役員報酬で節税できるって本当?損しない決め方と3つの落とし穴

「役員報酬を上げれば節税になる」という話を聞いたことはありませんか。
でも実際にいくらに設定すればいいのか、なぜそれで税金が減るのか、きちんと説明できる経営者は意外と少ないものです。
なんとなく去年と同じ額にしている、顧問税理士に丸投げしている——そんな方に向けて、役員報酬による節税の仕組みと、知らずに損してしまうポイントを整理しました。

なぜ役員報酬の額で税金が変わるのか

まず押さえておきたいのは、役員報酬が会社の経費(損金)になるという点です。
会社の利益から役員報酬を差し引いた金額に法人税がかかるため、役員報酬を増やせば会社の利益が減り、法人税は下がります

ただし話はそこで終わりません。
役員報酬を受け取った本人には、今度は個人として所得税・住民税がかかります。
しかも所得税は「稼ぐほど税率が上がる」累進課税です。
つまり、会社の税金を減らそうと役員報酬を増やしすぎると、今度は個人の税負担が重くなってしまう。
役員報酬で節税するとは、この法人と個人、2つの財布のバランスを取る作業にほかなりません。

このバランスを考えるうえで目安になるのが、いわゆる「800万円の壁」です。
資本金1億円以下の中小企業では、法人の所得のうち800万円までは法人税率が15%、それを超える部分は23.2%に上がります。
一方、個人の所得税率は所得が195万円を超えたあたりから段階的に上昇し、900万円を超える水準では法人税率を上回ってきます。
利益がまだ小さいうちは会社に利益を残し、事業が大きくなるにつれて役員報酬に回す比率を調整する、というのが基本的な考え方です。

役員報酬の税金の基本についてさらに詳しく整理していますので、そもそも役員報酬にどんな税金がかかるのか整理したい方はあわせてご覧ください。

役員報酬を経費にするための3つの支給方法

役員報酬なら何でも自由に経費にできるわけではありません。
税務署から「利益操作だ」と見なされないよう、損金算入が認められる支給方法は次の3種類に限られています。

  1. 定期同額給与:毎月一定額を支給する、もっとも一般的な方法です。
    事業年度の途中で金額を変えると、原則として損金にできなくなるため注意が必要です。
  2. 事前確定届出給与:あらかじめ支給時期と金額を税務署に届け出て、その通りに支給する方法です。
    ボーナスのような形で使われますが、届け出た金額や日付から少しでもずれると損金として認められません。
  3. 業績連動給与:会社の業績指標に連動して支給する方法です。
    手続きが複雑で、同族会社を中心とする中小企業では実質的に利用しにくいのが実情です。

多くの中小企業では、扱いやすさから定期同額給与が中心になります。
定期同額給与は「事業年度が始まってから3ヶ月以内」にしか金額を変更できないという制限があるため、決算を見据えて早めに検討することが欠かせません。

役員報酬以外にも使える節税の手順

役員報酬の額を決めるだけでなく、周辺の制度を組み合わせることで節税効果を積み増せます。
代表的なものを、取り組みやすい順に紹介します。

1. 家族を役員にして所得を分散する

所得税は累進課税のため、1人に報酬を集中させるより、複数人に分散したほうが全体の税負担は軽くなりやすい傾向があります。
例えば年間1,500万円を社長1人で受け取る場合と、配偶者を役員にして900万円・600万円に分けて受け取る場合とでは、合計の税負担に大きな差が出るケースがあります。
ただし、実態を伴わない「名ばかり役員」への支給は否認されるおそれがあるため、実際に業務を担ってもらうことが前提です。

2. 小規模企業共済・経営セーフティ共済を活用する

個人事業主や小規模企業の役員向けには、退職金代わりに積み立てながら所得控除を受けられる小規模企業共済という制度があります。
掛け金は年間84万円が上限で、全額が所得控除の対象です。
また、取引先の倒産に備える経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、年間240万円を上限に掛け金を損金にできます。
どちらも「万一への備え」をしながら節税できる点が特徴です。

3. 社会保険料とのバランスを見る

役員報酬の額は、社会保険料の負担にも直結します。
標準報酬月額が上がるほど保険料は増えますが、その分将来受け取る年金額も増えるため、単純に「報酬を下げれば得」とは言い切れません。
健康保険・厚生年金には保険料の上限となる標準報酬月額の等級があるため、報酬が一定水準を超えると保険料の増え方が緩やかになる点も、設定額を考えるうえでの材料になります。

法人の節税全体像では役員報酬以外の節税策も含めて基本を解説していますので、会社全体でどこから手を付けるべきか整理したい方は参考にしてください。

つまずきやすいポイント・よくある誤解

「報酬を上げれば上げるほど得」ではない

役員報酬による節税は、法人税と所得税・住民税・社会保険料を合計した「トータルの負担」で考える必要があります。
会社の利益をすべて役員報酬にしてしまうと、個人側の税・保険料負担が重くなり、かえって手取りの合計が減ってしまうことも珍しくありません。

期の途中では原則変更できない

先ほど触れた通り、定期同額給与は事業年度開始から3ヶ月を過ぎると変更できません。
「今期は思ったより利益が出そうだから役員報酬を増やそう」と考えても、期の途中では損金算入という節税効果を得られない点に注意が必要です。
業績の見通しは、期首のタイミングでできるだけ精度高く立てておくことが重要になります。

過大な役員報酬は否認されることがある

同業種・同規模の会社と比べて明らかに高すぎる役員報酬は、税務調査で「不相当に高額」と判断され、超過分が損金として認められないことがあります。
節税のつもりで大きく上げた報酬が、かえって損金不算入というかたちで裏目に出るケースもあるため、業務内容や会社規模とのバランスを意識した設定が求められます。

役員報酬と合わせて、個人側でできる所得税の節税策を知っておくと、トータルの負担をさらに抑えやすくなります。
所得税を節税する具体策もあわせてご確認ください。

まとめ

役員報酬による節税は、法人税・所得税・社会保険料という複数の負担を天秤にかけながら最適なバランスを探る作業です。
まずは損金算入の3方式と800万円の壁という基本を押さえたうえで、家族役員化や共済制度なども組み合わせて検討してみてください。

Author Profile

末廣 大地
起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。