免税事業者だった期間中に仕入れた商品等が、課税事業者になる日の前日に在庫として残っている場合、その在庫に含まれる消費税相当額を、課税事業者となった課税期間の仕入税額控除の対象にできる特例があります。
たとえば、前年まで免税事業者だった事業者が、今年から課税事業者になった場合、前年以前に仕入れた商品が今年の開始直前に在庫として残っていれば、その在庫について消費税の調整を行える可能性があります。
ただし、対象になるのは、あくまで課税事業者になる直前に実際に残っている棚卸資産です。すでに免税期間中に販売した商品や、固定資産についてまで、この期首棚卸資産の特例で控除できるわけではありません。
経営者
前年まで免税事業者でした。
今年から課税事業者になったのですが、前年から残っている在庫の消費税は控除できますか?
税理士
はい。一定の条件を満たせば、控除できる可能性があります。
免税事業者だった期間中に仕入れた商品や原材料などが、課税事業者になる日の前日に在庫として残っている場合、その在庫に係る消費税額を、課税事業者になった課税期間の仕入税額控除の計算に含めることができます。
これは、免税事業者が課税事業者になった場合の棚卸資産に係る消費税額の調整という制度です。
経営者
前年に仕入れた商品だけが対象ですか?
2年前に仕入れて、まだ残っている商品はどうなりますか?
税理士
ポイントは、前年に仕入れたかどうかではありません。
免税事業者だった期間中に仕入れた棚卸資産で、課税事業者になる日の前日に実際に在庫として残っているかどうかが重要です。
そのため、2年前に仕入れた商品でも、免税期間中に取得したもので、課税事業者になる直前にまだ棚卸資産として残っていれば、対象になり得ます。
逆に、前年に仕入れていても、課税事業者になる前にすでに販売済み、使用済み、消費済みであれば対象になりません。
経営者
具体的には、どのような在庫が対象になりますか?
税理士
対象になるのは、販売用の商品だけではありません。
商品、製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵中の消耗品など、棚卸資産に該当するものが対象になります。
たとえば、小売業の商品在庫、製造業の原材料や仕掛品、飲食店の食材在庫などが考えられます。
ただし、機械、車両、パソコンなどの固定資産は、この期首棚卸資産の特例の対象ではありません。
経営者
なぜ、免税事業者だったときに仕入れた在庫の消費税を、あとから控除できるのですか?
税理士
理由は、課税事業者になった後にその在庫を販売すると、売上について消費税の納税が発生するためです。
免税事業者だったときに商品を仕入れた段階では、仕入税額控除を受けていません。
その商品が課税事業者になった後に販売されると、売上に係る消費税を納めることになります。
このままだと、仕入れに含まれていた消費税が調整されないため、消費税法では、課税事業者になる直前に残っている棚卸資産について、一定の調整を認めています。
経営者
計算はどのようなイメージですか?
税理士
たとえば、12月31日まで免税事業者で、翌年1月1日から一般課税の課税事業者になるとします。
12月31日時点で、税込110万円で仕入れた10%対象の商品在庫が残っている場合、国税部分については、おおむね次のように計算します。
110万円 × 7.8 ÷ 110 = 7万8,000円
地方消費税まで含めて考えると、通常の10%対象取引については、実質的には10万円相当の消費税負担を調整するイメージです。
ただし、実際の申告では、税率区分、取得価額、付随費用、棚卸評価方法などを確認して計算します。
経営者
前年に税込110万円で仕入れて、半分を前年中に売って、半分が残っている場合はどうなりますか?
税理士
課税事業者になる直前に残っている部分だけが対象です。
たとえば、前年に税込110万円の商品を仕入れ、年末までに55万円分を販売し、課税事業者になる直前に55万円分が在庫として残っている場合、対象になるのは残っている55万円分です。
すでに免税期間中に販売した55万円分についてまで、あとから仕入税額控除を受けることはできません。
経営者
この特例を使うには、どのような書類が必要ですか?
税理士
対象となる棚卸資産について、明細を記録した書類を保存する必要があります。
実務上は、課税事業者になる直前日の棚卸表に、少なくとも次の内容を整理しておくべきです。
商品名、数量、単価、税込取得価額、税率区分、仕入年月日、仕入先、取得付随費用です。
消費税法施行令では、品名、数量、取得に要した費用の額の明細を記録した書類の保存が求められています。
保存がない場合、災害その他やむを得ない事情がある場合を除き、この調整を受けられない可能性があります。
経営者
取得価額には、商品の購入代金だけを入れればよいですか?
税理士
商品の購入代金だけとは限りません。
棚卸資産の取得価額には、課税仕入れに該当する引取運賃、荷役費、購入のために要した費用、販売等の用に供するため直接要した費用などが含まれる場合があります。
そのため、商品代金だけを見て機械的に計算するのではなく、取得付随費用があるかも確認します。
経営者
棚卸金額は、普段使っている棚卸評価方法で計算してもよいですか?
税理士
消費税法基本通達では、免税期間中に取得した棚卸資産について、個々の棚卸資産の課税仕入れに係る支払対価の額を基礎として消費税額を算出する考え方が示されています。
また、事業者が通常使用している棚卸資産の評価方法による評価額を基礎とすることも、一定の場合には認められるとされています。
したがって、最終仕入単価だけで全品を機械的に計算するのではなく、普段採用している棚卸評価方法との整合性も確認します。
経営者
簡易課税を使う場合でも、この在庫の消費税を控除できますか?
税理士
ここは注意が必要です。
この棚卸資産の調整は、実際の仕入税額を計算する一般課税と相性がよい制度です。
一方、簡易課税は、実際の仕入税額を積み上げるのではなく、売上に係る消費税額にみなし仕入率を掛けて納税額を計算します。
そのため、簡易課税や2割特例を使う場合には、この期首棚卸資産の調整による控除メリットをそのまま受ける一般課税とは計算構造が異なります。
課税事業者になる理由、申告方式、在庫金額を確認したうえで判断する必要があります。
経営者
高額な在庫がある場合は、何か注意点がありますか?
税理士
高額な棚卸資産がある場合は、特に慎重に確認してください。
一取引単位で税抜1,000万円以上となる一定の棚卸資産について、この棚卸調整を受ける場合、その後の免税制度や簡易課税制度の適用に制限が生じる可能性があります。
高額商品、不動産販売業の販売用物件、高額な原材料などがある場合は、初年度の控除額だけでなく、翌期以降の消費税負担まで含めて判断する必要があります。
経営者
では、実務上はまず何を準備すればよいですか?
税理士
まず、課税事業者になる直前日の棚卸表を作成してください。
そのうえで、免税期間中に取得した棚卸資産だけを抽出します。
次に、商品名、数量、取得価額、税率区分、仕入年月日、仕入先、取得付随費用を整理します。
10%対象と軽減税率8%対象は分けてください。
固定資産を混ぜないこと、簡易課税や2割特例を使うかどうか、高額特定資産に該当するものがないかも確認が必要です。
町田・相模原で消費税の課税事業者への切替に不安がある方へ
免税事業者から課税事業者になるタイミングでは、売上だけでなく、期首在庫、インボイス登録、簡易課税、2割特例、高額特定資産などをまとめて確認する必要があります。
特に、商品在庫や原材料を多く抱える事業者では、課税事業者になる直前の棚卸表をきちんと作成しておかないと、本来受けられるはずの仕入税額控除を逃してしまう可能性があります。
一方で、高額な棚卸資産がある場合は、初年度の控除だけを見て判断すると、翌期以降の免税・簡易課税制限で不利になることもあります。
町田・相模原で、免税事業者から課税事業者への切替、インボイス登録、消費税申告、期首棚卸資産の整理に不安がある方は、タクスリンク税理士事務所にご相談ください。
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要点
主な根拠
※本記事は、一般的な税務上の取扱いを解説したものです。実際の処理は、課税事業者となる日、棚卸資産の内容、取得時期、税率区分、棚卸評価方法、申告方式、インボイス登録の有無、高額特定資産の有無などにより異なります。
Author Profile
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起業支援と財務コンサルティングが得意な税理士。
これまでの最高調達支援額は10億円。
町田・相模原エリア初の「決算料0円、月額10,000円~の税務顧問×創業融資支援0円×会社設立手数料0円の起業支援プラン」をリリース。
上智大学法学部法律学科卒。




