長年勤務した従業員の退職に際し、会社が感謝の気持ちを込めて現金を渡すことがあります。
このような支給は、退職金規程がなく、会社が「餞別」と呼んでいたとしても、実質が退職に伴う一時金であれば、税務上は退職金として取り扱われる可能性があります。
一方、すでに現金を満額で手渡している場合には、退職所得の受給に関する申告書を支払時までに受け取っていたかが重要です。
経営者
長年頑張ってくれた従業員が退職することになったので、餞別として現金30万円を手渡しました。
うちには退職金規程がないのですが、会社の経費で落としてよいですよね?
税理士
従業員が実際に退職し、退職しなければ支給されなかった一時金であれば、名称が「餞別」であっても、原則として退職金や退職慰労金として損金算入できる可能性が高いと考えられます。
退職金規程がないことだけを理由に、直ちに損金算入できなくなるわけではありません。
経営者
「福利厚生費」や「雑費」で処理しても同じですか?
税理士
本件では「退職金」や「退職給付費用」などとして処理するのが適切です。
会社がどの勘定科目を使ったかだけで税務上の性質が決まるわけではありませんが、「餞別」「雑費」「交際費」などとして処理すると、退職に伴う一時金であることが分かりにくくなります。
支給理由や決定経緯も、退職金として統一して記録してください。
経営者
退職金規程がなくてもよいのであれば、何を残しておけばよいですか?
税理士
少なくとも、次の内容を記録した支給決定書や稟議書を作成してください。
・対象者の氏名と退職日
・勤続年数
・長年の勤務に対する功労として支給すること
・退職に伴う一時金であること
・支給額を30万円とした理由
・支給日と決裁者
今回は現金で手渡しているため、本人の署名または記名押印がある受領書も必要です。
経営者
従業員本人には、給与として課税されるのでしょうか?
税理士
退職しなければ支給されず、退職したことを原因として一時に支給されたものであれば、原則として給与所得ではなく退職所得として扱います。
重要なのは「餞別」という名称ではなく、実際に退職を理由として支給されたものかどうかです。
通常の賞与、未払給与、残業代、有給休暇の買取額などが含まれている場合は、その部分を退職金と同じようには扱えません。
経営者
30万円であれば、本人に税金はかからないですよね?
税理士
この30万円だけを受け取り、ほかの退職金との調整がなく、退職所得として適正に処理されるのであれば、通常は課税退職所得は生じません。
退職所得控除額は勤続年数に応じて計算されますが、最低でも80万円です。そのため、30万円は通常、退職所得控除額の範囲内に収まります。
ただし、同じ年や一定期間内に、他社、企業年金、共済などから別の退職金を受け取っている場合には、合算や控除額の調整が必要になることがあります。
経営者
税金が0円なら、30万円をそのまま渡して問題ないということですか?
税理士
ここが最も重要です。
支払時までに「退職所得の受給に関する申告書」を本人から受け取っていれば、退職所得控除額を反映した源泉徴収税額を計算できます。本件では、ほかの退職金との調整がなければ、源泉所得税は通常0円です。
一方、支払時までに申告書を受け取っていなければ、支給額の20.42%を源泉徴収する必要があります。
経営者
申告書は受け取らず、30万円をそのまま手渡してしまいました。
税理士
その場合、30万円の20.42%に当たる61,260円について、源泉徴収不足が生じている可能性があります。
原則として本人から不足額を回収して納付するなど、早急な是正が必要です。
会社が本人負担分まで負担する場合には、その負担額自体の税務上の取扱いを含めて再計算が必要になるため、単純に会社が61,260円を納付すれば終わるとは限りません。
また、後日申告書を受け取っただけで、支払時に申告書が提出されていなかった事実が当然に解消されるわけではありません。
経営者
住民税についても会社で何かする必要がありますか?
税理士
退職所得に対する住民税は、原則として会社が計算し、支給時に特別徴収して納入します。
ただし、本件の30万円が退職所得控除額以下で、ほかの退職金との調整もなければ、通常は住民税も生じません。
税額が0円であっても、退職所得として適切に判定し、必要な書類を作成することが重要です。
経営者
退職所得の源泉徴収票も作るのですか?
税理士
はい。退職金として処理するのであれば、退職所得の源泉徴収票・特別徴収票を作成し、原則として退職後1か月以内に本人へ交付します。
税務署や市区町村への提出範囲は、対象者が役員であるかなどによって異なりますが、本人への交付は必要です。
経営者
今回の処理として、まず何を確認すればよいですか?
税理士
次の順序で確認してください。
第一に、対象者が一般従業員であり、役員や使用人兼務役員ではないことを確認します。
第二に、退職日、支給日、勤続年数、ほかの退職金の有無を確認します。
第三に、支払時までに退職所得の受給に関する申告書を受け取っていたかを確認します。
第四に、支給決定書、稟議書、本人の受領書を整備します。
第五に、源泉所得税と住民税を再計算し、退職所得の源泉徴収票等を作成します。
なお、給与や退職金の支給は消費税の課税仕入れには該当しないため、仕入税額控除はできません。
要点
主な根拠
本件について、直接の判断根拠として示すべき公表判例・裁決例は確認されていないため、法人税法、所得税法、地方税法および所得税基本通達30-1を主な根拠としています。
※本記事は一般的な税務上の取扱いを解説したものです。実際の処理は、対象者の地位、勤続年数、支給日、他の退職金の有無、申告書の提出時期などによって異なります。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。




