消費税の計算方法には、大きく分けて本則課税と簡易課税があります。
本則課税は、売上に係る消費税額から、実際に控除できる仕入税額を差し引いて納税額を計算する方法です。
簡易課税は、実際の仕入や経費に含まれる消費税を一つずつ計算するのではなく、売上に係る消費税額に一定のみなし仕入率を掛けて、仕入税額控除額を計算する方法です。
どちらが得かは、業種名だけでは決められません。
重要なのは、実際に控除できる仕入税額の割合と、簡易課税のみなし仕入率を比較することです。
経営者
簡易課税と本則課税は、どちらが得ですか?
業種ごとに有利不利が決まっているのでしょうか?
税理士
業種だけで決めるのは危険です。
基本的には、次の2つを比較します。
実際に控除できる仕入税額 ÷ 売上に係る消費税額
これと、簡易課税のみなし仕入率を比べます。
実際の仕入税額控除率がみなし仕入率より低ければ、簡易課税が有利になりやすいです。
逆に、実際の仕入税額控除率がみなし仕入率より高ければ、本則課税が有利になりやすいです。
経営者
本則課税と簡易課税では、計算方法がどう違うのですか?
税理士
本則課税は、売上で預かった消費税から、実際に支払って控除できる消費税を差し引いて計算します。
本則課税のイメージは、次のとおりです。
売上税額 − 実際に控除できる仕入税額
一方、簡易課税は、実際の仕入や経費に含まれる消費税ではなく、売上税額に事業ごとのみなし仕入率を掛けて控除額を計算します。
簡易課税のイメージは、次のとおりです。
売上税額 − 売上税額 × みなし仕入率
つまり、簡易課税では実際にいくら仕入れたかではなく、売上税額と事業区分によって税額が決まります。
経営者
みなし仕入率とは何ですか?
税理士
簡易課税で使う、事業区分ごとの仕入税額控除率です。
消費税法施行令では、主に次の区分になっています。
第1種事業、卸売業は90%です。
第2種事業、小売業等は80%です。
第3種事業、製造業・建設業等は70%です。
第4種事業、飲食店業などその他の事業は60%です。
第5種事業、サービス業等は50%です。
第6種事業、不動産業は40%です。
たとえば第5種事業であれば、売上税額の50%を仕入税額として控除したものとみなします。
経営者
具体例でいうと、どうなりますか?
税理士
たとえば、コンサルティング会社などの第5種事業を考えます。
第5種事業のみなし仕入率は50%です。
売上に係る消費税額が100万円で、実際に控除できる仕入税額が30万円だったとします。
この場合、本則課税では、100万円から30万円を引いて、納税額は70万円です。
一方、簡易課税では、100万円の50%である50万円を控除したものとして計算します。したがって、100万円から50万円を引いて、納税額は50万円です。
このケースでは、簡易課税の方が20万円有利です。
経営者
逆に、本則課税が有利になることもありますか?
税理士
あります。
同じ第5種事業でも、売上に係る消費税額が100万円で、実際に控除できる仕入税額が70万円ある場合を考えます。
本則課税では、100万円から70万円を引いて、納税額は30万円です。
簡易課税では、第5種のみなし仕入率50%で計算するため、納税額は50万円です。
この場合は、本則課税の方が20万円有利になります。
設備投資、外注費、広告費、家賃、システム利用料など、課税仕入れが多い会社では、本則課税の方が有利になることがあります。
経営者
では、経費率が高ければ本則課税が有利という理解でよいですか?
税理士
そこは注意が必要です。
消費税で見るべきなのは、決算書上の経費率ではありません。
給与、賞与、社会保険料、租税公課の一部などは、通常、消費税の仕入税額控除を生じません。
一方、外注費、広告宣伝費、家賃、備品購入、設備投資などには、課税仕入れとなるものがあります。
同じ500万円の支出でも、社員への給与500万円と、外注先への業務委託費500万円では、消費税上の扱いがまったく違います。
そのため、単純に「経費が多いから本則課税」と判断するのは危険です。
経営者
簡易課税を使える条件はありますか?
税理士
あります。
簡易課税は、原則として基準期間の課税売上高が5,000万円以下である課税期間に使える制度です。
法人の場合は、原則として前々事業年度が基準期間です。
個人事業者の場合は、原則として前々年が基準期間です。
現在の売上高ではなく、基準期間の課税売上高で判定する点に注意してください。
また、簡易課税制度選択届出書を提出していても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える課税期間には簡易課税を使えません。
その後、基準期間の課税売上高が5,000万円以下に戻った場合、不適用届出書を提出していなければ、再び簡易課税が適用されることがあります。
経営者
簡易課税は、申告のときに有利な方を選べますか?
税理士
原則として、申告時に自由に選べる制度ではありません。
簡易課税を適用したい場合は、原則として、適用したい課税期間の初日の前日までに、消費税簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。
また、一度簡易課税を選択すると、原則として2年間は取りやめできません。
そのため、今年だけの数字で判断するのではなく、少なくとも2年から3年先まで見て判断する必要があります。
経営者
簡易課税が有利になりやすいのは、どのような会社ですか?
税理士
典型例は、人件費中心のサービス業です。
たとえば、士業、コンサルティング業、講師業、ITサービス業などで、売上に対して給与や役員報酬の割合が高く、外注費や設備投資が少ない会社です。
第5種事業のみなし仕入率は50%ですが、給与や賞与には通常、仕入税額控除がありません。
そのため、実際の仕入税額控除率が50%を下回り、簡易課税が有利になるケースがあります。
ただし、同じサービス業でも、外注費が多い会社では本則課税が有利になる可能性があります。
経営者
本則課税が有利になりやすいのは、どのような場合ですか?
税理士
大きな設備投資がある年度です。
たとえば、店舗を出す、車両を買う、機械を買う、建物を取得する、大型の広告投資をする、といった場合です。
本則課税であれば、要件を満たす課税仕入れに係る消費税を実額で控除できます。
売上税額より仕入税額の方が大きい場合には、消費税の還付になることもあります。
一方、簡易課税では、実際に多額の設備投資をしても、控除額は売上税額にみなし仕入率を掛けた金額で決まります。
そのため、大型投資の直前に簡易課税を選択する判断は、非常に慎重に行う必要があります。
経営者
輸出をしている会社はどうですか?
税理士
輸出取引がある会社は、本則課税を強く検討します。
輸出取引は消費税が免税となる一方で、国内で支払った一定の仕入消費税について、本則課税であれば控除や還付の対象になり得ます。
国内で仕入れて海外へ販売する事業や、越境ECなどでは、消費税還付の可能性があります。
簡易課税を選んでしまうと、実際の仕入税額に基づく還付が受けられないため、輸出がある場合は必ず還付試算を行う必要があります。
経営者
非課税売上が多い場合も注意が必要ですか?
税理士
注意が必要です。
本則課税では、課税売上高が5億円を超える場合や、課税売上割合が95%未満の場合には、支払った消費税を全額そのまま控除できるわけではありません。
個別対応方式や一括比例配分方式などにより、控除できる仕入税額を計算します。
居住用賃貸不動産、土地の譲渡や貸付け、金融取引、医療などの非課税売上が多い場合は、「支払った消費税が多いから本則課税が有利」と単純には判断できません。
経営者
インボイス制度も、本則課税と簡易課税の有利不利に関係しますか?
税理士
関係します。
本則課税では、原則として仕入税額控除を受けるために、一定事項を記載した帳簿と適格請求書等の保存が必要です。
そのため、仕入先や外注先がインボイス登録事業者かどうかが、控除できる消費税額に影響します。
一方、簡易課税では、実際の仕入税額ではなく、売上税額にみなし仕入率を掛けて控除額を計算します。
そのため、仕入税額控除額の計算については、仕入先がインボイス登録事業者かどうかの影響を受けにくいという特徴があります。
免税事業者や非インボイス事業者への外注が多い会社では、相対的に簡易課税が有利になる可能性があります。
経営者
インボイス制度の2割特例も比較した方がよいですか?
税理士
対象になる場合は、必ず比較します。
インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者になった一定の事業者には、納付税額を売上税額の2割とする2割特例があります。
これは、税額だけで見ると、実質的にみなし仕入率80%に近い効果があります。
そのため、対象者については、本則課税、簡易課税、2割特例の3パターンで比較する必要があります。
ただし、本則課税で実際の仕入税額控除率が80%を超えるような場合には、本則課税の方が2割特例より有利になる可能性もあります。
経営者
2027年以降はどうなりますか?
税理士
制度改正や経過措置の確認が必要です。
ご自身が個人事業者か法人か、いつインボイス登録をしたか、どの課税期間が対象かによって、2割特例やその後の経過措置の適用関係が変わります。
そのため、2026年以後の比較では、旧制度や古い経過措置の前提で試算しないことが重要です。
公開されている最新の国税庁資料や届出状況を確認したうえで、本則課税、簡易課税、2割特例、今後の特例を横並びで試算します。
経営者
簡易課税の事業区分は、会社の業種で一つに決まるのですか?
税理士
会社全体で一律に決めるわけではありません。
消費税基本通達では、原則として課税資産の譲渡等ごと、つまり取引ごとに事業区分を判定するとされています。
同じ会社でも、商品の卸売は第1種、商品の小売は第2種、製造販売は第3種、飲食店は第4種、コンサル業務は第5種、不動産業は第6種というように、複数の区分が混在することがあります。
2種類以上の事業を営む場合には、原則として事業区分ごとに売上を分けて計算します。
区分していない売上については、不利なみなし仕入率が適用されることがあるため、簡易課税を使う場合ほど、売上段階から事業区分を正確に設定することが重要です。
経営者
固定資産を売った場合も、事業区分に注意が必要ですか?
税理士
必要です。
消費税基本通達では、自己使用していた固定資産等を売却する取引は、原則として第4種事業とされています。
たとえば、第5種事業のコンサル会社が事業用車両を売却した場合、その車両売却まで第5種にするわけではなく、原則として第4種として判定します。
車両、機械、店舗設備などの売却額が大きい年度は、簡易課税の税額に意外に大きく影響することがあります。
経営者
結局、どのような手順で判断すればよいですか?
税理士
次の順序で判断するのが安全です。
まず、そもそも消費税の課税事業者かどうかを確認します。
次に、簡易課税を使えるか、基準期間の課税売上高5,000万円以下の要件と届出状況を確認します。
そのうえで、売上税額、実際に控除できる仕入税額、簡易課税のみなし仕入税額を計算します。
対象になる場合は、2割特例などの特例も比較します。
さらに、今後2年から3年の設備投資、外注化、採用、輸出、非課税売上、高額特定資産の取得予定も確認します。
最後に、本則課税、簡易課税、2割特例などを横並びにして、最低2年から3年分の税額と資金繰りへの影響を比較します。
町田・相模原で消費税の計算方法に迷っている方へ
簡易課税と本則課税の選択は、単純に「サービス業だから簡易」「経費が多いから本則」と決めるものではありません。
実際に控除できる仕入税額、みなし仕入率、インボイスの有無、設備投資、輸出、非課税売上、届出期限を総合的に確認する必要があります。
特に、簡易課税は一度選択すると原則として2年間は取りやめできないため、来期以降の投資予定まで含めた判断が必要です。
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要点
主な根拠
※本記事は、一般的な税務上の取扱いを解説したものです。実際の判断は、課税売上高、届出状況、事業区分、インボイス登録状況、仕入税額控除の可否、設備投資予定、輸出・非課税売上の有無などにより異なります。消費税の計算方法の選択は税額への影響が大きいため、実際に選択する前に税理士へ確認してください。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。
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