社会保険労務士業は、2026年時点では需要面に追い風がある業種です。
人手不足、賃上げ、社会保険の適用拡大、働き方改革、労務コンプライアンス対応などにより、単純な手続代行だけでなく、労務相談、給与計算、助成金、人事制度、労務監査といった領域へ業務が広がっています。
一方で、電子申請、クラウド給与、AIの普及により、定型的な手続業務は効率化と価格競争が進んでいます。
そのため、社会保険労務士業は、顧問契約と給与計算を大量に受託する規模型と、労務相談・人事制度・労務監査などの高付加価値型に分かれていく傾向があります。
税務上は、特に次の論点が重要です。
個人社労士の報酬に対する源泉徴収、年末・決算期の売上計上時期、助成金成功報酬の計上時期、立替金・預り金と売上の区分、外注費と給与の区分、個人事業税です。
社労士
社会保険労務士業を営んでいます。
この業界では、最近どのような動向がありますか?
税理士
社会保険労務士業は、需要面では比較的追い風があります。
人手不足、賃上げ、社会保険の適用拡大、働き方・労務コンプライアンス対応などにより、企業側の相談ニーズは強くなっています。
単純な手続代行だけでなく、労務相談、給与計算、助成金、人事制度、労務監査などへ業務領域が広がっています。
社労士
業界全体としては、拡大しているのでしょうか?
税理士
登録者数の面では、増加傾向にあります。
全国社会保険労務士会連合会の2025年白書では、2025年3月31日時点の登録社会保険労務士は46,237人とされています。2015年度末の40,110人から継続的に増加しています。
また、社労士法人の会員数も3,103まで増えています。
一方で、電子申請やクラウド給与、AIにより、定型的な手続業務は効率化されやすくなっています。
そのため、今後は「顧問契約と給与計算を大量に受託する規模型」と、「労務相談・人事制度・労務監査などの高付加価値型」に分かれていく可能性があります。
社労士
社労士業で、税務上まず注意すべき点は何ですか?
税理士
まず重要なのは、個人の社会保険労務士に支払われる報酬は、原則として源泉徴収の対象になるという点です。
所得税法204条1項2号では、弁護士、税理士等と並び、社会保険労務士の業務に関する報酬・料金が源泉徴収対象として定められています。
現在の実務では、復興特別所得税を含めて、原則10.21%が源泉徴収されます。1回の支払額のうち100万円を超える部分については、20.42%となります。
ただし、すべての顧客が必ず源泉徴収するわけではありません。給与について源泉徴収義務を負わない個人が支払う場合など、一定の場合には源泉徴収義務がないことがあります。
社労士
顧客から10.21%を差し引かれて入金された場合、差し引かれた後の金額を売上にすればよいですか?
税理士
いいえ。売上は、原則として源泉徴収前の報酬総額で計上します。
たとえば、報酬100,000円に対して10,210円が源泉徴収され、89,790円が振り込まれた場合でも、売上は100,000円です。
差し引かれた10,210円は、必要経費ではありません。確定申告で精算する所得税の前払いのような性格です。
ネット入金額だけを売上にしていると、源泉徴収された分だけ売上が少なくなってしまうため注意が必要です。
社労士
社労士法人の場合も、同じように源泉徴収されますか?
税理士
通常、社会保険労務士法人に対する報酬は、個人社労士のような所得税法204条の源泉徴収対象にはなりません。
源泉徴収の論点は、個人開業の社会保険労務士か、社会保険労務士法人かで大きく変わります。
したがって、社労士業の税務を確認するときは、まず個人事業なのか法人なのかを分けて考える必要があります。
社労士
売上は、入金された日に計上すればよいのでしょうか?
税理士
入金日だけで判断するのは危険です。
個人事業の場合、所得税法36条では、その年において収入すべき金額を収入金額とする考え方が定められています。
また、所得税基本通達36-8では、人的役務の提供による収入について、原則として役務の提供を完了した日などを基準にする考え方が示されています。
そのため、12月に業務が完了して報酬を請求できる状態になっているのに、1月に入金されたから翌年売上にする、という処理は、契約内容によっては期ズレになる可能性があります。
社労士
月額顧問料は、どのように考えますか?
税理士
月額顧問料は、通常、各月の役務提供に対応して売上計上します。
たとえば、12月分の顧問業務を行い、請求や入金が翌年1月になる場合でも、12月分として報酬請求権が発生しているのであれば、12月の売上として未収計上することを検討します。
税務調査でも、年末の未収顧問料や、翌年入金された12月分報酬は確認されやすいポイントです。
社労士
給与計算料や年度更新、算定基礎届などのスポット報酬はどうですか?
税理士
給与計算料やスポット業務についても、入金日だけでなく、役務提供の完了時期と報酬請求権の発生時期を確認します。
給与計算業務であれば、給与計算を完了した時期と請求時期が年末をまたぐ場合に注意が必要です。
年度更新や算定基礎届、就業規則作成、各種手続代行についても、業務が完了し、報酬を請求できる状態になっているかを確認します。
社労士
助成金の成功報酬は、いつ売上にすればよいですか?
税理士
助成金の成功報酬は、契約内容の確認が特に重要です。
契約上、支給申請をした時点で報酬が発生するのか、支給決定時点で発生するのか、顧客に助成金が入金された時点で発生するのかによって、売上計上時期が変わります。
「12月に支給決定しているが、顧客への入金や請求が1月だから翌年売上」と単純に処理すると、契約内容によっては売上の期ズレになる可能性があります。
助成金成功報酬は金額が大きくなることもあるため、税務調査でも確認されやすい項目です。
社労士
顧客から預かった行政手数料や、立て替えた実費は売上になりますか?
税理士
ここも社労士業では重要です。
顧客が本来負担すべき公租公課、行政手数料、実費などを社労士が一時的に立て替え、同額を精算しているだけで、帳簿上も報酬と明確に区分されている場合には、原則として社労士自身の売上とは別に整理します。
一方で、「実費」「交通費」「通信費」などの名目で顧客に請求していても、実質的に社労士自身の業務コストを請求しているだけであれば、報酬と合わせて課税売上になる可能性があります。
名目ではなく、誰が本来負担すべき費用なのか、報酬と明確に区分しているかが重要です。
社労士
消費税では、社労士報酬は課税売上になりますか?
税理士
課税事業者であれば、原則として課税売上になります。
社会保険労務士の顧問料、給与計算料、手続報酬、就業規則作成料、助成金申請報酬、労務相談料、研修料、労務監査料などは、事業として対価を得て行う役務提供に該当するため、基本的に消費税の課税対象です。
一方で、顧客が本来負担すべき行政手数料等を単に預かっているだけの場合は、報酬とは分けて整理する必要があります。
社労士
請求書では、消費税と源泉所得税をどう扱えばよいですか?
税理士
請求書上、報酬額と消費税額を明確に区分しているかが重要です。
報酬100,000円、消費税10,000円と明確に区分している場合、源泉徴収対象を原則として報酬100,000円部分とする取扱いが可能です。
一方、請求書上で消費税額が明確に区分されていない場合には、税込金額を基礎として源泉徴収するのが原則です。
個人社労士の場合、請求書の作り方によって、顧客側の源泉徴収額にも影響するため注意が必要です。
社労士
外注スタッフや他の社労士に業務委託している場合は、何に注意すべきですか?
税理士
外注費と給与の区分に注意が必要です。
契約書上は業務委託としていても、実態として勤務時間や勤務場所が決まっている、指揮命令を受けている、仕事を自由に断れない、道具やPCを事務所が用意している、といった事情があると、税務上は給与と判断されるリスクがあります。
給与認定されると、源泉所得税の問題だけでなく、消費税の仕入税額控除にも影響します。
社労士業は、業務委託スタッフ、外注社労士、フリーランススタッフを使うこともあるため、外注費の実態確認は重要です。
社労士
個人開業の社労士の場合、個人事業税もかかりますか?
税理士
はい。個人開業の社会保険労務士業は、個人事業税の第三種事業に該当し、標準税率は5%です。
個人事業税では、所得税の青色申告特別控除は使えません。
つまり、所得税では青色申告特別控除65万円などを差し引いていても、個人事業税ではその控除額を加算して計算する点に注意が必要です。
一方、事業主控除として、原則年間290万円の控除があります。
社労士
税務調査では、どのようなことを聞かれやすいですか?
税理士
社労士業専用の税務調査チェックリストが国税庁から公表されているわけではありません。
ただし、業務の性質から見ると、まず、どのような業務で売上が立つのか、料金表はあるか、顧問契約は何社あるか、請求書をどのシステムで発行しているか、入金口座はいくつあるか、といった事業概要を確認される可能性があります。
そのうえで、顧問先一覧、請求データ、銀行入金、会計帳簿を突合されます。
口座振替を利用している場合には、口座振替データと売上帳を照合しやすいため、売上計上漏れだけでなく、計上時期のズレやスポット報酬の漏れが問題になりやすいです。
社労士
年末や決算期では、どの点を確認しておくべきですか?
税理士
12月までに完了して翌年請求した仕事がないか、助成金の支給決定済み案件がないか、12月分の給与計算料を翌年売上にしていないか、年度更新や算定基礎届の報酬をいつ計上しているかを確認しておくべきです。
個人事業者の場合は、源泉徴収票や支払調書等に記載された報酬額と、申告売上が一致するかも確認されやすいです。
ネット入金額だけを売上にしていると、源泉徴収税額分だけ売上が少なくなるため、特に注意が必要です。
社労士
経費側で注意されやすいものはありますか?
税理士
業務委託費、外注費、社労士会費、研修費、書籍代、交際費、車両費、自宅事務所の家賃、通信費などは確認されやすい項目です。
特に自宅事務所の場合、家賃、電気代、通信費などについて、事業使用割合の根拠を残しておく必要があります。
士業は、仕事とプライベートの境界が曖昧になりやすいため、家事関連費の按分根拠は重要です。
また、社労士業はマイナンバー、給与情報、労務情報など機密性の高い情報を扱うため、クラウド利用料やセキュリティ費用は事業上重要な経費になり得ます。契約内容や利用期間が分かる資料を保存しておきましょう。
社労士
税務調査に備えて、どのような資料を作っておくとよいですか?
税理士
社労士業では、次の資料があると説明しやすくなります。
顧問先一覧、料金表、顧問契約書、スポット案件管理表、助成金案件一覧、請求書一覧、入金一覧、源泉徴収された報酬一覧、預り金・立替金明細、外注先一覧です。
この10種類の資料が会計帳簿とつながっていれば、売上計上、入金管理、源泉徴収、未収報酬、外注費、立替金の説明がかなりしやすくなります。
町田・相模原で社会保険労務士業を開業する方へ
社会保険労務士業は、専門知識を活かして開業しやすい一方で、税務上は意外に確認すべき点が多い業種です。
個人開業か社労士法人か、源泉徴収の対象になるか、助成金成功報酬をいつ売上にするか、顧客から受け取る実費を売上に含めるか、外注スタッフを給与として扱うべきかなど、開業直後から整理しておきたい論点があります。
また、町田・相模原でこれから開業する場合には、個人事業と法人のどちらが有利か、役員報酬をいくらにするか、補助金・助成金・融資制度をどう探すか、どの金融機関で事業用口座を開設するか、税務署へ提出する開業時書類をどう準備するかも重要です。
タクスリンク税理士事務所では、町田・相模原で起業する方向けに、個人事業と法人の比較、役員報酬シミュレーション、補助金・助成金・融資制度検索、金融機関検索、税務署提出書類の作成に使える「まちさが起業ナビ」を公開しています。
町田・相模原で起業する方は、まちさが起業ナビをご覧ください。
社会保険労務士業は、顧問契約や給与計算が安定収入になりやすい一方で、売上計上時期、源泉徴収、外注費、個人事業税の処理を誤ると、税務調査で修正が必要になることがあります。
町田・相模原で社会保険労務士業を開業する方、個人開業から法人化を検討している方、開業後の税務・会計処理を整えたい方は、タクスリンク税理士事務所へご相談ください。
町田・相模原で税理士をお探しなら、タクスリンク税理士事務所へ
要点
主な根拠
※本記事は、社会保険労務士業に関する一般的な税務上の取扱いを解説したものです。実際の処理は、個人開業か社労士法人か、契約書の内容、報酬の発生時期、請求書の記載方法、消費税の課税事業者該当性、外注スタッフの実態などにより異なります。個別判断が必要な場合は、税理士等の専門家にご相談ください。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。
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