融資の資金使途とは
資金使途とは、融資を受けた資金の使いみちをいい、次の7種類があります。
- 経常運転資金
- つなぎ資金
- 季節資金
- 納税資金
- 賞与資金
- 設備資金
- 増加運転資金
銀行から融資を受けるには、まず、この資金使途を担当者に説明する必要があります。
銀行の融資は、担当者が稟議書を作成し、審査係や副支店長等で回覧、最終的に支店長、場合によっては本部部長、取締役・頭取が決裁して実行されますが、資金使途はこの稟議書の記載事項となっているのです。
ここからもわかるように、銀行は、会社から申告を受けた資金使途に資金が投下されることを前提に審査を行い、また融資を行うこととなりますので、融資を受けた資金を他の目的に投下すること(資金使途違反といいます。)は厳禁です。
また、資金使途違反は信用保証協会の保証免責事由に含まれているため、もし、信用保証協会保証付融資(マル保融資といいます。)につき資金使途違反を犯すと、その保証は取り消しとなり、場合によっては、今後も保証を受けられなくなってしまいます。
融資を受けた資金は、必ず申告した資金使途に投下するようにしましょう。
1. 経常運転資金
経常運転資金とは
経常運転資金とは、会社が販売や仕入れ等を掛けや手形等の信用取引で行っている場合に、回収サイトと支払サイトのズレによって生じる、営業循環における純額の未収金をいいます。
たとえば、
月中に商品の全てを売り上げる→月末に同量の商品仕入れを行う |
という取引を、毎月繰り返している会社があるとします。
もし、この会社の売上が現金売上、仕入が現金仕入であった場合(=回収サイトと支払サイトにずれがなかった場合)には、月中に受け取った売上代金の中から、月末の商品仕入を行うことができます。
しかしながら、この会社の売上が1ヶ月後回収の掛売上、仕入が現金仕入であった場合(=回収サイトよりも支払サイトが早い場合)には、月末の商品仕入に要する代金を、売上代金の中から捻出することができません。
したがって、会社に現預金があればその現預金を取り崩し、現預金がなければ借入により、月末の仕入代金を捻出することとなります。
こうした、回収サイトよりも支払サイトが短いことにより生ずる資金需要を経常運転資金と呼びます。
なお、経常運転資金として必要となる資金は、次の式で計算します。
- (売掛金+受取手形+棚卸資産)−(買掛金+支払手形)
売掛金や受取手形はいずれ回収され、また棚卸資産はいずれ売上となり、現金化されますが、それまでに買掛金や支払手形の支払いがある場合には、その分の資金を調達する必要があります。
返済原資が明らか(〇月に入金予定の〇社に対する売掛金の回収金、など)であることから、経常運転資金は銀行にとって比較的融資を行いやすい資金使途であるといえます。
経常運転資金は、未収金ですので、一般的には、返済期日1年以内・一括返済の手形貸付または商業手形割引という形で融資が行われます。
経常運転資金の借り方
経常運転資金への融資を申し込む際には、資金繰り表を作成し、自社の売上債権の回収サイトと仕入債務の支払サイトのズレによって、いくらの資金需要が生ずるかを具体的に示すことが有効です。
また、銀行としては、売上債権が回収され、または棚卸資産が売り上げられることを前提として融資を行うわけですから、回収の見込みのない不良債権または売上の見込みのない不良在庫がないかについて確認がなされます。
したがって、あらかじめ自社でもこれらの有無を把握し、銀行に説明ができるようにしておきましょう。
2. つなぎ資金
つなぎ資金とは
つなぎ資金とは、目の前に何らかの入金が見込まれながら、それまでの資金繰りのために必要となる資金をいいます。
たとえば、資金繰りに詰まって固定資産を売却を行っても、売買契約から実際に売却代金の入金までに時間がかかることがあります。
この代金入金までの資金繰りのために必要な資金がつなぎ資金です。
返済原資が明らか(〇月に入金予定の〇社に対する売掛金の回収金、など)であることから、つなぎ資金は銀行にとって比較的融資を行いやすい資金使途であるといえます。
つなぎ資金を借りる場合には、実際に行われたその入金額を返済原資とし、その入金を、融資を行う銀行の口座とすることが条件となります。
また、つなぎ資金への融資(つなぎ融資といいます)は、その入金日を期日とした期日一括返済の手形貸付により行われます。
つなぎ資金の借り方
つなぎ資金は、何らかの入金が見込まれる場合のその入金額を返済原資として借りることとなりますので、その入金は確実に行われるものでなければなりません。
したがって、固定資産売却の例では、売買契約書を提示する等、入金が行われることのわかるエビデンスを銀行に提出しましょう。
また、売買契約が有効なものであっても、買い手の財務状況によっては、期日までに入金がなされない可能性がありますので、場合によっては申込をした会社のみならず、買い手についても調査が行われることがあります。
3. 季節資金
季節資金とは
季節に応じて売上高が大きく変動する会社は、あらかじめ売上高の大きくなる季節に備えて集中的に商品を蓄える必要があります。
しかしながら、その商品を仕入れるのは売上高の小さい季節であり、さらにその商品を売り上げてキャッシュを回収できるのは、売上の大きくなる季節以降となりますので、仕入から回収までの資金需要が相対的に大きくなります。
こうした、売上の季節変動により生じる資金需要を、季節資金といいます。
季節資金への融資は、商品が売り上げとなって回収される、売上の大きくなる季節を期日として、期日一括返済の手形貸付で融資が実行されるのが一般的です。
季節資金の借り方
季節物の商品は、仮に売れ残った場合には陳腐化が早く、不良在庫となりやすいため、銀行は、その会社の販売・仕入計画が妥当なものかどうかを慎重に確認します。
したがって、販売・仕入計画を落とし込んだ資金繰り表、過去数年間の月ごとの販売・仕入の推移がわかる資料の提出が有効です。
なかなかこれらの作成は大変ですが、一度季節資金として融資を受けると、銀行にその会社が季節資金の需要があることが資料として残り、翌年以降はその時期に融資を受けやすくなったり、業績次第では、その時期が近付くと銀行の方から融資の提案を行ってくることもあります。
4. 納税資金
納税資金とは
法人の場合、事業年度終了の日の翌日から2月以内に法人税を納税し、その納税額が一定の金額を超える場合には事業年度開始の日から6月を経過した日から2月以内に中間納税をする必要があります。
利益の出ている会社にとって、この納税額は相当な負担となり、あらかじめ定期積金等で資金の蓄積を図っていない場合には、資金繰りにも大きな影響を与えかねません。
この、納税についての資金需要を、納税資金といいます。
また、これに、決算に伴う配当や役員賞与の支払いなどを含めて、決算資金とよばれることもあります。
なお、消費税と源泉所得税の納税資金を借りることはできません。
これらの租税については取引先や従業員からの預かり金としての性質があることから、納税資金がないという状況がそもそも想定されていないためです。
納税は半期ごとに行われますので、納税資金の融資は、通常、融資期間を6ヶ月とする手形貸付により行われます。
また、納税資金の融資を受けた場合には、その銀行において納税を行うことが原則です。
納税資金の借り方
納税資金は、資金使途が明確であり、融資期間が6ヶ月と短期間です。
また、納税がある会社はそもそも利益の出ている会社です。
したがって、銀行にとって、納税資金は比較的融資がしやすいといえます。
とはいえ、納税の直前になって融資の申込みをしても、審査の進捗によっては納期限には間に合わない場合があるため、早めの対策が必要となります。
納税資金の融資申込には、決算書及び確定申告書が必要となりますが、決算準備が不十分であるとどうしても税金の納期限ぎりぎりでの完成となってしまい、それからでは融資が納税に間に合わなくなってしまうことがありえます。
決算書及び確定申告書を早めに作成することももちろんですが、月次でしっかりと業績を把握し、その期に多額の納税が見込まれることとなった段階で、銀行に納税資金の融資を申し込む可能性があることを伝えておき、具体的な納税額の予測が立った段階でその額をあらためて担当者に伝えておくことが有効です。
5. 賞与資金
賞与資金とは
賞与資金とは、会社が従業員に賞与を支給するための資金需要をいいます。
一般に、賞与は半年ごとに支給される場合が多いので、賞与資金の融資は、原則として融資期間を6ヶ月とする手形貸付により行われます。
賞与資金の借り方
賞与資金は、資金使途が明確であり、融資期間が6ヶ月と短期間です。
さらに、そもそも賞与を支給できる会社は、経営成績や財政状態が良好のある会社であることが一般的です。
このため、賞与資金は、銀行にとって比較的融資がしやすい資金需要であるといえます。
とはいえ、同業他社の相場や、その会社の過去の支給額との対比等、審査はきっちりと行われますので、金額の妥当性については充分に検討しておきましょう。
賞与の支給時期直前になって融資の申込みをしても、審査の進捗によっては支給日に実行が間に合わない場合があるため、早めの対策が必要となります。
賞与資金の融資を申し込む可能性があることを、賞与支給時期と支給見込み額とともにあらかじめ銀行に伝えておくとよいでしょう。
また、賞与資金の融資を申し込む銀行は、普段から従業員の給与の振込先として使用している銀行にしましょう。
融資資金が賞与資金として用いられることが銀行に分かりますし、また融資を行った資金が自行の預金となることは銀行にとってメリットとなるためです。
6. 設備資金
設備資金とは
設備資金とは、土地、建物、車両等、事業に必要な固定資産の購入に必要な資金をいいます。
設備資金は、一般に高額となり、かつ、投下した資金の回収に時間を要することから、証書貸付により融資を受け、複数年かけて返済していくことが通常です。
設備資金の借り方
設備資金は、資金使途が明確であり、かつ、事業にとって重要性の高い資金であることから、比較的、融資を受けやすい資金使途です。
融資申し込みの際には、その設備の購入が、いかに売上の増加や経費の削減に貢献するのかを、具体的に銀行に説明することが大切です。
なお、設備資金については、購入する設備の見積書、または請求書の提出が必要となります。
また、設備資金は、一般に高額となるため、融資をした資金が確実に設備の購入に投下されるよう、あらかじめ提出した見積書や請求書どおりに振込を行うことを求められたり、領収書の提出を求められたりすることがあります。
7. 増加運転資金
増加運転資金とは
増加運転資金とは、主に、売上高の増加に伴って売上債権が増加することにより生ずる、経常運転資金の増加分をいいます。
つまり、増加運転資金も経常運転資金と同様、回収サイトよりも支払サイトが短いことにより生ずる資金需要です。
売上が増えれば仕入も増えますし、また、仕入が増えれば売上代金以外から捻出しなければならない仕入代金も増えます。
こうした経常運転資金の増加分を、特別に増加運転資金と呼ぶのです。
なお、増加運転資金への融資は、一般的には、返済期日1年以内・一括返済の手形貸付または商業手形割引という形で行われます。
増加運転資金の借り方
増加運転資金は、一般に、会社の取引規模が大きくなった時において生ずる資金需要であるため、比較的融資を受けやすい資金需要であるということができます。
経常運転資金であれ、増加運転資金であれ、その資金需要は、回収サイトよりも支払サイトのずれにより生ずる資金需要です。
つまり、
売掛金の額−買掛金の額 |
で求めた金額が大きければ大きいほど、経常運転資金や増加運転資金は大きくなります。
会社の成長に伴い、この式で求めた金額が大きくなってきた時は、借入のチャンスです。
増加運転資金への融資を申し込む際には、経常運転資金への融資の場合と同様、資金繰り表を作成し、増加した自社の売上債権の回収サイトと仕入債務の支払サイトのズレによって、いくらの資金需要が生ずるかを具体的に示すことが有効です。
また、銀行としては、売上債権が回収され、または棚卸資産が売り上げられることを前提として融資を行うわけですから、回収の見込みのない不良債権または売上の見込みのない不良在庫がないかについて確認がなされます。
したがって、あらかじめ自社でもこれらの有無を把握し、銀行に説明ができるようにしておきましょう。
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
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