会社が権利金や負担金、加盟金などを支払った場合、その支出の効果が1年以上に及ぶものは、法人税法上「繰延資産」として数年間にわたって費用化することがあります。
では、その金額が20万円未満なら、全額を支払った年度の経費にできるのでしょうか。
結論からいうと、法人税法上の一定の繰延資産については、支出する金額が20万円未満であり、その事業年度に損金経理をしていれば、支出年度に全額を損金算入できます。
ただし、この「20万円未満ルール」が適用されるのは、すべての繰延資産ではありません。
対象となるのは、法人税法施行令14条1項6号に定められている、いわゆる「税法固有の繰延資産」です。
経営者
繰延資産は数年かけて経費にすると聞きました。
でも、金額が20万円未満なら、全部その年の経費にしてよいのですか?
税理士
一定の繰延資産については可能です。
法人税法施行令134条には、一定の繰延資産について、支出する金額が20万円未満であれば、その支出額を支出日の属する事業年度に損金経理することで、全額を損金算入できる規定があります。
ただし、「繰延資産なら何でも20万円未満で全額経費」という制度ではありません。
対象となる繰延資産の種類を最初に確認する必要があります。
20万円未満の特例が使えるのは「税法固有の繰延資産」
経営者
どのような繰延資産が対象になるのですか?
税理士
法人税法施行令14条1項6号に掲げられている繰延資産です。
代表的には、次のような支出があります。
・公共的施設や共同的施設の設置・改良のための負担金
・建物や機械などを賃借・使用するために支払う権利金等
・役務の提供を受けるために支払う権利金等
・広告宣伝用資産を取引先等へ贈与したことによって生じる一定の費用
・その他、自社が将来にわたって便益を受けるために支出する一定の費用
などです。
これらのうち、支出の効果が支出日以後1年以上に及ぶものが、税法上の繰延資産となります。
例えば、国税庁は、プライバシーマークの使用許諾に伴って支払う一定の使用料について、法人税法施行令14条1項6号ホの繰延資産に該当するとしたうえで、20万円未満であれば法人税法施行令134条によって支出年度に全額損金算入できると説明しています。
また、太陽光発電設備の連系工事負担金についても、繰延資産として支出する金額が20万円未満の場合には、支出年度に全額を損金算入できることが国税庁の質疑応答事例で示されています。
創立費や開業費には「20万円未満ルール」を使わない
経営者
会社設立時の創立費や開業費も繰延資産ですよね。
20万円未満なら、この制度を使って経費にするのですか?
税理士
ここは区別が必要です。
法人税法施行令134条の20万円未満特例は、施行令14条1項6号の繰延資産を対象とする制度です。
創立費や開業費などは、施行令14条1項1号から5号に定められている別の種類の繰延資産なので、この「20万円未満だから全額損金」という規定を使うものではありません。
ただし、だからといって創立費や開業費を一括経費にできないという意味ではありません。
法人税では、創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債等発行費については、別の償却ルールが設けられています。
そのため、例えば開業費については、20万円未満かどうかとは別の仕組みによって、損金経理した金額を償却できる場合があります。
「20万円未満特例の対象外」と「全額経費にできない」は同じ意味ではない点に注意してください。
整理すると、次のようになります。
| 繰延資産の種類 | 20万円未満特例 | 基本的な考え方 |
|---|---|---|
| 創立費 | 対象外 | 別の償却ルールによる |
| 開業費 | 対象外 | 別の償却ルールによる |
| 開発費 | 対象外 | 別の償却ルールによる |
| 株式交付費・社債等発行費 | 対象外 | 別の償却ルールによる |
| 公共施設等の負担金 | 対象になり得る | 20万円未満なら施行令134条を検討 |
| 賃借・使用のための権利金等 | 対象になり得る | 20万円未満なら施行令134条を検討 |
| 役務提供を受けるための権利金等 | 対象になり得る | 20万円未満なら施行令134条を検討 |
| その他将来の便益を受けるための一定の費用 | 対象になり得る | まず施行令14条1項6号に該当するかを確認 |
「19万円を払ったからOK」とは限らない
経営者
では、請求書が19万円なら、そのまま全額経費にできますか?
税理士
その19万円が、税務上の「20万円未満」の判定単位なのかを確認する必要があります。
法人税基本通達8-3-8では、何を単位として20万円未満かを判定するのかが定められています。
単純に請求書1枚ごとに判定する制度ではありません。
法人税基本通達8-3-8では、おおむね次のように判定します。
| 支出の種類 | 20万円未満の判定単位 |
|---|---|
| 公共的施設等の設置・改良のための費用 | 1つの設置計画・改良計画ごとの支出総額 |
| 資産を賃借・使用するための権利金等 | 契約ごと |
| 役務提供を受けるための権利金等 | 契約ごと |
| 広告宣伝用資産を贈与した費用 | 対象資産1個または1組ごと |
例えば、公共施設の設置負担金について総額30万円を支払う契約になっており、
1回目 15万円
2回目 15万円
と分割して支払ったとしても、
「それぞれ15万円だから20万円未満」
とはなりません。
法人税基本通達8-3-8では、1つの設置計画・改良計画について分割払いする場合、支出時点で見積もられる支出総額によって判定することとされています。
この例では30万円として判定するため、20万円未満特例の対象にはなりません。
20万円ちょうどは対象外
経営者
20万円ちょうどならどうでしょうか?
税理士
対象外です。
基準は「20万円以下」ではなく「20万円未満」です。
したがって、
199,999円 → 金額要件を満たす
200,000円 → 金額要件を満たさない
ということになります。
税込経理か税抜経理かでも20万円判定が変わる
経営者
消費税は含めて20万円を判定するのでしょうか?
税理士
法人が採用している消費税の経理方式によって変わります。
税抜経理方式を採用している場合は原則として税抜金額、税込経理方式を採用している場合は税込金額で判定します。
これは少額減価償却資産などと同じ考え方です。
国税庁の「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」では、法人税法施行令134条の金額基準について、その法人が採用する税抜経理方式または税込経理方式に応じて判定することが示されています。
国税庁のプライバシーマークに関する質疑応答事例でも、この違いが具体例として示されています。
例えば、使用料の税込金額が20万円ちょうどであっても、課税取引で税抜経理を採用しており、税抜金額が20万円未満となる場合には、20万円未満特例を適用できるケースがあります。
一方、税込経理で20万円ちょうどとなる場合には、「20万円未満」ではありません。
損金経理していることも必要
経営者
20万円未満なら、決算書では資産に残したままでも、申告書で減算すれば経費になりますか?
税理士
法人税法施行令134条は、支出年度に損金経理していることを要件としています。
そのため、「20万円未満だから申告書上だけ落とせばよい」という制度ではありません。
会計処理も確認する必要があります。
なお、法人税基本通達8-3-2では、繰延資産となる費用について、その全部または一部を「繰延資産償却」以外の費用科目で損金経理している場合でも、一定の範囲で「償却費として損金経理をした金額」に含まれることが示されています。
したがって、勘定科目の名前だけで判断するのではなく、実際に費用として損金経理されているかを確認します。
固定資産の「20万円未満」とは全く別の制度
経営者
パソコンなどの「20万円未満の一括償却資産」と同じ制度ですか?
税理士
別の制度です。
ここは名前と金額が似ているので混同しやすいところです。
固定資産の場合には、取得価額20万円未満の一定の減価償却資産を3年間で均等に損金算入する「一括償却資産」という制度があります。
今回説明している繰延資産の20万円未満特例は、要件を満たせば支出年度に全額損金算入できる制度です。
同じ「20万円未満」でも、税務処理は全く異なります。
| 制度 | 対象 | 処理 |
|---|---|---|
| 少額の繰延資産 | 施行令14条1項6号の一定の繰延資産 | 20万円未満なら一定要件のもと支出年度に全額損金算入 |
| 一括償却資産 | 取得価額20万円未満の一定の減価償却資産 | 原則3年間で均等に損金算入 |
結局、何を確認すればよい?
20万円未満の繰延資産を支出年度に全額経費にできるか判断するときは、単に金額だけを見るのではなく、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
そもそも通常の費用なのか、固定資産なのか、繰延資産なのか
繰延資産であれば、法人税法施行令14条1項の何号に該当するのか
20万円未満特例の対象となる同項6号の繰延資産なのか
法人税基本通達8-3-8に従った判定単位で20万円未満なのか
税込経理・税抜経理のどちらで金額を判定するのか
支出年度に損金経理しているか
という順序です。
特に実務では、
「19万円だから経費」
ではなく、
「この19万円は何に対する支出なのか」
を先に確認する必要があります。
請求書の金額だけで判断すると、固定資産、前払費用、繰延資産など、本来の税務処理を誤る可能性があります。
町田・相模原で法人の決算・経費処理にお悩みの方へ
繰延資産は、通常の経費や固定資産と比べて日常的に登場する項目ではないため、支出時の処理を誤りやすい分野です。
特に、権利金、加盟金、負担金、契約時の一時金などは、名称だけでは税務処理を判断できません。
支出の目的、契約内容、効果の及ぶ期間、返還の有無などを確認したうえで判断する必要があります。
タクスリンク税理士事務所では、町田・相模原を中心に東京都・神奈川県の個人事業主・中小企業の税務顧問、法人決算、税務相談に対応しています。
経費にしてよいのか、繰延資産として処理すべきなのか判断に迷う支出についても、お気軽にご相談ください。
要点
主な根拠
※本記事は、2026年9月現在の法令・通達等に基づき、法人が支出する繰延資産の一般的な税務上の取扱いを解説したものです。実際の処理は、支出の目的、契約内容、支出の効果が及ぶ期間、返還の有無、支払方法、消費税の経理方式、法人税法施行令14条1項のどの区分に該当するかなどによって異なります。名称や支払金額だけで判断せず、個別の契約内容を確認する必要があります。
関連記事
- 10万円・20万円・30万円・40万円でどう違う?資産購入時の会計処理の改正
- 開業費は何年前の支出まで入れていい?個人事業・法人の違いを税理士が解説
- 会社設立前に個人カードで払った費用は経費にできる?パソコン代・カフェ代・セミナー代の扱い
Author Profile
-
起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。
Latest entries
所得税2026年9月27日20万円未満の繰延資産は全額経費?少額繰延資産の特例を税理士が解説
所得税2026年9月26日使わなくなった固定資産は経費にできる?有姿除却の要件・除却損を税理士が解説
所得税2026年9月25日育成就労外国人の給与は源泉徴収が必要?技能実習との違いを税理士が解説
消費税2026年9月24日消費税の還付が遅い理由は?還付保留・追加資料・税務調査を税理士が解説




