役員報酬をいくらに設定すれば一番節税になるのかは、法人の利益、社長個人の生活費、年齢、社会保険、将来の退職金、会社に残す資金によって変わります。
そのため、現時点の情報だけで「絶対に月額いくらが正解です」とは言えません。
ただし、令和8年現在の制度で、オーナー社長、中小法人、給与以外の大きな所得がないケースを前提にすると、最初に比較すべき金額として、月額55万円前後、年660万円程度はかなり重要な基準点になります。
もっとも、これは「全員が月55万円にすべき」という意味ではありません。
基本は、生活に必要な手取りを確保したうえで、法人税、所得税、住民税、社会保険料、会社に残す利益、将来の役員退職金まで含めて判断します。
経営者
令和8年現在、役員報酬はいくらに設定するのが一番節税になりますか?
法人と個人を合計して、税金や社会保険料まで含めて考えたいです。
税理士
現時点の情報だけで、絶対に月額いくらが最適とは言えません。
役員報酬は、法人税だけでなく、社長個人の所得税、住民税、社会保険料、会社負担分の社会保険料、会社に残す資金、将来の役員退職金まで含めて考える必要があります。
ただし、令和8年現在の制度で、他の所得が大きくないオーナー社長を前提にすると、最初に比較すべき金額として、月額55万円前後、年660万円程度はかなり重要な基準点です。
経営者
なぜ月55万円前後が重要なのですか?
税理士
令和8年、令和9年の所得税では、給与収入だけの場合、年6,655,556円以下の範囲で基礎控除104万円を使えるゾーンがあります。
月55万円を12か月受け取ると、年660万円です。
年660万円であれば、この6,655,556円以下の範囲におおむね収まります。
一方、このラインを少し超えると、基礎控除が104万円から67万円へ下がるため、控除額が37万円縮小します。
そのため、令和8年、令和9年に限って見ると、年660万円前後は非常に意識すべき金額になります。
経営者
では、役員報酬は月55万円にしておけばよいですか?
税理士
そこは注意が必要です。
月55万円が有力な比較基準になるのは確かですが、それが常に正解という意味ではありません。
まずは、生活に必要な手取り額を確保できるかを見ます。
たとえば、月30万円や月40万円の役員報酬で生活に必要な手取りが足り、会社の利益もそれほど大きくないのであれば、無理に月55万円まで上げない方が、法人と個人を合わせた負担が軽くなることがあります。
逆に、月55万円にしても法人に大きな利益が残る場合は、さらに高い役員報酬も比較対象になります。
経営者
法人に利益を残すと法人税がかかりますよね。法人税を減らすために、役員報酬を高くした方がよいのではありませんか?
税理士
法人税だけを見れば、役員報酬を増やすほど法人の利益は減ります。
しかし、役員報酬を増やすと、社長個人の所得税、住民税、社会保険料が増えます。さらに、会社負担分の社会保険料も増えます。
つまり、法人税が減っても、個人側の税金や社会保険料がそれ以上に増えることがあります。
そのため、「法人利益をゼロにするまで役員報酬を取る」という考え方は、通常は危険です。
経営者
法人側では、どの利益ラインを見ればよいですか?
税理士
中小法人では、法人所得800万円のラインが非常に重要です。
資本金1億円以下などの通常の中小法人では、国税の法人税率について、年800万円以下の所得部分は15%、800万円を超える部分は23.2%という構造になっています。
地方税も含めて考える必要がありますが、まずは役員報酬を設定した後の法人所得が800万円を大きく超えるのか、それとも800万円以下に収まるのかを確認します。
法人所得が800万円を大きく超える場合は、役員報酬を増やして800万円超部分を削る案も比較します。
一方、法人所得800万円以下の部分まで無理に役員報酬で削ると、会社側で減る税金より、個人側の税金や社会保険料の増加が重くなることがあります。
経営者
個人側では、年660万円以外に見るべきラインはありますか?
税理士
あります。
次に重要なのは、給与収入年850万円です。
給与所得控除は、給与収入が一定額を超えると頭打ちになります。現行制度では、給与収入850万円超で給与所得控除は原則195万円が上限です。
つまり、年850万円を超えて役員報酬を増やしても、給与所得控除は原則として増えません。
そのため、年850万円を超える報酬は、税務上の魅力が明確に下がります。
もちろん、生活資金が必要である、法人利益が非常に大きい、年齢や社会保険の状況が特殊であるなどの事情があれば別ですが、税務だけを理由に年850万円超へ積極的に上げる場合は慎重な比較が必要です。
経営者
社会保険料は、そんなに影響しますか?
税理士
かなり影響します。
法人は、社長1人だけの会社であっても、原則として健康保険・厚生年金の強制適用事業所です。
そのため、常勤役員については、役員報酬を支給する以上、社会保険料を無視して役員報酬を決めることはできません。
役員報酬を増やすと、本人負担分の社会保険料だけでなく、会社負担分の社会保険料も増えます。
税金だけを見ると役員報酬を増やした方がよく見えても、社会保険料まで含めると、法人と個人のトータルでは不利になることがあります。
経営者
昔は、月65万円を超えると厚生年金が頭打ちになるから、そのあたりがよいと聞いたことがあります。
税理士
その考え方は、今後は使いにくくなります。
令和8年現在、厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円ですが、この上限は段階的に引き上げられる予定です。
厚生労働省は、標準報酬月額の上限について、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円へ引き上げることを示しています。
したがって、「月65万円を超えれば厚生年金が増えないから、そのあたりが最適」という考え方は、恒久的な基準にはしにくくなっています。
また、健康保険の標準報酬月額の上限は厚生年金より高いため、厚生年金が上限に達しても、健康保険料はさらに増える場合があります。
経営者
役員報酬を低くして、会社にお金を残し、将来退職金でもらう方が有利ですか?
税理士
現行制度では、長期在任役員の役員退職金は非常に有利になり得ます。
退職所得は、原則として、退職金から退職所得控除を差し引き、その残額の2分の1を退職所得として計算します。
さらに、退職所得は原則として他の所得と分離して課税されます。
そのため、毎年の利益をすべて役員報酬として受け取るよりも、生活に必要な役員報酬を取り、会社に一定の内部留保を残し、将来、適正な役員退職金として受け取る方が、長期では有利になることがあります。
経営者
では、役員報酬をできるだけ低くして、退職金を大きくすればよいですか?
税理士
それも極端です。
役員退職金は、適正額であれば法人側で損金算入できますが、不相当に高額な部分は損金不算入となる可能性があります。
実務では、退職直前の役員報酬、役員在任年数、職責、功績倍率などを見て、退職金の相当性を検討します。
つまり、役員報酬を長期間極端に低くしておき、最後だけ高額退職金を出す設計は、退職金の相当性を説明しにくくなる可能性があります。
また、退職所得課税の優遇が将来も今と同じ形で残る保証はありません。長期計画では制度改正リスクも見ておく必要があります。
経営者
決算が近づいて利益が出そうなら、その時点で役員報酬を上げてもよいですか?
税理士
原則として、そのような自由な調整はできません。
役員報酬を法人の損金にするには、定期同額給与、事前確定届出給与など、法人税法上の要件を満たす必要があります。
特に毎月支給する役員報酬は、原則として事業年度開始から一定期間内に決め、毎月同額で支給する必要があります。
利益を見て年末に増やす、決算直前に調整する、という形では、損金として認められない可能性があります。
経営者
結局、実務ではどの順番で決めればよいですか?
税理士
私なら、次の順番で考えます。
まず、生活に必要な手取り額を確認します。
次に、その手取りを確保するために必要な役員報酬額を出します。
その金額が年660万円以下で足りるなら、令和8年・令和9年の制度上は有力な候補になります。
次に、その役員報酬と会社負担社会保険料を差し引いた後の法人所得が、800万円を大きく超えるかを確認します。
法人所得が800万円を大きく超える場合は、役員報酬を増やす案も比較します。
さらに、年850万円を超える報酬については、給与所得控除の上限、個人税率、社会保険料、将来退職金との関係を見て、かなり慎重に判断します。
経営者
では、「生活に必要な金額を基本にする」という考え方は間違っていないですか?
税理士
かなり妥当です。
ただし、完全な最低生活費だけで決めるのではなく、次の4つを同時に見るのが正確です。
生活に必要な金額、法人所得800万円ライン、個人の年660万円前後と年850万円ライン、将来の適正な役員退職金です。
法人利益がそれほど大きくない会社であれば、月30万円から月40万円など、本当に生活に必要な額まで下げた方が、法人と個人のトータル負担が軽くなることがあります。
一方、法人利益が大きい会社では、月55万円を超える報酬も比較対象になります。
重要なのは、法人税だけでなく、個人税・住民税・社会保険・将来退職金まで含めて、複数年で比較することです。
令和8年現在の役員報酬設計で見るべき4つのライン
役員報酬を決めるときは、次の4つのラインを確認します。
1つ目は、年660万円前後です。
給与収入だけで他所得が大きくない場合、令和8年・令和9年は、年6,655,556円以下の範囲で基礎控除104万円を使えるため、月55万円前後は重要な比較基準になります。
2つ目は、年850万円です。
給与所得控除が原則195万円で頭打ちになるため、年850万円超の報酬は、税務上の魅力が下がります。
3つ目は、法人所得800万円です。
中小法人では、法人所得800万円以下の部分と800万円超の部分で法人税率が変わるため、役員報酬を引いた後の法人所得が800万円を大きく超えるかどうかを見ます。
4つ目は、将来の役員退職金です。
長期在任役員の退職金は、現行制度では税制上有利になり得ます。ただし、役員退職金は適正額である必要があり、将来の制度改正リスクもあります。
町田・相模原で役員報酬の設定に迷っている方へ
役員報酬は、単に法人税を減らすための数字ではありません。
社長個人の生活費、会社の資金繰り、社会保険料、将来の退職金、融資時の決算書の見え方まで含めた、会社経営上の重要な設計項目です。
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要点
主な根拠
※本記事は、令和8年8月現在の制度を前提に、一般的な役員報酬設計の考え方を解説したものです。実際の最適額は、役員報酬を引く前の法人利益、所在地、年齢、社会保険の種類、扶養状況、他の所得、必要生活費、将来の退職時期、役員在任年数などにより異なります。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。
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