アパレル・小売業は、売上、在庫、値引、返品、EC、決済データが複雑に絡み合う業種です。
足元では、百貨店など一部の販売は比較的堅調ですが、店舗の立地、価格帯、取扱商品、EC対応の有無によって業況の差が大きい業界でもあります。
税務上は、特に在庫管理が重要です。
期末棚卸、シーズン落ち商品の評価減、EC売上の計上、ポイント・クーポン・商品券、従業員割引、社長や家族による商品の使用、輸入仕入など、アパレル・小売業には固有の論点が多くあります。
この記事では、アパレル・小売業を営む方に向けて、最近の業況と動向、固有の税務上の論点、税務調査でよく確認される点を整理します。
経営者
アパレル・小売業を営んでいます。
この業界について、最近の業況や税務上の注意点を詳しく教えてください。
税理士
アパレル・小売業では、売上だけでなく、在庫、値引、返品、EC、決済データまで一体で見る必要があります。
税務調査でも、単に売上金額を見るだけではなく、期末在庫が正しいか、売上が全チャネルで計上されているか、値下げや廃棄が恣意的でないか、商品を経営者や従業員が私的に使っていないか、といった点が確認されやすいです。
特に重要なのは、商品数量、粗利益、お金の流れ、電子データの4つが整合しているかです。
アパレル・小売業の最近の業況と動向
経営者
最近のアパレル・小売業の業況はどう見ればよいですか?
税理士
足元の販売は比較的堅調な面があります。
2026年7月の全国百貨店では、衣料品が前年同月比3.9%増、身のまわり品が10.1%増とされています。東京地区では衣料品が9.0%増とされ、猛暑による夏物・機能性商品の伸びや、インバウンド需要が寄与していると考えられます。
ただし、百貨店データは高価格帯・都市部の影響が強いため、一般的な専門店や地域の小売店がすべて同じ状況とは限りません。
アパレルでは、売上金額だけでなく、販売数量、粗利率、在庫回転、値下率、消化率、返品率、EC比率を見ないと実態は分かりません。
経営者
ECはもう補助的な販売チャネルではないということですか?
税理士
はい。ECは、すでに補助的なチャネルではありません。
経済産業省の公表資料では、2024年の「衣類・服装雑貨等」のBtoC-EC市場は2兆7,980億円、前年比4.74%増、EC化率23.38%とされています。
つまり、店舗売上だけでなく、自社EC、楽天、Amazon、ZOZOなどのモール売上を一体で管理することが重要です。
今後は、店舗在庫とEC在庫を統合し、どのチャネルで売れても在庫と売上が正しく動く仕組みがさらに重要になります。
アパレル・小売業で最も重要なのは期末在庫
経営者
アパレル・小売業で、税務上いちばん注意すべき点は何ですか?
税理士
最も重要なのは、期末棚卸です。
アパレルでは、商品点数、サイズ、色、型番、シーズン、店舗、倉庫、EC在庫が多くなります。そのため、期末在庫が正しく集計されていないと、売上原価や利益が大きくずれます。
法人の場合、棚卸資産は、選定した評価方法により評価します。評価方法を選定していない場合などは、原則として最終仕入原価法による原価法が法定評価方法になります。
個人事業者についても、所得税法上、期末棚卸の評価方法が定められています。
経営者
店舗にある商品だけ数えればよいですか?
税理士
いいえ。期末在庫は、店舗にある商品だけではありません。
バックヤード、自社倉庫、外部物流倉庫、ECフルフィルメント倉庫、催事・ポップアップ店舗、他社に委託販売している自社商品、返品された商品なども対象になり得ます。
逆に、店舗内に物理的に置いてあっても、仕入先所有の委託商品であれば、自社在庫ではないケースがあります。
重要なのは、「どこにあるか」ではなく、期末時点で誰が所有している商品なのかです。
シーズン落ち商品は自由に評価減できるのか
経営者
アパレルは流行や季節があります。
売れ残った商品は、自由に値下げして在庫評価してよいのでしょうか?
税理士
自由に評価額を下げられるわけではありません。
例えば、仕入原価1万円の商品について、「来季は売れないから3,000円で在庫計上する」という処理は、それだけでは認められません。
法人税では、原則として任意の評価損は損金にできません。ただし、災害、著しい陳腐化、破損、型崩れ、棚ざらし、品質変化など、一定の事実により価額が下落した場合には、要件を満たす評価損が認められる余地があります。
経営者
シーズン落ちのアパレル商品でも、評価減できる可能性はあるのですか?
税理士
あります。
法人税基本通達9-1-4では、棚卸資産の著しい陳腐化の例として、季節商品について、売れ残ったため今後通常の価額では販売できないことが既往の実績等から明らかな場合が挙げられています。
したがって、シーズン落ちのアパレル商品は、税務上評価減できる可能性があります。
ただし、「売れ行きが悪い」「セール予定」という程度では足りません。
SKU別の在庫年齢、最終販売日、過去のシーズン落ち商品の実売価格、期末前後のセール価格、EC掲載価格、値下げ履歴、廃棄予定資料、商品写真などを残しておくことが重要です。
廃棄商品は証拠を残す
経営者
流行遅れや汚損で廃棄した商品は、どう管理すればよいですか?
税理士
廃棄商品については、証拠を残すことが重要です。
税務調査では、本当に廃棄したのか、社長や従業員が持ち帰っていないか、フリマアプリ等で販売していないか、という確認がされることがあります。
高額な廃棄や大量廃棄については、廃棄リスト、数量、原価、廃棄日、廃棄前の写真、処分業者の資料などを保存しておくのが安全です。
EC売上は入金額をそのまま売上にしない
経営者
楽天やAmazonなどのモールから入金された金額を、そのまま売上にしています。
問題ありますか?
税理士
問題になる可能性があります。
ECでは、入金額と売上総額が一致しないことが多いです。
例えば、モール上の売上が100万円あり、販売手数料、広告費、その他手数料が差し引かれて90万円が入金されるケースがあります。
この場合、単に90万円を売上にすると、売上と経費の双方が過少になる可能性があります。
EC管理画面の総売上、返品・キャンセル、ポイント・クーポン、販売手数料、広告費、実際の振込額を照合できるようにしておく必要があります。
経営者
EC売上で、税務調査ではどこを見られますか?
税理士
まず、すべての販売チャネルが帳簿に反映されているかを確認されます。
自社EC、楽天、Amazon、ZOZO、BASE、STORES、メルカリShops、Instagram販売、イベント販売など、複数の販売チャネルがある場合、漏れがないかが重要です。
また、モール入金額ではなく、総売上、返品、キャンセル、値引、ポイント、手数料を区分して説明できるかも確認されます。
国税庁も、ネット通販等の収入の申告漏れに注意を促しています。
返品・キャンセル・POS取消は重点管理
経営者
アパレルは返品やサイズ交換が多いです。
これも税務上問題になりますか?
税理士
返品やサイズ交換自体が悪いわけではありません。
ただし、返品、キャンセル、POS取消、現金返金は、売上除外にも使われやすい項目です。
そのため、税務調査では、本当に返品があったのか、誰が取消操作をしたのか、返金決済まで対応しているかを確認される可能性があります。
POS取消ログ、返品伝票、返金履歴、在庫への戻し処理を保存しておくことが重要です。
ポイント・クーポン・商品券の税務処理
経営者
ポイントやクーポンは、すべて値引として処理してよいですか?
税理士
制度によって処理が変わります。
自社ポイントや自社お買物券を顧客が利用し、その分だけ店舗が値引きする制度であれば、値引後の金額が消費税上の対価になる場合があります。
一方で、メーカーが補填するクーポンやモールが負担するクーポンの場合、小売店自身が値引きを負担しているとは限りません。
国税庁の質疑事例では、メーカー補填型クーポンについて、メーカーから補填される部分も含めた店頭価格が商品の対価となる取扱いが示されています。
そのため、自社ポイント、共通ポイント、メーカー負担クーポン、モール負担クーポン、店舗負担クーポンは分けて管理する必要があります。
経営者
自社の商品券やギフトカードはどう処理しますか?
税理士
自己発行の商品券は、法人税と消費税で処理タイミングを丁寧に確認する必要があります。
消費税では、原則として商品券を発行した時点では課税されず、商品と引き換えた時点で商品の販売として課税されます。
法人税でも、商品引換券等については、原則として商品を引き渡した時に収益計上し、一定期間経過や有効期限到来などの場合には未引換分を収益計上する取扱いがあります。
未使用の商品券残高は、発行額、使用額、期限切れ額を管理しておく必要があります。
従業員割引・社長や家族への商品提供
経営者
従業員割引で商品を販売したり、社長や家族が店の商品を着たりすることがあります。
税務上、問題になりますか?
税理士
問題になることがあります。
個人事業者が販売商品を自分や家族のために使用した場合、所得税法上の自家消費の問題があります。所得税法39条では、棚卸資産を家事のため消費した場合、その価額を総収入金額に算入することが定められています。
法人の場合も、役員への無償提供、従業員への過大値引、家族への無償提供については、給与課税、役員給与、消費税などの問題が生じる可能性があります。
経営者
従業員割引は、どこまでなら給与課税されにくいですか?
税理士
所得税基本通達36-23では、使用者が取り扱う商品等を従業員等に値引販売する場合について、一定の取扱いが示されています。
主な考え方としては、値引後の販売価額が取得価額以上であること、通常販売価額のおおむね70%未満でないこと、値引率が役員や使用人の全部について一律または合理的な基準で定められていること、通常家事消費する程度の数量であることなどがポイントになります。
アパレルでは従業員割引がよくありますが、口頭運用ではなく、対象者、値引率、購入限度、転売禁止などを社内ルールとして定めておく方が安全です。
PR商品・インフルエンサー提供
経営者
インフルエンサーに商品を無料で提供することがあります。
広告宣伝費でよいですか?
税理士
契約内容や実態によります。
純粋な広告宣伝用サンプルなのか、SNS投稿の対価なのか、交際費的な贈答なのか、役員・関係者への利益供与なのかで処理が変わる可能性があります。
SNS投稿が契約上の対価になっている場合は、報酬性や源泉徴収の検討が必要になることもあります。
この部分は、相手との関係、投稿義務の有無、契約書、商品金額、提供頻度によって判断が変わるため、個別確認が必要です。
輸入アパレルは関税・輸入消費税まで確認する
経営者
海外からアパレル商品を輸入しています。
国内仕入と違う注意点はありますか?
税理士
輸入アパレルでは、仕入金額、関税、輸入消費税、輸送費、保険料、購入手数料を一体で確認する必要があります。
法人税法施行令32条では、購入商品の取得価額には、商品代だけでなく、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他購入のために要した費用、販売の用に供するため直接要した費用を含むことが定められています。
したがって、海外仕入先のInvoice、海外送金、AWBやB/L、輸入許可通知書、関税、輸入消費税、仕入帳、商品在庫までを一連で説明できる状態にしておくことが重要です。
経営者
輸入取引で参考になる裁決例はありますか?
税理士
参考になるものとして、国税不服審判所の令和2年2月5日裁決があります。
これは、中国からアパレル商品等を輸入して国内販売していた法人の事例です。
税務署側は、税関への輸入申告価格より帳簿上の仕入額が高いことなどから、仕入過大計上を主張しました。
しかし、審判所は、実際の請求書、銀行送金、商品購入資料、AWB番号と輸入取引との対応などを検討し、税関申告価格が真正な仕入価額であるとの証拠が十分ではないとして、仕入過大計上とは認めませんでした。
この裁決からも、輸入アパレルでは、Invoice、海外送金、物流書類、輸入許可書、帳簿を一連で説明できる状態が重要だと分かります。
消費税・インボイス・電子帳簿保存法の注意点
経営者
衣料品の消費税率は、軽減税率8%ですか?
税理士
通常の衣料品、靴、バッグ、服飾雑貨などは、軽減税率の対象ではなく、標準税率10%です。
飲食料品等を併売する店舗では、8%と10%の区分管理が必要です。
また、小売業は不特定多数の消費者に販売する業種なので、通常の適格請求書に代えて、適格簡易請求書、いわゆる簡易インボイスを交付できる場合があります。
POSレシートが簡易インボイスの記載事項を満たしているか確認しておくことが重要です。
経営者
ECの資料は電子帳簿保存法にも関係しますか?
税理士
関係します。
EC管理画面から取得する注文情報、請求書、領収書、モール精算書、広告請求書、PDF請求書など、電子的に授受した取引情報は、電子取引データとして保存対象になり得ます。
紙に印刷するだけではなく、元の電子データを保存する必要があります。
EC売上を行う小売業では、税務調査時に電子データの保存状況を確認される可能性が高くなります。
税務調査でよく聞かれること
経営者
アパレル・小売業の税務調査では、どのようなことを聞かれやすいですか?
税理士
売上、在庫、評価減、廃棄、個人使用、ポイント、輸入について確認されやすいです。
例えば、売上については、現金売上を毎日どのように集計しているか、POSの日計表と現金入金額が一致しているか、取消や返品は誰が操作できるか、ECサイトやモールアカウントがすべて帳簿に反映されているか、カード、PayPay、代引、振込等をすべて計上しているかが確認されます。
在庫については、棚卸を誰が、いつ、どのように数えているか、外部倉庫の商品やポップアップ店舗の商品を含めているか、返品在庫をどう処理しているか、委託販売中の商品は誰の所有かが確認されます。
評価減については、原価1万円の商品をなぜ3,000円で評価しているのか、いつから売れていないのか、同じ型の前年商品はいくらで売れたのか、決算後に実際いくらで販売したのか、といった質問が想定されます。
経営者
売上、在庫、決済データが合っていることが重要なのですね。
税理士
そのとおりです。
アパレル・小売業では、商品数量、粗利益、お金の流れ、電子データの4つが整合しているかを見ると、税務リスクの大部分を把握できます。
POS、EC、決済会社、会計帳簿、棚卸表がバラバラだと、税務調査で説明が難しくなります。
逆に、これらがきちんとつながっていれば、税務調査でも説明しやすくなります。
町田・相模原でアパレル・小売業を始める方へ
アパレル・小売業は、開業時から在庫管理、POSレジ、EC、決済サービス、仕入、資金繰りを一体で設計することが重要です。
特に、個人事業で始めるか法人で始めるか、どのタイミングで法人化するか、役員報酬をいくらにするか、設備投資や融資をどう進めるかは、開業後の税負担や資金繰りに大きく影響します。
タクスリンク税理士事務所では、町田・相模原で起業する方向けに、個人事業と法人のどちらが有利か、最適な役員報酬のシミュレーション、補助金・助成金・融資制度の検索、金融機関検索、税務署へ提出する開業時の税務書類作成ができる「まちさが起業ナビ」を公開しています。
町田・相模原でアパレル・小売業を始める方は、まちさが起業ナビもご活用ください。
また、タクスリンク税理士事務所では、町田・相模原の中小企業・個人事業主の方に向けて、記帳、決算、申告、融資、資金繰りまで見据えた税務顧問サービスを提供しています。
アパレル・小売業では、在庫と売上の管理体制を最初に整えることが重要です。開業後に帳簿や在庫管理が崩れてから直すより、開業時から税務調査に耐えられる管理方法を作っておく方が安全です。
町田・相模原で税理士をお探しなら、タクスリンク税理士事務所へご相談ください。
要点
主な根拠
※本記事は、アパレル・小売業に関する一般的な税務上の取扱いを解説したものです。実際の処理は、法人・個人の別、販売チャネル、契約形態、在庫管理方法、ポイント制度、輸入取引の有無、消費税の課税区分などにより異なります。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。
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