社長が会社にお金を貸している場合、貸借対照表には「役員借入金」などとして計上されていることがあります。
会社の資金繰りが苦しくなったときに、
「どうせ返せないなら、社長が貸付金を放棄すればよいのではないか」
と考えることがあります。
しかし、社長貸付金の放棄は、単なる社内整理ではありません。
会社側では債務免除益が生じる可能性があり、他の株主がいる場合には、株主間のみなし贈与まで問題になることがあります。
経営者
社長が会社への貸付金を放棄したら、会社に税金がかかりますか?
税理士
原則として、会社に税金がかかる可能性があります。
社長が会社に対する貸付金を無償で放棄すると、会社は返済しなくてよくなる経済的利益を受けます。
そのため、会社側では「債務免除益」として益金に計上するのが原則です。
経営者
社長からの借入金を返さなくてよくなるだけですよね。
それでも会社の利益になるのですか?
税理士
はい。
たとえば、会社が社長から3,000万円を借りていたとします。
その3,000万円について、社長が「もう返さなくてよい」と債権放棄した場合、会社は3,000万円の返済義務から解放されます。
この返済義務が消える利益が、法人税上の債務免除益です。
法人税法22条2項は、資本等取引以外の取引による収益を益金とする規定です。社長が株主であっても、社長貸付金を放棄しただけで当然に資本取引になるわけではありません。
経営者
では、社長借入金3,000万円を放棄したら、3,000万円にそのまま法人税がかかるのですか?
税理士
必ずしもそうではありません。
債務免除益3,000万円が発生しても、会社に税務上の繰越欠損金が残っていれば、その欠損金と相殺できる場合があります。
たとえば、債務免除益が3,000万円あり、利用できる繰越欠損金も3,000万円以上ある場合には、他の所得や損金を無視すれば、課税所得が残らない可能性があります。
ただし、ここで確認すべきなのは、会計上の累積赤字ではなく、法人税申告書の別表七(一)に記載されている税務上の繰越欠損金です。
経営者
会社が債務超過なら、債務免除益に税金はかからないと聞いたことがあります。
税理士
そこは誤解しやすいところです。
会社が債務超過であることだけで、債務免除益が自動的に非課税になるわけではありません。
まず債務免除益を認識し、そのうえで繰越欠損金その他の税務調整を行って、最終的な法人税の課税所得を計算します。
つまり、
「債務超過だから税金はかからない」
ではなく、
「債務免除益が出る。ただし、利用できる欠損金があれば課税所得を圧縮できることがある」
という整理です。
経営者
会社更生や民事再生のような場合は、期限切れの欠損金も使えると聞いたことがあります。
税理士
会社更生、民事再生、一定の合理的な私的整理などでは、法人税法59条による欠損金の特例が問題になることがあります。
ただし、これは単にオーナー社長が自分の判断で会社への貸付金を放棄するだけで、当然に使える制度ではありません。
国税庁通達でも、多数の債権者の協議によって恣意性なく合理的に決定された資産整理などを想定しており、親子会社間で債権を単に免除するようなものとは区別されています。
そのため、社長一人の債権放棄について、法人税法59条の特例を安易に前提にするのは危険です。
経営者
社長が100%株主なら、会社の法人税だけ見ればよいですか?
税理士
社長が100%株主であれば、少なくとも他の株主への価値移転という問題は基本的に生じません。
ただし、それでも会社側の債務免除益、繰越欠損金、社長個人側の貸付金放棄の扱い、債権放棄契約書の作成などは確認が必要です。
特に、会社側で欠損金が十分に残っているかどうかは、債権放棄前に必ず試算すべきです。
経営者
社長以外にも、家族が株主になっている場合はどうなりますか?
税理士
その場合は、贈与税の論点が出ます。
同族会社で、社長が会社への貸付金を放棄することによって会社の純資産価値が改善し、他の株主が持っている株式の価値が上昇した場合、その価値上昇部分について、社長から他の株主への贈与とみなされる可能性があります。
相続税法基本通達9-2では、対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合に、株式又は出資の価額が増加したときは、その増加部分を贈与により取得したものとして取り扱う旨が示されています。
経営者
たとえば、社長80%、子ども20%の会社で、社長が3,000万円を放棄したら、子どもに600万円の贈与ですか?
税理士
単純に、
債務免除額 × 他株主の持株割合
で計算するわけではありません。
問題になるのは、債務免除によって実際に株式価値がどれだけ増加したかです。
たとえば、会社が深い債務超過で、社長が貸付金を放棄してもなお株式価値がゼロ相当のままであれば、他の株主に実質的な価値移転が生じない可能性があります。
一方、債務免除によって株式評価額がプラスに転じる場合や、他の株主の株式価値が明確に増加する場合には、みなし贈与の検討が必要です。
経営者
社長個人側では、貸付金を放棄した損失を経費にできますか?
税理士
そこも別途確認が必要です。
今回の中心は会社側の債務免除益と、他の株主へのみなし贈与ですが、社長個人側でも、放棄した貸付金について所得税上どのように扱うかを検討する必要があります。
少なくとも、会社に貸したお金を放棄したからといって、社長個人が自由に経費や損失として処理できると考えるのは危険です。
社長個人側の所得区分、貸付の経緯、会社との関係、回収不能性などを確認する必要があります。
経営者
実際に放棄する前には、何を確認すべきですか?
税理士
最低限、次の資料を確認します。
まず、放棄する貸付金額、元本だけなのか未払利息も含むのか、会社の直前期の貸借対照表、債務免除直前の実態純資産、法人税申告書別表七(一)の繰越欠損金残高を確認します。
次に、会社が中小法人等に該当するか、法人税法57条の欠損金控除をどこまで使えるか、法人税法59条の再生関連特例を使える事実関係があるかを確認します。
さらに、株主構成、社長以外の株主の有無、持株割合、債務免除前後の株式評価額を確認します。
そのうえで、法人税と贈与税を試算し、債権放棄契約書の日付、金額、対象債権を明確にしてから実行すべきです。
経営者
貸付金を消したいだけなのですが、先に放棄してから申告時に考えるのは危険ですか?
税理士
危険です。
社長貸付金の債権放棄は、会社の法人税、欠損金、株主間のみなし贈与、社長個人側の税務が同時に絡みます。
特に、他の株主がいる会社では、会社の税金だけでなく、他の株主への贈与税まで試算しないといけません。
債権放棄をした後に税額を確認するのではなく、実行前に、
債務免除益
利用できる繰越欠損金
法人税の有無
債務免除後の株式評価額
他株主のみなし贈与額
を順番に確認する必要があります。
町田・相模原で社長貸付金の整理にお悩みの方へ
社長貸付金は、中小企業の決算書に残りやすい項目です。
しかし、安易に債権放棄をすると、会社側の債務免除益、繰越欠損金の利用可否、他の株主へのみなし贈与、金融機関評価への影響が問題になります。
町田・相模原で、社長貸付金、役員借入金、債務超過会社の整理、法人成り後の資金管理に不安がある方は、タクスリンク税理士事務所にご相談ください。
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要点
主な根拠
※本記事は、一般的な税務上の取扱いを解説したものです。実際の処理は、債務免除額、繰越欠損金残高、会社の実態純資産、再生手続の有無、株主構成、債務免除前後の株式評価額などにより異なります。債権放棄を実行する前に、法人税と贈与税の両方を試算してください。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。




