役員報酬の税金はいくらかかる?決め方と損しないための考え方

「役員報酬をいくらに設定すればいいのか、正直よく分からない」——法人を設立したばかりの経営者や、これから法人成りを考えている個人事業主の方から、こうした相談を受けることがよくあります。

会社員時代は給与明細を見るだけで済んでいた税金の話が、経営者になった途端に「自分で決めなければならない数字」に変わります。
しかも役員報酬は、一度決めたら簡単には変更できないという独特のルールがあるため、適当に決めてしまうと1年間そのまま突き進むことになりかねません。
今回は、役員報酬にかかる税金の仕組みから、決め方の手順、つまずきやすいポイントまで整理していきます。

なぜ役員報酬の金額で悩む人が多いのか

役員報酬の決め方が難しいのには、はっきりした理由があります。

節税の基本と失敗しない考え方でも触れていますが、節税策には「支出を伴うもの」と「支出を伴わないもの」があり、役員報酬の見直しは後者の代表格です。
それだけに金額の決め方一つで結果が大きく変わってきます。
まず押さえておきたいのは、役員報酬には法人の税金個人の税金という2つの側面が同時に関わってくるという点です。
役員報酬を上げれば会社の利益(所得)が圧縮されて法人税は下がりますが、その分だけ役員個人が受け取る給与所得は増え、所得税・住民税の負担が重くなります。
逆に役員報酬を下げれば個人の税負担は軽くなりますが、会社に利益が残るぶん法人税がかかります。
つまり役員報酬は「会社側の税金」と「個人側の税金」のシーソーのような関係にあり、どちらか一方だけを見て決めると損をしやすいというわけです。

さらに厄介なのが、社会保険料の存在です。
役員報酬には健康保険・厚生年金保険の保険料がかかり、会社負担分と本人負担分を合わせるとおおむね報酬額の30%前後にのぼるといわれています。
せっかく法人税を減らそうと役員報酬を上げても、社会保険料の増加でかえって手取りが減ってしまうケースも珍しくありません。

そしてもう一つ、多くの経営者を悩ませるのが「一度決めたら期の途中で変えられない」というルールです。
次の章で詳しく見ていきましょう。

役員報酬にかかる税金の仕組み

まず、役員報酬に関わる税金の全体像を押さえておきます。

役員個人にかかる税金

役員報酬は税法上、従業員の給与と同じ「給与所得」として扱われます。
そのため役員個人には次の税金がかかります。

  • 所得税(給与所得控除後の金額に税率をかけて算出。
    税率は所得が多いほど高くなる累進課税)
  • 復興特別所得税(所得税額に2.1%を乗じた金額)
  • 住民税(前年の所得金額をもとに、翌年課税される。
    税率はおおむね10%)

会社は毎月の役員報酬から、国税庁の源泉徴収税額表に基づいて所得税を天引きし、支払った月の翌月10日までに納付する義務があります(従業員が常時10人未満の会社には、年2回にまとめて納付できる特例もあります)。

会社にかかる税金

一方、会社側から見ると、役員報酬は要件を満たせば全額を経費(損金)として計上できます。
損金が増えれば会社の利益が圧縮され、法人税の負担が軽くなる仕組みです。
ここで重要になるのが「損金算入の要件」で、主に次の3種類のいずれかに当てはまる必要があります。

  1. 定期同額給与——毎月同じ金額を支給する、最も一般的な形態
  2. 事前確定届出給与——あらかじめ税務署に届け出た時期・金額で支給する給与(賞与にも使える)
  3. 業績連動給与——会社の利益指標などと連動して金額が変わる給与(上場企業向けの色合いが強く、中小企業ではあまり使われません)

多くの中小企業では1の定期同額給与が基本になりますが、これには「事業年度が始まってから3カ月以内に決めた金額でなければならず、期の途中で金額を変えると、その変更分は損金として認められない」という重要な制限があります。
つまり役員報酬は、期首から3カ月以内に一度決めたら、原則として1年間そのままにしなければならない数字なのです。

役員報酬を決める手順

ここまでの仕組みを踏まえて、実際にどう決めていけばよいか、手順に沿って整理します。

手順1: 事業年度の利益予想を立てる

まず、今期どのくらいの利益(役員報酬を差し引く前の利益)が見込めるかを予想します。
役員報酬は決算の直前ではなく、期首の段階でおおよその着地を見通したうえで決める必要があるためです。

手順2: 法人税率の「800万円の壁」を意識する

資本金1億円以下の中小法人の場合、法人税率は所得800万円以下の部分が15%、800万円を超える部分は23.2%です。
この段差があるため、会社に残す利益をどのあたりの水準にするかによって、役員報酬として社外に出すべき金額が変わってきます
利益が少ない年に役員報酬を高く取りすぎると、会社に利益がほとんど残らず、翌年以降の投資や納税の原資が不足するリスクもあるため注意が必要です。

手順3: 社会保険料込みで「手取り」を試算する

役員報酬の額面だけで判断せず、次の計算式で実際の手取りをイメージしておきましょう。

手取り額 = 額面 −(所得税・復興特別所得税+住民税+社会保険料の本人負担分)

社会保険に加入する場合、報酬を上げるほど保険料の負担も比例して増えていきます。
将来受け取る年金額が増えるというメリットもありますが、目先のキャッシュフローを優先するのか、将来の保障を優先するのかによって、最適な金額は変わってきます。

手順4: 株主総会・取締役会で正式に決定する

金額のイメージが固まったら、定款または株主総会の決議で役員報酬の総額を決定します。
役員が複数いる場合は、総額の範囲内で各役員への配分を取締役会(または代表者)に一任することも可能です。
決定した内容は議事録として残しておきます。

手順5: 事前確定届出給与を使うかどうか検討する

毎月の定期同額給与に加えて、賞与のような形で特定の時期にまとまった金額を支給したい場合は、事前確定届出給与の届出を税務署に提出します。
届出内容と1円でも異なる金額を支給すると、その支給額の全額が損金不算入になるという厳しいルールがあるため、届出通りに実行できる金額を慎重に設定することが欠かせません。

つまずきやすいポイント・よくある誤解

期の途中で「やっぱり変えたい」は原則できない

業績が想定より良くなった(悪くなった)からといって、期の途中で定期同額給与の金額を変更すると、変更前後の差額が損金として認められなくなります。
増額分だけでなく、場合によっては全体の取り扱いに影響することもあるため、期首の見積もりが重要になります。

「高すぎる役員報酬」は経費として否認されることがある

役員報酬は決めた金額をそのまま損金にできるわけではなく、会社の規模や業績、同業種の水準と比べて不相当に高いと判断されると、超過分の損金算入が認められない場合があります。
節税のつもりで高く設定しすぎると、かえって法人税の負担が増えてしまうこともあるため、業績とのバランスを意識しておきましょう。

家族を役員にする節税は「実態」が伴っていないとリスクがある

配偶者や親族を役員にして報酬を分散する方法は、所得を複数人に分けることで全体の税負担を抑える効果が期待できます。
ただし、実際に経営や業務に関与していない「名前だけの役員」に報酬を支払っていると判断されると、税務調査で否認される可能性がある点には注意が必要です。
役割や勤務の実態を伴わせることが前提になります。

社会保険料を計算に入れずに決めてしまう

法人税・所得税だけを見て役員報酬を決めてしまい、あとから社会保険料の負担の重さに気づくケースも少なくありません。
会社負担分も含めて考えると、報酬額に対する影響は決して小さくないため、決める前に必ず試算しておきたいところです。

まとめ

役員報酬は、会社の税金と個人の税金、さらに社会保険料までが絡み合う「一度決めたらしばらく動かせない」数字です。
目先の節税効果だけでなく、事業年度全体の利益予想と手取りのバランスを見ながら、期首のタイミングで慎重に決めていきましょう。

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末廣 大地
起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。