取引先が倒産した場合、「売掛金はもう回収できないのだから、すぐに貸倒損失にしてよいのではないか」と考えてしまうことがあります。
しかし、税務上は、取引先が倒産したという情報だけで、売掛金が自動的に消えるわけではありません。
貸倒損失として処理できるかどうかは、破産、民事再生、会社更生、特別清算などの手続内容、配当見込み、担保や保証人の有無、取引停止後の期間などを確認して判断します。
特に金額が大きい売掛金については、貸倒損失を計上する事業年度を誤ると、税務調査で否認されるリスクがあります。
経営者
取引先が倒産したと聞きました。
その会社に対する売掛金が残っているのですが、これはもう帳簿から消してよいのでしょうか?
税理士
取引先が倒産したからといって、その時点で売掛金が自動的に消えるわけではありません。
税務上、貸倒損失として処理できる要件を満たすまでは、原則として売掛金は帳簿上残ります。
一方で、一定の要件を満たした時点では、売掛金を貸倒損失として損金処理できる可能性があります。
経営者
倒産したのに、まだ売掛金を残す必要があるのですか?
税理士
はい。
倒産といっても、破産、民事再生、会社更生、特別清算、単なる営業停止、夜逃げなど、内容はさまざまです。
また、破産手続が始まっていても、破産管財人から一部配当がある場合もあります。
そのため、「倒産した」という事実だけでは、売掛金の全額が回収不能になったとまではいえないケースがあります。
経営者
では、どのような場合に貸倒損失として処理できるのですか?
税理士
法人税基本通達では、大きく3つのパターンが整理されています。
1つ目は、法的・客観的に債権が切り捨てられた場合です。
たとえば、民事再生や会社更生の計画認可、特別清算の協定認可などにより、債権の一部が正式に切り捨てられた場合です。
この場合は、切り捨てられた金額を、その事実が発生した事業年度の貸倒損失として処理します。
経営者
正式にカットされた部分は貸倒損失にできる、ということですね。
税理士
そのとおりです。
ただし、「破産手続開始決定が出た」というだけで、直ちに全額を貸倒損失にできるとは限りません。
破産手続が始まった後でも、配当見込みがある場合や、担保・保証人から回収できる可能性がある場合には、まだ全額回収不能とはいえないことがあります。
経営者
では、全額を貸倒損失にできるのはどのような場合ですか?
税理士
2つ目のパターンとして、債務者の資産状況や支払能力などから見て、債権の全額が回収できないことが明らかになった場合があります。
この場合には、その全額回収不能が明らかになった事業年度に、貸倒損失として損金経理することができます。
ただし、担保がある場合は、その担保物を処分した後でなければ、この取扱いによる貸倒処理はできません。
経営者
全額回収不能が明らか、というのはどう判断するのですか?
税理士
非常に慎重な判断が必要です。
たとえば、破産管財人から配当見込みがない旨の通知がある、債務者にめぼしい財産がない、担保や保証人からの回収も見込めない、といった客観的な資料が重要になります。
反対に、破産手続中で配当の可能性が残っている場合などは、まだ全額回収不能が明らかとはいえない可能性があります。
したがって、単に「倒産したらしい」「連絡が取れない」というだけで、全額を貸倒損失にするのは危険です。
経営者
継続的に取引していた相手で、もう1年以上入金がない場合はどうですか?
税理士
3つ目のパターンとして、一定期間取引停止後に弁済がない場合の貸倒れがあります。
継続的な取引先について、資産状況や支払能力の悪化により取引を停止し、取引停止時、最後の弁済期、最後の弁済日のうち最も遅い時から1年以上経過した場合には、一定の条件のもと、売掛債権から備忘価額を控除した残額を貸倒損失として処理できる場合があります。
ただし、この取扱いは主に売掛債権を対象とするものです。貸付金には適用されません。
また、担保がある債権や、単発取引で生じた債権には原則として注意が必要です。
経営者
備忘価額とは何ですか?
税理士
帳簿上、債権を完全にゼロにせず、形式的に少額を残しておく金額です。
通達上は、一定期間取引停止後に弁済がない場合などに、売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒損失として処理できる取扱いがあります。
実務では、たとえば1円を備忘価額として残す処理が行われることがあります。
ただし、どの債権にも使えるわけではありません。継続取引先かどうか、取引停止日や最後の入金日から1年以上経過しているか、担保がないかなどを確認する必要があります。
経営者
取引先が破産したと聞いたので、決算で売掛金500万円を全部貸倒損失にしたいです。
税理士
その判断は、資料を確認しないと危険です。
破産手続開始決定が出ているだけでは、まだ配当があるかどうか分からないことがあります。
破産管財人からの通知、配当見込み、債権届出の状況、担保や保証人の有無などを確認したうえで、どの事業年度に貸倒損失として処理できるかを判断します。
金額が大きい場合は、特に慎重に確認してください。
経営者
貸倒損失にするためには、どのような資料を残しておけばよいですか?
税理士
最低限、倒産や回収不能の状況を説明できる資料を保存しておく必要があります。
たとえば、裁判所からの通知、破産管財人からの書類、再生計画、更生計画、債権届出書、配当通知、督促記録、取引停止日が分かる資料、最後の入金日が分かる資料などです。
税務調査では、「なぜその事業年度に貸倒損失として処理したのか」を説明できることが重要です。
経営者
個人事業主の場合も同じですか?
税理士
基本的な考え方は近いですが、個人事業主の場合は法人税ではなく所得税の取扱いになります。
所得税法では、事業の遂行上生じた売掛金などの債権について貸倒れによる損失が生じた場合、その損失が生じた年分の事業所得などの必要経費に算入する取扱いがあります。
ただし、今回の記事では主に法人を前提にしています。個人事業主の場合も、回収不能になった時期や証拠資料の確認は必要です。
経営者
結局、取引先が倒産したら、まず何をすればよいですか?
税理士
まず、「倒産」の具体的な内容を確認してください。
破産手続開始なのか、民事再生なのか、会社更生なのか、特別清算なのか、単なる営業停止なのかで判断が変わります。
次に、裁判所や破産管財人などから届いている書類、最後の入金日、最後の弁済期、取引停止日、担保や保証人の有無、配当見込みを確認します。
そのうえで、法人税基本通達9-6-1、9-6-2、9-6-3のどの類型で処理できるのかを判断します。
取引先が倒産した日と、貸倒損失にできる日は必ずしも同じではありません。
町田・相模原で売掛金の貸倒れに不安がある方へ
取引先の倒産は、資金繰りにも税務処理にも大きな影響があります。
特に、売掛金の金額が大きい場合、貸倒損失を計上する時期を誤ると、税務調査で否認されるリスクがあります。
また、破産、民事再生、会社更生、特別清算など、手続の種類によって確認すべき資料も変わります。
町田・相模原で、売掛金の貸倒処理、資金繰り、決算前の税務判断に不安がある方は、タクスリンク税理士事務所にご相談ください。
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要点
主な根拠
※本記事は、一般的な税務上の取扱いを解説したものです。実際に貸倒損失を計上できる事業年度は、倒産手続の内容、回収可能性、担保や保証人の有無、証拠資料の内容によって異なります。金額が大きい場合や決算期をまたぐ場合は、個別確認が必要です。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。
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