与については、節税目的で急いで処理すると、日付や通知手続が曖昧になりがちです。
当期損金にしたいのであれば、決算日までに手続を完了させる必要があります。
決算後に書類を整えて当期の処理に合わせるという発想は、重加算税リスクにつながります。
まとめ:決算賞与は「いつ通知したか」を証明できなければ危険
決算賞与は、従業員への還元として有効な制度です。
また、一定の要件を満たせば、翌期支払であっても当期の損金に算入できる場合があります。
しかし、その要件は厳格です。
特に、各人別の具体的な支給額を、同時期に支給を受ける全ての使用人へ通知していることが重要です。
今回の裁決では、実際に通知書を交付した日が翌期であったため、未払決算賞与として当期の損金に算入することは認められませんでした。
さらに、通知書やフラットファイルに「令和3年9月30日通知」と記載し、税務調査で提示した行為は、実際には期末までに通知していないにもかかわらず、期末に通知したかのように装うものとして、重加算税の対象とされました。
決算賞与で重要なのは、書類の見た目を整えることではありません。
実際に、期末までに、各人別の確定額を通知していること。
そして、その事実を正確に証明できることです。
事実と異なる日付の書類を作成すれば、単なる損金不算入では済まず、重加算税に発展する可能性があります。
今回参照した裁決例
今回の記事では、次の裁決例を参照しています。
- 国税不服審判所令和5年12月13日裁決
- 関裁(法・諸)令5第14号
- コード番号:F0-2-1233
- 裁決結果:棄却
- 主な争点:未払決算賞与の損金算入時期、通知日の仮装と重加算税、現場所長の横領行為と会社行為の同視
この裁決では、令和3年9月期に未払計上された決算賞与について、各人別の支給額を通知した日は賞与支給通知書を交付した令和3年10月25日であると認定され、令和3年9月期の損金算入は認められませんでした。
また、実際には令和3年9月30日までに通知していないにもかかわらず、「令和3年9月30日通知」と記載された通知書やフラットファイルを作成し、税務調査で提示した行為は、国税通則法68条1項の「隠蔽し、又は仮装し」に該当すると判断されました。
今回参照した主な法令・通達
※本記事は、上記裁決例を題材として、未払決算賞与の損金算入要件、通知日の重要性、重加算税、従業員の不正行為と会社の管理責任について一般的に解説したものです。実際の税務判断は、賞与規程、通知方法、支給対象者、支給日、会計処理、社内承認記録、電子データの作成日時、会社の管理体制など個別事情によって異なります。具体的な処理を行う場合には、事前に顧問税理士等へご相談ください。
Author Profile
-
起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。




