設立初年度の役員報酬はいつまでに決める?開業日から3か月ではないとされた裁決例

定期同額給与の「3ヶ月以内」の意義

「会社を設立したばかりで、まだ売上がありません。実際に営業を始めてから役員報酬を決めれば大丈夫でしょうか?」

会社設立直後は、売上が立つまで時間がかかることがあります。

特に、医院、歯科医院、美容業、不動産業、建設業、許認可が必要な事業などでは、法人設立日と実際の営業開始日がずれることも珍しくありません。

そのため、

「まだ開業していないのだから、役員報酬も発生しない」

「実際に事業を始めてから3か月以内に役員報酬を決めればよい」

と考えたくなる場面があります。

しかし、税務上の定期同額給与の判定では、原則として「開業日」ではなく「事業年度開始の日の属する会計期間開始の日」が基準になります。

今回取り上げる裁決例では、歯科医業を営む医療法人社団が、設立初年度に理事長報酬を月0円から180万円へ、その後280万円へ増額しました。

医療法人側は、事実上の事業開始日は令和元年6月1日であり、その日から3か月以内に改定したので定期同額給与に該当すると主張しました。

しかし、国税不服審判所は、開業日ではなく定款に定められた設立後最初の会計年度を基準に判断し、役員給与の全額2,040万円を損金に算入できないとしました。

結論:設立初年度でも「開業日から3か月」ではありません

結論からいうと、設立初年度の役員報酬についても、定期同額給与の判定では、原則として開業日ではなく、定款等に定められた会計期間の開始日を基準に考えます。

今回の裁決では、法人の設立後最初の事業年度は、定款に定められた設立後最初の会計年度である、設立の日から令和2年2月29日までと認定されました。

そして、役員報酬の改定は、令和元年7月18日及び同年9月17日にされたものと推認され、いずれも設立後最初の会計期間開始の日から3か月を経過した後の改定であると判断されました。

その結果、本件役員給与は、法人税法34条1項1号の定期同額給与に該当せず、損金の額に算入されませんでした。

重要なのは、次の点です。

  • 設立初年度でも、役員報酬は原則として会計期間開始日から3か月以内に決める必要がある
  • 実際の開業日や営業開始日を基準にできるとは限らない
  • 月額報酬の「限度額」を決めただけでは、具体的な支給額を決めたことにはならない
  • 資金繰りの都合で一時的に低く支給し、後から増額しても、当然に定期同額給与になるわけではない
  • 理事長は、医師として診療していても、法人税法上の使用人兼務役員には当たらない

定期同額給与とは何か

法人が役員へ支給する給与は、従業員給与とは異なり、税務上、損金算入に厳しい制限があります。

法人税法34条1項は、内国法人が役員に対して支給する給与のうち、一定のものに該当しないものは損金に算入しないと定めています。

その代表が、定期同額給与です。

定期同額給与とは、簡単にいえば、毎月など1か月以下の一定期間ごとに支給され、各支給時期の支給額が同額である役員給与です。

例えば、毎月末に役員報酬50万円を支給し、事業年度を通じて同じ金額である場合には、原則として定期同額給与に該当します。

反対に、利益の状況を見ながら、途中で自由に増減させることができるとすると、法人の利益調整に使われるおそれがあります。

そのため、役員給与については、事前に支給額を決め、その後も原則として同額で支給することが求められています。

役員報酬の改定が認められる3つの類型

役員報酬を途中で変更した場合でも、すべてが直ちに損金不算入になるわけではありません。

法人税法施行令69条1項1号では、定期同額給与として認められる改定を、大きく次の3つに整理しています。

区分 内容
通常改定 事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までにされた定期給与の額の改定
臨時改定事由による改定 役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情による改定
業績悪化改定事由による改定 経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由による減額改定

今回問題になったのは、このうち通常改定に該当するかどうかです。

医療法人側は、実際の事業開始日である令和元年6月1日を基準にすれば、7月及び9月の役員報酬改定は3か月以内であると主張しました。

しかし、審判所は、この主張を採用しませんでした。

今回の事案の概要

今回の請求人は、歯科医業を営む医療法人社団です。

設立総会では、定款及び役員の月額報酬限度額が承認され、理事長の月額報酬限度額は440万円とされていました。

また、定款には、会計年度について、毎年3月1日から翌年2月末日までとし、設立後最初の会計年度は設立の日から令和2年2月29日までとする旨が定められていました。

その後、請求人は、平成31年4月26日に診療所の新規開設許可を取得しました。

診療所開設許可申請書には、開設予定年月日は令和元年6月1日と記載されていました。

そして、理事長に対する役員給与は、次のように支給されました。

期間 理事長報酬の月額
平成31年4月から令和元年6月 0円
令和元年7月及び8月 180万円
令和元年9月から令和2年2月 280万円

請求人は、この役員給与の合計額2,040万円を定期同額給与として損金に算入しました。

これに対し、原処分庁は、この役員給与は定期同額給与に該当しないとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行いました。

請求人の主張:開業日から3か月以内ならよいはず

請求人は、主に次のように主張しました。

まず、医療法人としての事業開始日は令和元年6月1日であり、それ以前には全く取引が発生していませんでした。

したがって、開業前で売上のない平成31年4月及び令和元年5月に役員給与が発生しないのは当然であり、開業前から定期同額給与を発生させるべき法理も、会計上の妥当性も、経済合理性もないと主張しました。

そのうえで、法人税法施行令69条1項1号の「会計期間開始の日」とは、実質的には開業の日である令和元年6月1日と解すべきであると主張しました。

また、理事長の月額報酬280万円は、もともと決まっていた確定額であり、令和元年7月及び8月に180万円としたのは資金繰りの都合にすぎないとも主張しました。

さらに、設立総会において理事長の月額報酬限度額440万円が定められていた以上、その限度額以内であれば、お手盛りの弊害はなく、同額であると解することができるとも主張しました。

しかし、審判所は、これらの主張をいずれも採用しませんでした。

審判所の判断1:会計期間開始日は開業日ではない

審判所は、まず、法人税法13条1項に着目しました。

法人税法13条1項は、「事業年度」とは、法人の財産及び損益の計算の単位となる期間、つまり会計期間で、法令又は定款等に定めるものをいうと規定しています。

今回の医療法人の定款には、設立後最初の会計年度は設立の日から令和2年2月29日までと定められていました。

そのため、審判所は、請求人の設立後最初の事業年度は、定款に定められた設立後最初の会計年度であると判断しました。

そして、法人税法施行令69条1項1号の「当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日」の意味は、法人税法13条1項の会計期間を前提にすれば明らかであり、これを開業日と解することはできないとしました。

租税法規は、多数の納税者間の公平を図る観点から、法的安定性が強く求められます。

そのため、文理上意味が明らかな規定について、納税者に有利なようにみだりに拡張解釈や類推解釈をすることはできない、という判断です。

審判所の判断2:事前の定めがあったとは認められない

次に、審判所は、役員給与の具体的な支給額について、事前の定めがあったかどうかを検討しました。

今回、設立総会議事録には、理事長の月額報酬限度額440万円が定められていました。

しかし、これはあくまで上限額です。

実際に理事長へいくら支給するのかについて、月額180万円や月額280万円と定めた書類は見当たりませんでした。

審判所は、本件役員給与の支給額について定めのある書類は、月額報酬限度額を定めた設立総会議事録以外に見当たらないと指摘しました。

そのため、本件7月支給額改定及び本件9月支給額改定は、そもそも事前の定めによるものとは認められないと判断しました。

そして、7月分の役員報酬が総勘定元帳の役員報酬勘定に計上された日である令和元年7月18日に、月0円から月180万円への改定がされたものと推認しました。

同じく、9月分の役員報酬が総勘定元帳に計上された日である令和元年9月17日に、月180万円から月280万円への改定がされたものと推認しました。

これらの改定は、いずれも設立後最初の会計期間開始の日から3か月を経過した後にされたものとされました。

審判所の判断3:資金繰りの都合は臨時改定事由ではない

請求人は、令和元年7月及び8月の支給額を180万円としたのは、資金繰りの都合によるものであると主張しました。

しかし、審判所は、この主張も採用しませんでした。

臨時改定事由とは、役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情をいいます。

例えば、役員が急に代表取締役へ就任した場合や、合併・組織再編等により職務内容が大きく変わった場合などが典型です。

今回のように、資金繰りの都合で一時的に支給額を低くし、後から増額することは、役員の地位や職務内容の重大な変更とはいえません。

また、3か月経過日までには予測し難い偶発的な事情も見当たらないとされました。

そのため、本件各支給額改定はいずれも臨時改定事由による改定には当たらないと判断されました。

審判所の判断4:増額改定なので業績悪化改定事由にも当たらない

業績悪化改定事由による改定は、経営状況が著しく悪化したことなどを理由とする改定です。

ただし、これは減額改定に限られます。

今回の改定は、月0円から180万円、さらに180万円から280万円への増額改定です。

そのため、業績悪化改定事由による改定に当たらないことは明らかであるとされました。

「報酬限度額以内なら同額」という考え方も否定された

請求人は、設立総会で理事長の月額報酬限度額440万円が定められていた以上、その限度額以内であれば、お手盛りの弊害はなく、各支給時期における支給額は同額と解することができるとも主張しました。

しかし、審判所はこれも否定しました。

定期同額給与は、各支給時期における支給額が同額であることが求められます。

月額報酬の上限が440万円と決まっていたとしても、実際の支給額が、0円、180万円、280万円と変動していれば、各支給時期の支給額が同額であるとはいえません。

「限度額以内だから同額」という解釈は、法令が役員給与の取扱いを明確に定めていることに照らして採用できないとされました。

理事長は使用人兼務役員にはならない

請求人は、本件理事長は医療法人の理事長である前に医師であるため、医師兼務役員であり、使用人兼務役員に当たる余地があるとも主張しました。

この点についても、審判所は明確に否定しています。

法人税法34条6項は、使用人としての職務を有する役員について定めていますが、社長、理事長その他一定の役員は、使用人兼務役員から除かれます。

つまり、理事長が医師として診療業務を行っていたとしても、法人税法上、理事長である以上、使用人兼務役員には当たりません。

したがって、理事長報酬について、使用人部分と役員部分に分けて、使用人給与として損金算入するという処理は認められませんでした。

この裁決から学ぶべきポイント

1.設立初年度の3か月ルールは、開業日基準ではない

設立後すぐに営業できない事業は多くあります。

許認可、内装工事、設備投資、スタッフ採用、広告準備などに時間がかかることもあります。

しかし、役員給与の定期同額給与判定では、原則として、実際に売上が発生した日や開業日ではなく、定款等に定めた会計期間の開始日が基準になります。

設立から営業開始まで間が空く場合ほど、役員報酬の決定時期には注意が必要です。

2.設立総会では「限度額」だけでなく「具体的支給額」も決める

会社や医療法人の議事録では、役員報酬について「月額○○円以内」と限度額だけを定めていることがあります。

しかし、税務上は、限度額の決議だけでは、具体的な支給額を決めたことにはなりません。

定期同額給与として処理するためには、誰に、いつから、月額いくらを支給するのかを明確に決め、その議事録を残しておく必要があります。

例えば、次のような記載が必要です。

  • 理事長又は代表取締役の氏名
  • 支給開始月
  • 月額支給額
  • 支給日
  • 改定理由
  • 決議日

3.資金繰り都合で一時的に低く払うと危険

設立初年度は、資金繰りが安定しないことがあります。

そのため、当初予定していた役員報酬をいったん低くし、資金繰りが改善してから増額したいという実務感覚は理解できます。

しかし、税務上は、資金繰りの都合による増額改定が、当然に臨時改定事由として認められるわけではありません。

特に、今回のように、月0円から180万円、さらに280万円へ増額するような処理は、定期同額給与の要件を満たさない可能性が高くなります。

設立初年度に資金繰りが不安定な場合には、無理に高額な役員報酬を設定するのではなく、最初から継続して支給できる金額を慎重に決める必要があります。

4.「売上がないから役員報酬もない」は税務上の答えにならない

開業前に売上がない以上、役員報酬を支給しないのは自然だと感じるかもしれません。

しかし、定期同額給与の制度は、売上の有無ではなく、役員給与の支給時期・支給額に対する恣意性を排除するための制度です。

したがって、売上がない期間があったとしても、その後に役員報酬を自由に増額してよいことにはなりません。

役員給与については、会計上の感覚や資金繰り上の都合だけでなく、法人税法上の要件に沿って設計する必要があります。

5.医療法人の理事長報酬は特に注意が必要

医療法人では、理事長が医師として診療にも従事していることが通常あります。

そのため、実務感覚としては、理事長報酬の中に「医師としての労務対価」が含まれていると考えたくなることがあります。

しかし、法人税法上、理事長は使用人兼務役員から除かれます。

医師として診療しているからといって、理事長報酬を使用人給与として扱えるわけではありません。

医療法人の設立初年度に理事長報酬を設定する場合には、通常の法人以上に、議事録、支給開始時期、支給額、支給実績を厳格に管理する必要があります。

実務上の対応策

設立時点で役員報酬の設計をしておく

法人を設立する場合には、設立後に売上が立ってから役員報酬を考えるのではなく、設立時点で役員報酬の方針を決めておくべきです。

具体的には、設立総会又は設立後最初の社員総会・株主総会・理事会等で、役員ごとの月額報酬を決定し、議事録に残します。

売上開始が遅れることが見込まれる場合でも、無理なく継続支給できる金額を設定することが重要です。

報酬限度額だけで終わらせない

「月額○○円以内」といった限度額決議だけでは、税務上不十分になる可能性があります。

限度額とは別に、具体的に、誰に、いつから、月額いくら支給するのかを明確に決議しておくべきです。

特に、設立初年度は、後から議事録を整えることが難しくなるため、設立時の書類整備が重要です。

支給開始月を慎重に決める

開業準備中で売上がない期間に役員報酬を支給するかどうかは、資金繰りと税務の両面から検討する必要があります。

支給しない期間を設ける場合には、その後の増額が定期同額給与の要件を満たすかを事前に確認する必要があります。

設立初年度の役員報酬は、単に「開業してから決める」のではなく、設立日、会計期間、開業予定日、資金繰りを踏まえて、事前に設計しておくべきです。

資金繰りが不安なら低めに設定する

設立初年度で売上や資金繰りの見通しが不安定な場合には、後から増額する前提で高めの役員報酬を想定するよりも、最初から継続して支給できる水準に抑える方が安全です。

高額な役員報酬を予定していたものの、資金繰りの都合で一時的に減額し、その後に増額するという処理は、定期同額給与の要件を外れるリスクがあります。

改定日と議事録日を明確にする

今回の裁決では、具体的な支給額を定めた書類がなかったため、総勘定元帳の役員報酬勘定に計上した日付から、改定日が推認されました。

これは、実務上かなり重要です。

役員報酬を決めた日を証明できる議事録がなければ、実際に帳簿へ計上した日や支給した日を基準に、後から改定日を認定される可能性があります。

そのため、役員報酬を決める場合には、議事録の日付、決議内容、支給開始時期を明確に残しておく必要があります。

この裁決を一般法人に置き換えるとどうなるか

今回の事案は医療法人社団の理事長報酬に関するものです。

しかし、考え方は、株式会社や合同会社などの一般法人にも参考になります。

例えば、株式会社を設立し、実際の営業開始が数か月後になる場合でも、法人税法上の事業年度は、定款で定めた会計期間を基準に判断されます。

そのため、

  • 法人設立日は4月1日
  • 店舗オープン日は7月1日
  • 役員報酬は7月から支給開始
  • 9月に資金繰りが安定したので増額

という場合、安易に「開業日から3か月以内だから問題ない」と考えるのは危険です。

法人税法施行令69条1項1号の基準は、開業日ではなく、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日です。

設立初年度こそ、役員報酬の決定時期と議事録整備を慎重に行う必要があります。

まとめ:設立初年度の役員報酬は「開業後に考える」では遅い

今回の裁決では、歯科医業を営む医療法人社団の理事長報酬について、月0円から180万円、さらに280万円へ増額した処理が、定期同額給与に該当しないと判断されました。

ポイントは、実際の開業日ではなく、定款に定められた設立後最初の会計年度を基準に3か月ルールが判断されたことです。

また、設立総会で月額報酬限度額を定めていたとしても、具体的な支給額を決めたことにはなりません。

資金繰りの都合で一時的に低く支給し、後から増額することも、当然に臨時改定事由として認められるわけではありません。

設立初年度の役員報酬は、売上が立ってから考えるのではなく、法人設立時点で、会計期間、開業予定日、資金繰り、議事録整備を含めて設計しておく必要があります。

特に、医療法人、許認可事業、店舗ビジネス、開業準備期間が長い事業では、設立日と営業開始日がずれることが多いため、役員報酬の決定時期に注意が必要です。

今回参照した裁決例

  • 国税不服審判所 令和6年8月1日裁決
  • 金裁(法)令6第1号
  • コード番号:F0-2-1296
  • 事案:設立後最初の事業年度における医療法人社団の理事長報酬について、定期同額給与該当性が争われた事例
  • 結論:審査請求棄却

今回参照した主な法令・通達

※本記事は、上記裁決例を題材として、設立初年度の役員報酬と定期同額給与に関する一般的な考え方を解説したものです。実際の取扱いは、法人の種類、定款の内容、事業年度、役員報酬決議の時期、議事録の記載内容、支給実績その他の事情によって異なります。個別の処理については、実行前に顧問税理士等へご確認ください。

Author Profile

末廣 大地
起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。